妖精憑き
ある日、帝国の使者が訪れた。年に一回、それぞれの近況を語ったり、とか、そういう話し合いである。王国側も使者を送ることがある。
今後の勉強になる、ということで、私もその場に立ち会うこととなったのだが、第二王子で、というのは色々と面倒事があるらしく、兄の側近に扮して、参加となった。
帝国の使者は二人。一人は、帝国の皇族らし男。もう一人は、筆頭魔法使いである。帝国側では、常に妖精憑きを見つけては保護し、魔法使いに育て上げていた。王国側にはない技術である。ちなみに、王国側の魔法使いは、帝国側にお願いして借りたものである。
今年はどうですか? とか、 皇女が生まれたんですよ、とか、そういう当たり障りのない話をする中、帝国の筆頭魔法使いが、私をじっと見ていた。
やはり、この国王にそっくりな顔に、正体がバレたか。そう思ったが、そうではなかった。
歓談中、筆頭魔法使いは、足音をたてて、私の横にきた。突然のことに、私は身構える。
「これほどの妖精憑きは、初めてみました。どうでしょう、帝国に来ませんか?」
「え、無理です」
引き抜きのご相談は、即お断りである。何言ってんだ、この人。
しかし、引き下がらない。筆頭魔法使いだけでなく、帝国の皇族まで来る。
「お前がいうのだから、それほどのものか。このような所で一騎士として過ごすよりも、よい待遇を用意しよう」
「え、無理です」
「何がお望みですか? あなたなら、皇族の一員になれますよ」
「そういうのも、興味がありません」
「金ですか? 名誉ですか?」
「王妃様、助けてください!」
こういう時は、自分より立場の上の人に逃げるしかない。
そこで、やっと、冷静になった帝国側。私が王妃様の隣りに逃げ、そして、国王を見る。
「大変、失礼なことをしました」
そして、やっと、私が第二王子であることに気づいた。はやく気づいてくれ。この顔見れば、わかるだろう。
しかし、筆頭魔法使いは全く気付いていない。
「これほどの妖精憑きは、野放しにしてはならない!!」
「一体、どういうことですか! この子は、王国の第二王子ですよ!!」
「なんとっ。ならば、猶更、制御せねばなりません。見たところ、その子は、妖精憑きであるにも関わらず、妖精を見ることも、声を聞くことも出来ないのでしょう。そういう妖精憑きは、人の力では制御出来ません」
「この子には、王家としての教育をしっかり施しています。王国のために、騎士となる、そんなこの子の何がいけないのですか!?」
「無知とは恐ろしいことです。我々、妖精憑きでも、妖精の力は制御しきれません。そんな力を第二王子は無意識に使っているのですよ」
「だからといって、大切な第二王子を帝国に渡すわけにはいきません」
「もう、よさないか」
皇族の男が、筆頭魔法使いを止めた。まだまだ諦めきれない筆頭魔法使いは、私というより、私の上のほうを見ていう。
「私には、第二王子殿下の姿形が全く見えません。全て、光り輝く妖精に覆われてしまっています。それどころか、私に憑いている妖精たちは、第二王子殿下に奪われています。第二王子殿下、気をつけなさい。あたなは、私が知る中で、最強で最凶の妖精憑きです」
「肝に、命じておきます」
目に見えないものをどうすべきか、正直、よくわからないが、筆頭魔法使いが感じているらしい恐怖は伝わった。
それから、帝国側からの皇女との婚約の申込が続いた。年齢的に良いし、何より、婿にきてもらいたい、という。
第二王子だし、貴族になるのだから、よいお誘いであることは確かだ。しかし、帝国の目的は、この目に見えない妖精憑きの力である。
兄上に相談すれば、
「妖精憑きについては、王国側では資料が少ないからね、なんとも言えないよ。本当なら、帝国側に調べに行かせたいのだけど、今は難しいだろうね」
「王命なら従いますが、そうではないですし」
珍しく、国王は答えを渋った。妖精憑き、というものは、伝承で聞かれる程度で、王国側は詳しくない。
王国を救った伝説の聖女は妖精憑きであった。
その程度である。妖精憑きの力とかは、未だに謎だった。
「私の婚約者も決まっていないし、キリトは王太子のスペアだから、婿は無理だろうね」
兄上がいう通り、帝国側の婚約の申込は、しばらくして、お断りとなった。




