Report34:勧誘01
山河は佐原のもとへ歩いていく。数歩進んだ彼は取り外したデバイスを2つとも放り投げ、佐原はそれを受け取る。小澤と橋本は予想していない現実化を解除するという行動に驚きのあまり、声がでなかった。
「デバイスの電源を切っているのか、どうしてだ?」
「だから、検査をされるんですよね。電源は切っていた方が基盤とか確認しやすいのかと思いまして、電源を切りました。」
「検査の一つで模擬戦をしているんだが、俺と戦ってくれないのか?」
「佐原さんは俺の、俺達の情報を必要以上に知っていると思います。じゃなければ、俺を超えるか、同等になればいいという条件なんて、初見の相手に掲示しません。余程のお調子者でない限りですけど。だから、戦う意味はないでしょう。」
「実際に経験しなければわからないデータもある。」
「はぁ…。ただの検査じゃないことは察していました。この会議室内だけ制限が解除されているという時点で。」
山河は左手で頭部をカリカリと掻きながら、話を続ける。
「では、端的に聞きます。俺が倒すターゲットはどこにいますか?今から倒しに行くので教えて下さい。」
山河が言葉にした内容を聞き、場は静かになった。小澤は何がどうなっているのか、わからない。どうすればいいのか、わからないので、話に入ることができず、困惑している。一方で佐原は微動だにしなかったが、山河の予想外な発言に橋本がわずかに動揺する。その橋本は佐原に目を合わせると、佐原が首を縦に振る。
「何のことだ。と知らないふりはしない。君たちの過去は調べさせてもらった。」
「い、いつの間にでしょうか?私たち、ここに出入りするの初めてですよ。」
「アークバスターズに入る際、健康診断したわね。そのデータ管理を任されているのがこの会社。佐原と私はその管理責任者。だから、調べることができた。」
「俺たちのパーソナルデータをお二人が閲覧できるのは理解しました。」
「ちょ、ちょっと待ってください!山河さんが戦ったデータは閲覧できるとしても、私たちの過去を調べるってどうやったんですか?」
「俺たちの行動を他人から聞くのは可能です。ネットワークにあるデータでも人と話すとしても。」
「確かに私たちが知人関係を調べて調査することは可能よ。でも、それだといつかはあなた達の耳に入る。」
「それなら、タイムマシンとかでしょうか?」
「まさか、いくら私たちの企業を含め、どの企業でも出来ないです。」
「ふぅ…、知らぬ間に催眠術をかけて話を聞き出すことだって可能です。知人に話を聞くのは内容に歪みが生じる。催眠術は今までの常識であれば、一番実現できそうな案です。催眠術を使って過去を聞いた後に別の暗示をかけて過去に関するヒアリングがあったことを忘れるよう暗示すればいい。だけど、それは時間がかかるし、強烈な内容は思い出す側にとって精神的に負担が大きい。なら、あとは有り得ない方法を考えるしかない。」
「有り得ない方法ですか?」
気になった小澤が山河に尋ねる。
「そこで、俺が思いついたのは電磁波か何かで脳の信号を解析するなり、記憶することで過去を知るという案です。技術が可能とか不可能とかで判断せずに思いついたのはそれです。脳内をコピーしてそれを読み解くという案なら佐原さんと橋本さんは少なくとも、データとして俺たちの過去を知ることができる。」
「ちょっと、待ってください。記憶のコピーという技術は報道されていないですし、組織内部の技術的な話だとしても、プライバシーに関わる内容は私たちに知らせなければいけないはずですよね。」
「知らせれば小澤さんは記憶をコピーさせますか?自分が忘れているものも含め、細かい情報、おそらくは感情も含めコピーされるとすればどうします?」
「そ、それは…。」
「普通は断ります。アークバスターズにとって戦力は必要。組織としては断られるのがイヤだから何も言わないんだと思います。まぁ、実際に知っているとすれば診断を担当する側だけだと思います。」
山河の話を聞いた佐原は橋本に指示をする。頷いた橋本を確認した佐原は答え合わせをはじめる。
「結論から言うと記憶のコピーはしている。だが、脳の完全コピーという訳ではない。生きる上での必要最低限な記憶と本人の強烈な記憶だけコピーする。」
「すごいです…。」
「感心している場合ではないですよ、小澤さんの記憶もコピーされているんです。」
「ふぇ?」
「彼の言う通り、私たちは2人の記憶データを持っています。」
「そんなっ!り、理由はなんでしょうか?」
小澤の質問を聞いた佐原と橋本はアイコンタクトをする。そして、何かを決めたような表情で佐原が話をすすめていく。
「仲間を集めるためだ。」
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「何故、あいつらも勧誘するんですか?」
「さぁ、佐原さんに聞いて。」
「まぁ、まぁ、高橋さん。」
「何、出口?」
「あー、何でもないです。」
「アキラ君と私はあの場にいましたけど、ソウジ君とツヤちゃんはあの場にはいません。だから、先ほど聞いた話の条件には当てはまらないと思うんですが…」
模擬戦が落ち着いた山河達の様子をモニタリングしているのは、渕上、三上、出口、高橋の4人。ふと、思ったことを三上が質問する。機嫌が悪そうな女性、高橋の様子を伺いながら出口は話をしていく。
