Report08:色2/先生
兼沢大学のとある教室、山河、小澤、天野、花川の4名だけになった空間。ナビゲーターの花川が天野の素性を漏らしてしまったことで起きた沈黙。その沈黙を断ち切ろうと話し始めたのは小澤だった。
「えっと、それにしても色を決めるのは迷うことですよね。カラーコード次第では綺麗だったり、汚い色になりますし、適当なコードにして名前の無い色になる可能性もありますから、慎重になりますよね。」
『・・・』
(反応なしです。あの、お2人はが反応しないのは納得できますけど、山河さんは反応してほしいです~。困ります~。)
「わ、わたしは決めましたよ、ヴァンさん。#fcbec1の淡紅梅です。なんとなく、カワイイ色だと思いませんか?」
「・・・」
(こ、これもリアクション無しなんですね~。)
「プリマ、私は色を決めました。#895b8aの古代紫に致しました。プリマはどうされますか?エグザであるあなたがお決めにならないと・・・。」
「花川、その話ですが、まだ結論がでていません。」
ナビゲーター2人が色を決めて、10分ほど経過してから、山河が席を立った。同時に天野も席を立った。そして、彼らのナビゲーターも席を立ち、それぞれのエグザに色を尋ねた。そして2人は同時に答えた。
「俺は、無色だ!」
「わたくしは虹色です!」
『え・・・、え?』
予想外の答えに小澤と花川は同じ反応をする。無色というカラーコードは無い。それは山河も知っているのだが、何故、無色を選んだのかが小澤は理解できていない。天野の虹色というのは色ではあるが、カラーコードは無い。複数の色の組み合わせがあって初めて虹色になる。花川は虹色を選んだ天野の真意がわからないでいる。
「プリマ、虹色とはどういうお考えでしょうか?」
「複数のカラーコードを登録し、同時に使う。単色よりも、混合色の方が情報量は多いから単色の相手に対して勝ると思うのです。」
「プリマがそうお考えになるのなら、私はそれに従うだけです。」
「では、そう登録できるよう【ジャンヌ】の調整をしてください。」
「かしこまりました。」
「では、皆さん、お先に退室させていただきます。」
天野と花川が部屋を出ていき、残るは山河と小澤の2人。少しの沈黙があり、その沈黙を破ったのは小澤だった。山河がした色の選択について、その理由を尋ねたのである。
「山河さん、無色の理由を教えてもらえませんか?あのプリマというお嬢様と同じ理由なんでしょうか?」
「小澤さん、色を決めなければいけないのが規則なら決めます。でも、それはアークバスターズの規則に無いんです。」
「それはそうですけど、色を無色と答えたのは?」
「いつかは色を決めなければいけないと思います。でも、今すぐこの場で色を決めることは俺に出来ないんです。それに頼る戦い方になりそうな気がするんです。だから、無色なんです。色を使った攻撃は色を使わない無色の攻撃よりも強いのは確かだと思います。シルクとの戦いでわかりました。その戦いでは、無色でも情報量の多さによっては色のついた攻撃にも勝てることもわかりました。」
「でも、段階が進んだ情報体に遭遇したら・・・。」
「なんとかします!」
「え?」
「モードは3つ。威力性重視のバレット、正確性重視のビーム。そして、近接性のバスタード。切り札は3つ。凌駕攻撃、放出剣加速弾。今、ある選択肢はこれだけです。それらをまだ十分に使えていないんです、今の俺は。」
「そんなことは・・・。」
「それに色を登録するために追加データをインストールすること自体、デバイスのデータ量が増えて処理速度が落ちます。処理速度が遅ければ、攻撃や防御への対応も遅くなります。だから、今の俺は色を使いたくないんです。」
「でも、蔦野さんの話ですと、登録をしなければならないんですよ。」
「だから、色を登録していない状態を無色として登録するんです。」
「でも・・・、無色というのはすぐにバレますよ。私の技術力では誤魔化せないです。色を仮に登録しておいて、その色を使わなければいいんじゃないでしょうか」
「それは無理。俺は多分、無意識に使うと思う。いや、無意識に使わされると思います。システムも恐らく、そんな感じで緊急用プログラムがあってもおかしくない。」
