Report22:若葉原地区1
山河と小澤が梅田からデバイスを託された日からおよそ1ヶ月後、年は明けて1月。土曜日の朝8時、山河はぐっすり眠っている。疲れが溜まっている彼がようやく休める日なのだが、デバイスのスイレンから呼び出し音が鳴り響く。
「うるさい・・・。」
画面に出ている表示を見た彼は音が響かないように毛布でスイレンを包む。呼び出し音は20秒経っても止むことは無かった。音が鳴る中でも、彼は眠り続けた。音はいつの間にか止み、時刻は朝9時になった。そのタイミングで、山河の家のインターホンが鳴る。
「・・・、インターホン?もう少し、眠ってからで・・・。」
だが、インターホンは何度も鳴り続ける。その間隔は次第に短くなり
「山河さーん、小澤ですー!おはようございますー!」
「・・・、お、おざわ?まぁ、そんなわけない。」
「おかしいですね?デバイスのGPSはここの場所を示しているんですけど・・・。」
「Zzz・・・。気のせいだよなぁ・・・。」
「山河さんに限ってスイレンとタイムを置いたまま外出はしないと思うんですけど・・・、そうです!2つとも通信を呼びかければっ!」
小澤がドアのすぐ目の前にいるとは思っていない山河。深い眠りに入ろうとした瞬間、デバイスから音が鳴る。それと同時にインターホンも鳴る。
「うるさいな~。なんだよ~。スイレンだけじゃなく、タイムも鳴っているのか・・・。インターホンはしつこい。」
「山河さ~ん!」
「はぁ。小澤さんですか。今、鍵開けますから・・・。」
「やっと、出てくれましたぁ~。」
山河が家の扉を開けると小澤は両手に荷物を持っていた。玄関で話すとお互いに寒いので、山河は小澤を家の中へ招待する。
「も、もしかして、寝起きですか?」
「小澤さんに起こされましたよ。まだ、眠いです。」
「お休みなのにごめんなさい。」
山河がいつも以上に眠いというのは理由がある。年末年始の時期、彼は多忙だった。佐々木地区観光協会が地域の事業者や役所と協力して開催したイベントに駆り出されたからである。漁港付近での年末大販売会、初日の出を見るイベント、賀詞交歓会など仕事関係だけでも準備や報告書作成が大変なものばかりである。それだけではなく、年末年始では具現警報が普段よりも多く発令していた。レベル1や2の案件しかなかったが、担当地区以外の応援に駆り出されることが普段よりも明らかに多かった。先週の日曜日は成人式の会場付近で具現警報が発生して、任務のために外出。
「思い出すだけで、疲れが溜まるよ・・・。眠り足りないんだから、眠らせてくれませんか?」
「そうしてあげたいんですけど・・・。今日は研修の日です。」
「研修?」
「TKOブロックの選抜トレーニングです。」
「俺達は招待を受けて無いですよね?」
「そうですね。」
「関係ないんで寝ていいですよね?」
「ダメです。これから私と出かけてもらいます。」
「小澤さんと?・・・、デート?」
「デ、デーーーート?ち、違います。任務ですよ、連絡ありましたよね。昨日も確認しましたよね?」
「任務?具現警報は鳴ってないですよ?」
「・・・、まだ、寝ぼけています?ちゃんと、書いてありますから。」
山河はスイレンを手に取り、メールを見直す。そこにはトレーニング中の対応についてという件名のメールがあり、研修中は若葉原地区の具現警報に対応する指令が出ていた。
「あ、ああ・・・。」
「ああ。じゃないです。待ち合わせ朝8時、縦須賀駅でしたよね?今は何時ですか?」
「9時30分過ぎです。」
「対応は何時からですか?」
「10時です。」
「行きましょう、すぐに!」
「はい。目が覚めました。」
山河が暮らしている家は最寄り駅が堀ノ外駅である。そこから縦須賀駅までいくには乗り換えが必要である。それを加味しても若葉原地区へ行くには2時間位かかる。山河達の到着は12時を過ぎることが判明して、彼はマズイと思い、急いで出掛ける準備をする。
「あの、ナビゲーターの小澤ですが・・・。」
山河が慌てて準備をしている間、小澤は若葉原地区の担当に連絡をしていた。謝罪をするとともに、急いで向かうことを告げた。
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若葉原地区、某所。時刻は12時30分を過ぎ、トレーニングに参加しているメンバーは食事休憩をしている。特別招待の渕上やTKOブロック所属の罍などが談笑している中、この地区を担当しているエグザの内の1人、仁頃澄海は談笑に参加せず、デバイスを見つめている。
「午前中は何も無かったけど、早く来てほしいんだよね。」
