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愚者たちの行進  作者: 春香秋灯
王国の悪魔
19/67

公国

 王都より北には、公国との国境がある。公国は、常に王国を領土にしようと戦争をしかけてきた。

 レオニード国王は、それを武力で押しとどめ、ついでに領土をさらに北の山脈地帯にまで推し進めて、停戦協定を結んだ。一応、レオニード国王が亡くなるまで、の条件の停戦協定だった。

 私が学校に通う年頃で、国王が崩御したことで、公国側から宣戦布告が国境地帯の監視塔に投げられた。

 早馬で公国側の書状は届けられ、王国は、緊迫した。

 これから、新しい国王に代替わりするための祭典やらなにやら準備をする、という議会が進めているところに、こんな悪い報せだ。絶対に王国側にスパイがいるに違いない。

 私は、まだ回復していなかったが、公国の報せは再び護衛騎士となったリカルドから聞いた。

「通例では、戦線には国王が立つこととなっていますが、まだ、王位継承の儀式は行われていない今、どうするのやら」

「今は、国王代理は兄上ですし、通例通り、兄上が戦線に立つのが、国王の役目ですが、裏技を使いましょう」

 私としては、兄上を危険な戦線になど、行かせるつもりはなかった。

 体は万全よりほど遠い私だが、仕える駒は多い。公国には、早々に、退場してもらう。

 私は、リカルドを連れて、地下牢に向かった。

 地下牢には、わけありの罪人が閉じ込められていた。その一角に用があった。

「お久しぶりですね、元筆頭魔法使い殿」

「………この、化け物が」

 地下牢に、帝国の魔法使いが捕らえられていた。この男、実は、私が王妃様に捕らえられる一役を担っていた。

 私はよくわからないが、妖精憑きを封じる何かを離宮の一角に施したらしい。そのため、妖精の力が及ばず、私は狂気に飲まれてしまった。

 もともと、離宮は、国王の支配が及ぶように魔法がかけられている。国王が父から兄上にかわることで、全ての支配が兄上へと塗り替えられた。お陰で、私は離宮から出られるようになったのだ。

 この、私を封じる魔法が帝国の魔法使いであることがわかり、帝国側に抗議した。そして、一時的にだが、その魔法をほどこした魔法使いを王国側で拘束することとなった。

 その魔法使いが、まさか、帝国の筆頭魔法使いであったのには、驚いた。

「化け物とは傷つきます。あなたのせいで、私は女性嫌いになりましたよ。帝国の皇女様との婚約は一生、不可能ですね」

「結婚など、するつもりは最初からなかっただろう」

「いや、王族の義務なので、王命あれば、誰とでも結婚しますし、子作りだってしますよ。ほら、王族の血、絶やしちゃいけないから」

「………そうか、すまん」

「わかればいいんです」

 私の王族としての心構えをバカにしないでほしい。理解してもらえたので、私としては満足である。

 元筆頭魔法使いは、物珍しいように私を見上げた。

「お前は、王族、というより、人として、何か欠けておるな」

「そういう話は、いろんな人から聞いたのでいいです。それより、公国のことについて話し合いましょう。残念なことに、公国のこと、それほど勉強していないので」

「我々が知っていることは、それほどでもないぞ。公国との戦争も、遥か昔の話だしな」

「それでも、帝国は、大陸から公国を追い出したではないですか」

「帝国は魔法使いと妖精憑きでごり押ししただけだ」

「そこの所を教えてください」

「公国のことは、魔法使いでも、上のほうの者しか教えられない、それほど、秘密が多い国だ」





 公国と帝国には大きな違いがあるという。


 戦争の仕方でいえば。

 帝国は、剣と魔法で戦う。

 公国は、銃と科学で戦う。


 生活も違う。

 帝国は、牧歌的で、神に祈るような生活をする。

 公国は、科学の力で資源を削り、作り変え、便利な生活をする。


 公国は、いくつかの王国が同盟を組み、一つの国となったが、国王や皇帝がいない。公国では、国民すべてが選んだ代表者が期限を決めて国を治めることとなっている。そして、誰もが学ぶ権利が与えられ、無償で勉学が出来るという。そのため、知識水準も高い。

 公国には聖域のようなものはない。あるのは、科学の信仰である。神の信仰はなくなったという。

 そのため、大地を削り、海を荒らし、川の流れまで変えて、人に合わせた国作りをしていた。


 公国は、帝国が治める地にもあった。いくつかの国が力をあわせて、帝国を滅ぼし、銃と科学で戦う国にしようとした。

 しかし、聖域と妖精に重きを置き、信仰としていた帝国は、公国側の領地を全て、妖精の力で塗り替え、科学を使えなくしてしまった。結果、公国は、海を渡って、王国側にある公国に逃げるしかなかった。





「今では、科学とやらを知る者は、帝国にはいない。それどころか、公国の話は、帝国でも、皇族や一部の貴族でしか語り継がれないようになっておる」

「私には、帝国の戦い方も公国の戦い方も想像出来ないのですが、公国は強いですか?」

「強いが、人は神には勝てぬよ」

「そこですよ。私は妖精憑きや魔法使いがわかりません。だから、公国に勝てるとは思えないのです。なのに、父上は公国に勝った。記録がないので、想像がつきません」

「お前は、最強の妖精憑きだ。お前が願えば、全て叶う」

「例えば?」

「お前が国王の死を望めば、すぐだったろう。何故、国王の死を望まなかった?」

「何故って、何故、父上の死を望まないといけないのですか?」

 彼が言っている意味が理解できない。ここが、私が人として欠けているのだろう。

「私はこう見えても王族です。父上が死ぬ時期がまだまだ早いことくらい、理解しています。兄上は学校に通っている途中でしたし、私は学校に通う前でした。せめて、父上が亡くなるなら、兄上が成人して、結婚して、子ども一人でもいるくらいになら、望みますよ」

「随分と先に願うのだな」

「私は、王国のためには、産みの母の幸せなど二の次ですよ。父上は、産みの母に執着しすぎること以外では、優秀な為政者です。公国も、父上が生きている内は停戦する、と条約を結んだのですから、出来るだけ長く生きてもらいたいです。戦争は人を死なせます。しないですむほうがいいでしょう」

 王族としては間違っていない考え方である。しかし、人としては間違っている。

 私から紡がれるとんでもない話に、リカルドは苦痛に顔を歪めた。

「それで、私が願えば、全て妖精が叶えるというのですね。しかし、私が願うことは、全て、王国のためのことだ」

「心から願うことはないのか?」

「心から………兄上と王妃様が幸せであればいい、とは思う。あの方たちは、幸せになるべきだ」

「だから、これまで、妖精たちは悪さをしなかったわけか。その気持ちを忘れないようにしろ。話は終わっただろう」

「いや、まだある。力を貸してほしい。私では妖精憑きの力はうまく使えないだろう。だから、あなたがやってほしい」

 私はリカルドに命じて、地下牢の鍵をあけさせた。

 せっかくなので、帝国の元筆頭魔法使いの実力を見てみたかった。

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