死人の行進
貧乏男爵家は、王国から監視される立場となってしまった。これまで、男爵家は妖精憑きが生まれやすいことを隠し通してきた。それが、山のエリカ様が男爵家の血族だと知られ、仕方がない、と当主である父が妖精憑きの記録を国王に見せた。
妖精憑きが生まれやすく、妖精憑きの所業が事細かに書かれている記録は、国王を戦慄させ、男爵家を野放しにするわけにはいかなくなった。
幸い、男爵家の者たちも、男爵領に住む平民も、ともかく善人だ。悪いことなどしない。逆に、騙されてばかりなので、国としては、騙す方を取り締まるほかなかった。
王国に魔法で戻ってきて、一年が過ぎようとしていた。エリカと僕は、帝国で死んだこととなっていた。
なんでも、亡くなったエリカの後を追って僕が死んだらしい。
悲恋として、本になり、劇になり、王都では大賑わいだとか。
当の僕は生きているが、死んだことになってしまったので、平民となった。
エリカは、一年経ったが、まだ、生きている。
「ロベルトの手が、こんなに黒くなって」
エリカについた穢れは、綺麗にとれ、かわりに、僕の左腕は真っ黒になった。もうそろそろ、壊死が始まっているというので、肩から切り落としたいのだが、エリカがどうにかしようと止めている。
男爵家には、穢れをどうにかする方法は、探してみれば、見つかった。穢れを体の一部に移し替え、切り落とす、という方法だ。
この方法、妖精憑きの力が必要で、今は亡き叔母の娘の力をこっそり借りた。
腕のいい元騎士の貴族がいるというので、切り落とす手伝いを打診してもらっている。ただ、相手は領地から動きたくないそうなので、なかなかよい返事が貰えない。はやくきてっ!
「帝国のあの皇女ったら、本当にひどいのよ! 私が死んだらロベルトを伴侶にしてあげる、なんていうの」
「エリカが死んだら、僕も死ぬから、そんなことは起きない」
「死んだらダメです。悲しいです」
「わかったわかった」
辛い事ばかりだったエリカは、それを取り戻すかのように、僕から離れなくなった。
僕は、名もなき平民となったが、影で男爵領の領地経営を手伝っている。片手で出来ないこともないが、あえて、エリカに手伝ってもらっている。
「あら、リスキスお母様からお手紙だわ」
「………」
生きているなんて、知らせてもいないのに、一方的に、リスキス公爵から手紙が送られてくる。もちろん、返事はしない。




