第二十四話 悪魔降臨
そこにいたのはA組の先生であるユニ先生だった。
「どうやら間に合ったようだな!! わるいなイツキ!!」
俺に向かってそういうとガハハハと笑っている。どうやら、リーシュ陛下が言っていた助っ人とはユニ先生だったようだ。ユニ先生のことだからどこかで油を売っていたかもしれないが、間一髪で間に合ったユニ先生は騎士を数十人連れてきているようだ。これは助かったかもしれない。
「ユニ先生が助っ人だったんですね。今までどこに――」
「わるいな! あたしもやることがあったんでね。おっと!! リリーとイリアは負傷しているようだね」
そういうとユニ先生は騎士に命令しリリー達を安全な場所へと運ぶように命じていた。
「先生!! 何回も言わせないでください!! 今までどこにいたのですか!!」
「そうですよぉ、それになんでアムステリアの先生になってるわけ?」
ニールとアリサは呆れた表情で言っていた。
「わるいわるい!! すっかり忘れていたよ! 残念だけどあたしはラムースの先生であり先生ではない。つまり、ミラニド教をよく思っていないのだよ。だから、あたしはアムステリア側に協力している」
「それはどういうことで――」
「人間どもはいつも話が長い。ゼドといったか。早くその男を殺せ」
威嚇だろうか。黒い羽を大きく広げながらそう言っていた。謎が多いユニ先生の話を夢中になって聞いていたが、そういえば、俺は殺されるところだった。
何故悪魔は俺の事を脅威と思っているのかは分からないが、肌も髪も真っ白で真っ黒な羽を羽ばたかせているその男はそう思っているらしい。
「悪魔ってこういう見た目なんだねぇ。見ただけで強そうなのがわかる。だけど!! 神々の命令だろうと殺させはしないよ!」
そういうとユニ先生の周りにいた20名ほどの上級中央騎士は詠唱を始める。戦いを見越していたユニ先生は上級中央騎士達を各地から呼び戻しに行っていたのだろう。
「どちらが死んでも俺には関係ないしな。いいだろう。先にこいつらを始末しろ」
悪魔の男はゼド達にそう命令する。
アリサとレオは負傷しているし、ゼドがいくら強くても多勢に無勢だ。勝てるわけがないだろう。それにユニ先生の実力はA組担任級だ。その実力は帝国10騎士並みだ。
俺の目算通り、ユニ先生たちは取り囲むと数の暴力で4人を制圧していた。もしここで大技が使えれば打開の可能性もあったのだろうが、ここは遺跡内部だ。大技を使えば遺跡が崩れて、死ぬからだ。
「チッ 所詮は人間の学生か。まあいいだろう。この俺様が直々にお前ら人間に裁きを下してやる」
悪魔はそういうと悪魔の衣を身にまとい、周囲に闇の魔素を充満させていた。
これを見ただけでわかった。この悪魔の魔力は人間のそれじゃない。
「黒炎」
悪魔がそういうと、周囲に禍々しい黒い炎が回転しながら徐々に広まっていく。騎士達もそれを防ごうとそれぞれ魔素で作った盾を出すが、打ち破られていた。ただ一人ユニ先生を除いて
「ほう、この俺の技を防げるとは貴様、上級貴族か皇族だな」
「そうだ。私はラムース皇帝の孫娘で、名をユニ ラムースという」
「なるほど。だから、貴様は俺の技を防げたわけか。だが、所詮は人間だな。その程度のオーラで我々に勝つつもりか?」
悪魔は鼻で笑っていた。
ユニ先生の魔力でさえ、悪魔基準だと低いのだろう。つまり、俺と同等以上の魔力を保有していることになる。下級の悪魔でも俺と同等以上の魔力を保有しているんだ。上級の悪魔や天使なら、俺より魔力が高いことになる。俺は絶望した。こいつらは魔力も高ければ知識もある。例えれば、プロの格闘家に素手で挑んでいるようなものだ。
ユニ先生が高い魔力を保有していようと、知識も魔力も悪魔に劣っている現状、勝てる可能性は低いだろう。
