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第二十五話 クリルの領主

 騎士達の回復詠唱のおかげで、傷が治った俺はリリー達と共にクリルの街にある領主の館の前にいる。領主の館はレンガ造りで高級感のある青い屋根で、さっきまでの通り沿いの家とは違う佇まいだ。景気が悪くても貴族の館だけあり、きれいに整備されていた。


「イツキ。中央突破するか、もしくは壁を乗り越えるか。どうする?」


 館の門前に衛兵が二人、中に入れば10人以上の地方騎士がいるだろう。どうせ壁を乗り越えて侵入したとしても、途中でばれてしまうだろう。だとしたら、答えは一つ。中央突破だ。


「俺の光炎(ライトフレイム )で周囲の敵を倒せると思うし、中央突破でいこう」

「そうね! 壁を乗り越えたところで、見つかるかもしれないしね!」

「私も異論はない」


 館の前で堂々と作戦会議をしていた俺たちは、作戦が決まると門を通ろうとする。だが、領主でもない俺たちが通れるわけもなく、門前の衛兵に「とまれ! 用があるならここで待っていろ」と言われたが、リリーとイリアは魔力の違いを見せつけ、簡単に倒していた。


 技と技のぶつかり合いは意外にも大きな音がする。いや、意外でもないか。

 他の衛兵はその音を聞きつけて、門前に集結していた。


「その制服はアムステリア学院のものか。いくら強くても、多勢に無勢だ。抵抗しても無駄だぞ!」

「悪いが、俺も引くわけにはいかないからな。抵抗させてもらうよ 光よ 力を貸してくれ 光炎(ライトフレイム )


 さすがは成人した地方騎士だ。地方騎士達はそれぞれの魔素でできた盾を詠唱していた。だが、地方騎士達の努力も虚しく俺の放った黒炎(ダークフレイム )は彼らを飲み込んでいた。


 もう少し麿力を弱めにしとくべきだった。


 地方騎士達は倒れこんでいた。後で、回復魔素を使える騎士を呼ばないといけないな。


「はあ、困りましたね。私の庭で花火大会をしないでほしいね」


 館から高級そうな服を身にまとった男が現れるとそう言う。この男がクリルの領主だろう。間違いない。


「クリルの領主ね! 首都アムステリアまで連行する。拒否権はないわよ!」


 すると、男は驚いたのか目をぱちくりさせている。


「おや! これは姫様。こんな田舎にお出でいただきありがとうございます。まさか、姫様直々に来られるとは思っていませんでした。それに、お変わりになられた」

「ジェロスだったかしら。久しぶりね。たしかに、私はイツキのおかげで変わることができたわ。貴方も観念して連行されるのね」


 ジェロスはゆっくり深呼吸をすると


「私は姫様が来た時点で、負けを確信してますよ。これ以上抵抗はしません」

「では、貴様は諦めがついたということだな。簡単に諦められる野望なら、初めからラムースと手を結ばないほうがよかったな。それに、一体何のためにこの地を邪教で汚したのだ」


 イリアはまるで汚物を見るように話していた。


「皆さんもこの街を見てきたでしょう。そうです。ラムースとの貿易が止まってからこの街は貧しくなりました。あるとき、ユーミール小国連合の騎士とお話する機会がありましてね。邪教であるミラニド教を受け入れ、ユーミール小国連合側につけば、小国連合の富とラムースの金を定期的に送ると言われました。それで、私は影響力をなくしているアムステリア帝国についても、クリルにいいことはないと思い、やむを得ず受け入れたのです」

「ちょっと待ってくれ! 今ユーミール小国連合といったな。支援しているのはガリア皇国じゃないのか?」

「いえ、ガリアがラムースと手を結んだとは聞いていませんね。私が聞いたのはユーミールとマルーク王国です」

「マルーク王国って言ったわね!? マルーク王国は昔から鎖国状態で、外の世界とはかかわりを持たなかったはずなのに、どういう風の吹き回しかしら」

「それはわかりませんが、関与しているのはこの2国のはずです」


 ジェロスがそういうとリリーとイリアは険しい表情をしていた。


 ミラニドと関係ない様な国々が、ミラニドを国教にしているとはなんだかきな臭い。


「私はラムース側に付くのが正しい選択だと思っていましたが、私の判断は間違っていたようですね。イツキ君と言いましたか。貴方の服に黒い羽がついていますよ」


 俺は制服をみると、たしかに黒い羽が絡みついていた。悪魔との戦闘の際についたのだろう。ここまでの道中よく剥がれ落ちなかった。


「ああ、それがどうした?」

「それを見て、悪魔は実在したと分かったのです。つまり、神話が本当だったと気づいたのです。なおさら、抵抗する気も起きませんね」


 ジェロスはそういうと、俺たちのほうに近づき、手首を合わせ、縄を巻いてくれと言わんばかりに俺たちを見ていた。


 俺はジェロスが少し不憫に思えた。ジェロスの判断は決して間違いではないだろう。ただ、運が悪かっただけだ。


 イリアは無言で突っ立っている男の手首に縄を結びつける。


「まぁ、あれだ。貴様のやった行動は褒められたものじゃないが、間違いであるともいえない」


 イリアは代々皇帝に仕える中央貴族だ。その忠誠は帝国一といっても過言じゃないだろう。そんなイリアから見てもジェロスの行動はそこまで悪いものじゃなかったのだろう。


 こうなった全ての原因はクリルの経済が悪いからだ。クリルの街が経済的に復興できるように、中央で議題となるべきだろう。そう思った。


 ◇


 無事にジェロスをアムステリアの城に送り届けた俺たちは、数日ぶりに学院へと帰ってきていた。


「はーー!! この空気。数日しかたっていないのに、まるで何年も帰っていないような感じだわ!」

「数日とはいえ、色々なことがあったからな......」

「そうだな。悪魔との戦いに、怪しげな酒場、不憫な領主。これほど密な日程を過ごしたことは私はない」


 ここ数日色々なことがあった。今日くらいゆっくり休んでも罰は当たらないだろう。


 俺たちは数日ぶりの学院の空気を堪能すると、寮へと戻った。


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