「そうね、トレーニングを受けながら、警戒もしないといけないのは疲れるよ。スカイの負担が大きいよ。」
スカイの言葉に対して、ナビゲーターの阿部蘭が答える。トレーニング参加者は12時から13時まで食事休憩中で飲食店へ行っている。仁頃たちも外出して食事休憩をしているのだが、山河達が遅刻をしているのが原因で、警戒とトレーニングの受講の両方をしなければいけない。だから、食事を落ち着いてとることが出来ないのである。
「ご、ごめんなさ~い!」
「すみません、遅れました!」
「やっと来たか。まあ、来てくれて助かる。」
「引継ぎは私がやっておくから、スカイは休んでいいよ!」
食事休憩を兼ねて待ち合わせしていた仁頃と阿部は山河と小澤に引継ぎをする。19時になったら、仁頃と阿部のトレーニングが終わるので、その後に引継ぎをしたら山河達の交代任務は終了となる。
「阿部さん、わたし、気になることがあるんです。」
「なあに、小澤さん?」
「13時から21時まで車両通行止めって今日は何かあるんですか?」
「歩行者天国だよ。昔はここまで規模は大きくないけど、電子革命が起きてから内容が変わったの。それはね、この若葉原全体に現実化舞台が展開されて、現実化がルールの範囲内で自由に出来るの。」
『えっ!!』
「2人とも驚きすぎ、でも、すごいでしょ。」
「そうですね。俺たちは任務のためだけに現実化を使っていますけど、楽しんでもらうために現実化を使うっていうのは新鮮です。」
「まぁ、多少のトラブルはあると思うけど、それ以外は自由だから楽しんでみたら?」
「はい、ありがとうございます。行きましょう、ヴァンさん!」
小澤は山河を連れて、歩行者天国へと向かう。この状況を楽しんでいることが表情からわかる小澤、彼女に引っ張られてちょっと疲れている山河。そんな2人の様子を見て、阿部は羨ましいと思い、その気持ちが言葉になっていた。騒がしくも賑やかな音に埋もれてしまったその思いは誰にも伝わることがなかった。
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14時10分、トレーニング会場となっている駅前にある大きなビル。現実化している範囲を一通り見まわった山河と小澤はそれを眺めている。すると、2人の持つデバイスから具現警報が鳴り響く。現場は歩行者天国の端になる場所なので、移動に時間がかかると2人は予想した。早歩きで移動する彼らは打ち合わせをする。
「レベル2規模のものが同じ場所で2つ発生しています。」
「レベル2だと、確か、俺のデバイスは2つ使えない。」
「私かヴァンさんのどちらかが梅田さんに申請すれば、状況を見て同時使用の許可はもらえますけど。今回は許可出ないと思います。」
「具現警報の詳細は?」
「現場に行った方が早いです。ただ、いつもならこちらで展開している現実化舞台を展開しなくてもいい状況なのは確かです。」
「お祭りだからですよね。」
「はい。ただ、それが今回の場合、任務を遂行しにくい状況を生んでいます。一般の方々にも見えているんです、情報体が。だから、騒ぎになる前にどんなターゲットでも倒さないとマズいです。」
「まさか、おもちゃの銃と剣をここで使うことになるなんて。」
「あははっ、そうですね。ヴァンさん、お願いします。」
現場付近に到着した2人。ターゲットは運が良いことに2つとも近い場所で出現しているが、運の悪いことに一般人がそれらに近づいている。ターゲットはキャラクターの形で現実化しているため、一般人は何かしらのイベントやパフォーマンスだと勘違いをしていた。
「スイレン、ビームモード。大きいやつから狙います!」
「わかりました。どこに当てても、今のスイレンなら1発当てればターゲットは消えます!」
「了解!」
山河は返事をするとともに銃の引き金を引く。そして、2体のターゲットはすぐにデリートされる。一般人に被害は出なかったが、その一部始終は目撃されていて、注目を浴びてしまう。
「あ、あのっ、ええっと。」
「落ち着いて下さい、小澤さん。」
「で、でも、注目され。」
「皆さん!スペシャルパフォーマンスにお付き合いありがとうございました!運が良ければまた、会いましょう。会場のどこかでやるかもしれませんから、ゆっくり楽しんで行って下さい!」
山河の機転。それは普段から観光協会で働いているからこそできた対応だった。山河と小澤は路上パフォーマーのように周りに挨拶をしたあと、駅前に再び戻っていく。それは偶然の行動だったが、結果として新たな事態に素早く対応することとなる。