2人はおよそ20分も話し合っていた。色を決めない山河、色を決めてほしい小澤。どちらの意見も間違いではないし、正解でもない。それはお互いにわかっている。だからこそ、お互いが納得できるまで話を続けている。そんな2人の様子を10分程前から教室の外で見ているのは蔦野。色の話をした講師が2人の話に割って入ることなく黙って聞いている。そして、そのまま時は経ち、14時45分頃。
「君は無色なんですね。」
「っ、誰!?」
「ヴァンさん、先ほどの講師の蔦野さんです。」
「何も無い。何にでもなれる。無色透明というのはそんなイメージを連想します。選んだ色はその人の性格が出ると言いますが、君は何も持っていないのですね。だからこそ、色を選ばない。いや、選べないといった方が適切でしょうか?」
「そうですね。俺には何も無い。だからイメージする色も無い。」
「そんなっ、ヴァンさんには私に無いものがあります。」
「それは何ですか、お嬢さん?」
「ええと、た、例えば、思いきりがいい所とかです。」
「でも、ヴァン。君はそう思っていない。」
「はい。」
「なるほど・・・。なら、このデータを渡します。受け取ってください。」
蔦野のデバイスから2人に向けて送信されたデータ。それはカラーコード6桁が全て######となっているものだった。そして、そのあり得ない色は【クリア】という名前がついている。
「これは?」
「無色のカラーコードです。ヴァン、君はこのコードを登録しなさい。私が許可を出しているので、君たちのデバイスでこのコードの入力が可能になります。」
「なぜ、色を決めろと言わないんですか?」
「ちょ、ちょっと、山河さん!せっかく、データをいただいたんですから、素直に登録した方がいいですよ。」
「データくれるとか怪しいんです。準備の手際が良すぎる。行動の意図がわからない。納得のいく理由が欲しいです。」
「色を決めないで任務をしていた人がいました。今はもういません。たまたま、その人と知り合いでして、色々なことを教わりました。先生と生徒みたいな関係ですね。先生が言うには、『色が全てではない。色付きでも無色でも全ては電子情報の塊。余計なことをせずとも情報体に対抗することができる。』ということです。しかし、アークバスターズの任務において、難易度が高い任務であればあるほど、色を使わないことはとても難しい。だから、私は先生のようにできなかった。自分で選んだ色に頼ってここまでやってきました。」
「その先生と俺が同じ考えだと思うんですか?違う可能性だってあります。」
「違っていてもいいんです!」
『え!?』
蔦野の予想外の回答に2人は驚かされる。
「嬉しいんです。理由はどうあれ、先生と同じ無色という考えを持つ人に出会えたことが。だから、悩んでいる君たちに力を貸したくなったんです。それにこのコードは私が持っていても意味がないです。無色という答えを出した君たちに使ってほしいんです!」
「・・・」
「ヴァンさん、どうしますか?」
「・・・、わかりました。そのコード、遠慮なく使わせていただきます。ただ、先生がどうとか関係なく、俺は俺の理由で使います。あなたの思いとか背負うわけではないので。」
「ええ、構いませんよ。私はそのコードを使う今後の君たちの活躍を見れればそれでいいんだ。」
「わかりました。」
「そうか・・・。では、私はこれで失礼するよ。」
蔦野は山河と言葉をわずかに交わし、教室から退出していく。14時53分、講義終了残り7分前に、山河の色が決まった。無色という選択は蔦野の先生以外しなかったのかというわずかな疑問を持ちつつ、山河は小澤と共にスイレンにカラーコード######を入力した。そして、セルフカラー名【クリア】と表示されたことを確認する。山河と小澤がスイレンについて打ち合わせをしていると、時刻は15時15分。彼らが15時15分だと気がついたのは、その時刻にデバイスがメールを受信したからである。タイトルは「16時~19時のトレーニングは体育館で1対1の模擬戦に変更する」と書かれていた。そして、山河がつぶやいた。
「なぜ通達がこのタイミングなんだ?」