心の病
産みの母の元婚約者・リカルドは、一時的にだが、私の護衛をする騎士となった。私としては、リカルドを応援したい。産みの母が自由に出来るように、協力することとなった。
リカルドを傍に置くことを反対したのは、やはり、国王だった。産みの母のことを諦めないリカルドのことを警戒していた。
「リカルドは、団長と並ぶ剣の腕があると言います。私は勉学だけでなく、剣の腕を伸ばしたいのです。良いですよね、王妃様」
「私が許しましょう」
王妃様の一言で、国王は黙り込んだ。
こうして、リカルドは私の護衛騎士となった。
しかし、一時的、護衛騎士の期間は、ものすごく短かった。
別に、リカルドが悪かったわけではない。不幸なことが起こってしまっただけだ。
騎士団の修練から戻る途中、国王の姿を見かけた。向かう先は離宮。産みの母がいる所だ。
居る場所はわかっているが、かなり厳重に警備されているとかで、出入りは不可能だ。リカルドは幾度となく試したが、髪の毛一つ、入り込む隙がなかったという。
一体、どういう仕掛けになっているのか、その当時の私は知らなかった。たぶん、知っていたら、リカルドと産みの母は、もっと早く離宮から逃げていただろう。
国王の興味は産みの母しかなく、私も兄上も、ただの国を治める道具である。その冷たい考えは、私の中にもあった。しかし、王妃様と兄上のお陰で、人間らしき感情を持てるようになっていた。たぶん、国王にとって、それは、私の産みの母なのだろう。
「王妃様も、あなたのことをもっと見ているというのに」
「レオニード様?」
国王とは逆の方に、王妃様がいた。レオニードは、国王の名だ。国王の後ろ姿に呼びかけたのだろう、そう思ったので、私は道を譲る。
ところが、王妃様は私をまっすぐ見つめ、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「レオニード様、こんなに汗をかいて、風邪をひいてしまいますわ」
「王妃様?」
綺麗な刺繍がされたハンカチで、私の汗を拭う。私は成長がはやく、学園に通う前だというのに、私は王妃様よりも背が高くなっていた。
背中がざわりと寒く感じた。後ろを振り向けば、国王がニヤリと私と王妃様を見て笑っている。
「レオニード様、紅茶を準備しますわ」
「王妃様、私はっ」
違うと言えなかった。この人の目は、狂気で歪んでいた。
王妃様に引かれるままに、私は彼女の部屋に入った。
それから一年程、私の記憶はない。
「いやぁあああーーー!! 離してーーーー!!! レオニード様っ」
女性が叫んでいる。だけど、私の名前じゃない。
ふと気づくと、彼女は必死になって私の腕に縋っている。見覚えがあるが、誰なのか、思い出せない。
「はやく母上を塔に連れて行け!
キリト、ほら、私がわかるか?」
「………兄上?」
かすみがかった頭の中にある兄上より、成長していた。体がとてもだるい。
「レオニード様、お助けくださいっ!」
「兄上、女性に乱暴なことをするのは、王妃様に叱られますよ」
助けてあげたいが、助けられないので、兄上を注意する。その兄上は、泣きそうな顔で私を見下ろしている。
「キリト、本当にすまない。私がもっと父上に似ていれば」
「兄上、眠い」
女性がずっと叫んでいる。それを聞きながら、私は意識を失った。
長いこと、王妃様の手によって、離宮の一角に私は幽閉された。王妃様は、国王のことを婚約者時代より前から愛していた。性格はともかく、見た目はものすごい理想の王子様だった婚約者は、王妃様の初恋だった。
しかし、国王が愛したのは幼馴染み。幼馴染みが手に入らないので、仕方なく王妃様を迎えたのだ。王妃様は、愛されなくても、伴侶となれたことを幸せだと思いたかった。
子どもが出来れば、きっと。そう信じていたが、国王にとって、王妃様との間の子どもは王族としての義務でしかなかった。愛された気になって、有頂天になっていた王妃様の隙をついて、幼馴染みを離宮に閉じ込めた。
それから、少しずつ、王妃様は壊れていった。私も兄上も気づいていなかったが、侍女たいは気づいていた。
国王に訴える者もいたが、まるで相手にされなかった。
そして、ある日、修練帰りの私が、ありしの国王の姿と重なったという。
そこで、王妃様の狂気が発狂した。私を離宮の奥へと閉じ込め、私をレオニードと呼び、愛を囁き、身代わりとした。
この事件、王妃様一人出来ることではなかった。なんと、国王が力を貸した。国王は、王妃様が発狂すると、私を離宮の奥へ幽閉し、そこに、王妃様だけが入れるようにしたのだ。
結果、兄上が私を救出するのに一年がかかった。
兄上が私を救出出来たのは、国王が崩御し、次の国王になったからだ。
王妃様と過ごした一年は、相当辛いものだったのだろう。記憶は戻らなかった。しかし、体は覚えているもので、女性が近づくだけで、吐いた。




