聖別された赤ワイン
新聞では、エリカが行った悪行が詳細に書かれていた。
血のマリィは、妖精の力を使って、王侯貴族や教会、商人たちの悪行の証拠を集めた。そして、邪魔となる皇帝と、兄弟姉妹を毒杯で排除し、名君と呼ばれる姉を女王とし、恐怖政治を行った。
毒杯に使われたのは、赤ワインだった。マリィや、女王となった姉が飲んでも、ただのワインだったが、罪ある者が飲むと、毒杯となった。
そして、悪行の証拠によって捕らえた者たち全てに、マリィは赤ワインを飲ませた。
もし、罪がなければ、赤ワインだった。
しかし、全ての罪人は罪があり、毒杯となって死んだ。
神がかりな制裁に、帝国では、赤ワインの値段が暴落した。
エリカは、マリィの所業を証拠集めをしないで、歓迎パーティで行った。
結果、罪ある貴族は毒杯となり、パーティは凄惨なものとなった。
皇族といえど、育ちは王国である。王国側を批難する者が後をたたなかった。
ちなみに、王国側もパーティに参加していたが、赤ワインは赤ワインのままだった。
パーティの日、僕も嫌がらせのように赤ワインを出された。ボトルのお代わりをしてやった。年代物はうまいっ。
その結果、数日で、帝国各地の聖域は、再び、白く輝いた。
にもかかわらず、エリカが貴賓室には来ない。きたのは、帝国の筆頭魔法使いだ。
夜中の、寝静まった頃にやってきた。
「お元気そうですね」
僕の手に、新しい新聞が持たれているのを見て、苦笑する。あれから、皇女の命令で、何度も取りあげられたが、新しい新聞はすぐ届られる。
「船を用意してあります。今なら、あなた一人、逃げられます」
「エリカは?」
「彼女はもう、助かりません」
「会わせてください」
「逃げてほしい、と願われました」
「会ってから決めます」
「………こちらに」
皇女に隠れて動いてくれたのだろう。他にも、エリカと一緒に王国から戻ってきた帝国側の侍女や騎士が、味方となって、僕をエリカの元へ案内してくれた。
エリカは、囚人が捕らえられるような地下牢にいた。
「エリカっ!」
鉄格子ごしに、倒れているエリカの手をとる。その手は黒く汚れている。
聖域の穢れは、粛清だけではとれなかった。その穢れをエリカは受けとめた。
「お兄様、どうしてっ」
「置いていくわけないだろう。これから、帝国を出奔して、愛の逃避行をしよう」
「こんなに汚くなったのに? 見ないでください」
「妖精憑きの記録がいっぱいある男爵家だぞ。綺麗にする方法、知らないわけがないだろう。男爵家に行こう」
嘘だ。そんなものはたぶん、ない。抱きしめたいのに、この鉄格子が邪魔だ。
「何故、エリカをこんな所に閉じ込める。帝国の恩人だろう。すぐに鍵を開けろ!」
「エリカ様が望んでっ」
「連れて帰る。エリカ、エリカ! もう大丈夫だから」
邪魔な鉄格子がなくなり、やっと、エリカを抱きしめる。
男爵家から来た使いの者たちが音もなく、僕の傍に跪いた。
「魔法を」
僕が望めば、大昔から男爵家に伝えられた転送の魔法が発動した。