「歩きながら話をした通り、私たちが君たちを仲間として勧誘する理由は【若葉原での善戦】をしたからというのは覚えているね。」
「ああ、その話なら。」
「あの状況で即座に協力をして、脱出するために動けるのは珍しい。思い切りの良さを見込んで誘った。ナビゲーターの三上さんを誘ったのは良くも悪くも渕上君を信じているからだ。」
「ありがとうございます。」
「今、モニターに映っている2人に関しては、詳しい理由は聞かされていないけど様子見だった。4人の中でリーダーになっている佐原は実際の動きを見てから、彼らを誘うべき仲間だと判断した。」
「私たちじゃなければいけない理由があるってことですか?」
「理由?三上ちゃん、俺たちや出口さんたちが集められたのは世界のためっていう話じゃ?」
「それ以外での理由だよ、アキラ君。」
「すまない。世界のためとしか聞いていない。佐原さんは世界のために橋本さん、高橋さんに私。渕上君、三上さん。そして、彼ら2人を集めたという事実しか我々も知らない。」
「行くよ!」
唐突に高橋は声をかけ、席を立ち、別室から出ていく。その後を追うように出口、渕上、三上が出ていく。彼らは移動しながら、出口が用意していた端末で山河達の様子を観ている。
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仲間という言葉を聞いた山河と小澤。唐突な話のため、どういう意味なのか各々で考えていると佐原が話をすすめる。
「仲間を集める理由だが、【壊すため】と聞いている。」
「あの、何を壊すんでしょうか?」
「それは…、知らない。」
『えっ?』
佐原が言葉にした、知らないという一言。予想外の一言に山河、小澤と同時に別室でモニタリングしている渕上、三上が驚きの反応をした。
「佐原の言う通り、私たちは【世界のために壊す力を持つチーム】として集められただけ。今までは情報収集や分析だけしかしていないです。」
「そ、そうなんですね…。で、でも、何で私たちなんでしょうか?」
「ん?」
「私たちは、アークバスターズで任務をはじめてから1年経っていないです。誘うのでしたら、先輩方だったり、通り名がついているランカーの先輩方だと思います。ましてやエヴォリューションの方法を知らないですから尚更です。」
「そうだ。だが、君たちに声をかけた。」
「山河さんと私の将来性を見込んで声をかけたのでしょうか?」
「まぁ、そういうことだ。」
「他にメンバーは…」
「はぁ~あ…。」
「って、山河さん?」
「先ほど説明してもらった【仲間を集めるために、記憶のデータを所有する】って?それは関連性が無いと思うんです!それから、プライバシーを人質にしていれば否応なしに仲間になるとでも思ったんですか?俺はプライバシーを公開されても問題は無いです。チームの方針はわかりました。つまり、誘われているチームに入れば日本だけでなく、世界…、というより地球全体を敵に回す可能性があるということです。そんな面倒な状況に自ら関わろうとする人はいると思いますか?俺は関わりたくないです。だから、仲間にはならないです。」
「それだけか。」
「はい、否定する理由はそれだけです。あとは、仲間次第です。佐原さん、橋本さんとKNGブロックの梅田さん、それ以外のメンバーは?」
「え、梅田さんもなんでしょうか?」
「俺はチームメンバーの一人だと考えています。佐原さんが俺たちに直接、連絡をとることは出来ない。だから、アークバスターズ経由で連絡をした。連絡をするにしても、一般企業が個人を指名して呼ぶのには説明が必要のはず。でも、俺たちを呼ぶ理由は秘密な訳です。だから、研修や検査ということで俺たちに連絡をした。詳細は秘密の内容だとしても、それを都合よく、もみ消せるのはアークバスターズの関係者で、権限を持っている人だ。梅田さんはその権限を持っていても可笑しくはない。そもそも、俺たちをここへ呼んだのは梅田さんです。理由を把握せずに行動するような人とは思えないです。会社全体で協力しているなら、もっと堂々とした動きが取れるはずで、【この会議室内だけ】という特殊な状況を作らなくてもいいはず。でもそれをしないということは、お二人は個人的な理由のみで行動している。つまり、佐原さん、橋本さん、梅田さんは個人的な理由で繋がっている。今回の動きは少なくとも3人で相談した上での行動だと考えました。」
「山河君の考察はともかく、まだ、仲間が他にもいる。」
「それは?」
「みんなが集まってから話をしたいから、待ってくれ。」
佐原が話を一旦、止めてから数分後。彼らがいる会議室内に入ってきたのは渕上、三上、出口、高橋の4人。小澤は渕上、三上の姿を見て驚いていたが、山河は反応をせず、佐原の言葉を待っていた。
「さて、この8人に加えて、あと2人を入れた10人がチームメンバーになる。」
「2人って誰?」
「アキラ君!敬語を使おうね!」
「わりぃ。」
(他の3人も不思議がっている。1人は梅田さんで確定だとして、もう1人が謎だ。)
山河が脳内で考えを巡らせている間、ELINに勤務している佐原以外の3人も考えを巡らせていた。一方で佐原は会議室を出て行った。