「まぁ、いずれ死ぬ運命だ。親である我々が、下等な貴様らを処分するのは当たり前のことよ。観念するんだな」
「それはどうかな。あたしはまだ諦めるわけにはいかない」
ユニ先生がそういうと、悪魔はこれまた嘲笑していた。
「きっと、貴様らを作ったことを先代悪魔や天使は後悔しているだろうな......」
悪魔はそういうと黒炎を放ちながら悪魔剣をユニ先生に振りかざしている。ユニ先生は黒炎を盾でガードしつつ、悪魔剣を何度も何度もかわしている。
さすがはユニ先生だ。常人だったら既に殺されているだろう。だが、かわすことはできても未知の技を防ぐ手段もなく攻撃に転じられないのは、まずい状況だ。仮に攻撃しようものなら、隙だらけのユニ先生は一撃をくらい重傷を負うだろう。
さっきからユニ先生は時々俺のほうを見ている。俺の体の傷がそんなに酷いのだろうか。
いや、違う。
ユニ先生は悪魔の後方にいる俺に対し、不意打ちしろと言っているのだ。やるしかない。俺は痛む体に鞭を打ち、天光を解き放つ。
クッ...... ぼろぼろの体で全魔力を込めた技を放ったからか、意識が飛びそうになる。もう一度放つことはできないだろう。
「頼む!! 当たってくれ!!」
俺の願いも虚しく、悪魔は真後ろにあるそれを感知したのか超高速で避けていた。ゼドと同じ能力だ。後ろに目でもあるのだろうか、やつは真後ろのそれを避けていた。
この技を避けられたら、もう何もできまい......
終わったな。俺は目を伏せていた。
「でかしたな! イツキ!!」
俺はユニ先生の声に反応し、悪魔を見ると、吹き飛ばされた悪魔は傷を負っていた。俺はユニ先生の魔力と練度を見くびっていたかもしれない。ユニ先生は悪魔に勝っていた。
「クッ...... 人間風情が......」
「観念するんだね! 悪魔さん」
ユニ先生はそういうと、悪魔とザイードを縛り上げていた。そういえば、戦闘に夢中でザイードがいることをすっかり忘れていた。
ザイードは観念しているのか、無表情でただ前だけを見つめていた。
「ああ、そうだ。ついでに回復してあげたいところだが、あたしは光魔素を発現させていないんだ。我慢してくれ」
「糞が。人間どもの世話になる気はない」
「プライドの高い種族みたいだな! イツキ。あたしはこれからこの二人をアムステリア帝国まで送り届けなければならない。そこで頼みがあるんだ! リリーとイリアを介抱している騎士たちがもうすぐ戻るだろう。それで治療を済ませたらクリルの領主を捕縛してほしい。今のイツキなら簡単なことだと思う!」
「わかりました」
俺の返事に満足したのか、満面の笑みで俺を一瞥し去っていた。
そういえば、この4人はどうするべきだろうか。俺たちはクリルに行かなければならない。そんな俺の表情を察してかニールは
「心配するな。俺たちは負傷していてどこにも逃げられないし、逃げはしない。大人しく連行されるよ」
確かにニールの言う通り、アリサやレオが回復詠唱をしてもすぐには逃げられないだろう。だとすればここにいる騎士達で十分だろう。
そう思っていると聞き慣れた声が聞こえてきた
「イツキ!! 無事だったのね!! よかった!!」
「無事でよかった。今回ばかりはダメかと思ったぞ」
二人は完治したのか、俺のほうに駆け寄っていた。
「二人とも心配かけてすまない」
「いいのよ! 私たちだって弱かったから......」
「ああ、そうだ。私の責任でもある。それより、早くその傷を治そう」
「そ、そうだったわね! この者の治療を頼む」
リリーがそういうと、騎士達は俺に回復の詠唱を始める。一難去ってまた一難だ。次は領主をとらえなければならない。
俺は深いため息をした。




