Report21:関係2/一緒
20時00分、三里浜駅の改札口を出た山河は小澤を見つける。冬場にコートとマフラー、手袋と防寒対策をしている彼女は小旅行にいくような荷物を持っていた。一方の山河は家に帰る時間がなく、スーツのままで待ち合わせ場所にやってきた。
「小澤さん、こんばんは。すみません、ギリギリの到着になってしまいました。」
「大丈夫です、山河さん。寒い中での立ち話は辛いですから、どこか休める所にいきませんか?」
「そうですね、晩御飯は食べましたか?食べていないなら、ファミリーレストランに行こうかと思いますが、いいですか?」
「(ファ、ファミレスですか。)だ、大丈夫です。」
山河と小澤は駅近くのファミリーレストランへ移動する。小澤の本心はオシャレな雰囲気のお店に行きたかったのだが、緊張していたため言い出せなかった。そしてファミリーレストランに入った2人。禁煙席に座った山河は早々とメニューを決める。その様子を見た小澤は慌てて、メニューを決めて注文をした。
「小澤さん、話なら通信でもよかったんじゃないですか?」
「へっ?あ、あぁ~。お話ですよね、ですよねぇ~。」
「あの~。」
「はいいいいいっ!」
「あの~、何でそんなに緊張しているんですか?」
「そ、その~、言いたいことがありまして。」
小澤が話すまで黙っている山河。僅かな沈黙の後に小澤が喋りだす。
「とっ、とと、泊まりませんか?」
「はい?」
「え?山河さん?」
「はい、何ですか?」
「だいち橋ターミナルに、ろ、6時集合ですから、その、前泊しないと間に合わないんです。私だけ間に合っても、山河さんがいないとダメですから、ふた、2人で、と、泊まらないと。」
「あれ?朝ですか!?ちょっと待って下さい、確認します。」
緊張して滑らかに話せない小澤だったが、山河が焦っている様子を見てようやく落ち着きを取り戻す。山河はデバイスでメールの内容を確認する。メールを見返すと、注意書きがあり、そこには【一般人に迷惑をかけないようにするため、早朝の集合にしております。】と書かれていた。
「本当ですね、朝ですね。って、小澤さんが話をしてくれた前泊の提案ってメールとか通信でもよかったんじゃないですか?そうすればわざわざ集まることは無かったですから、ゆっくり準備できたと思います。」
「そ、そうですね~・・・。」
その後、会話が無くなり少しの沈黙がうまれる。たくさん話をしたい小澤だが、緊張していて上手く話を切り出せない。幸か不幸かそのタイミングで料理が運ばれたので食べ始める2人。黙々と食べる山河に対して、その食べる様子をチラチラと見つつ小澤は注文した料理を食べている。
「じゃあ、23時にカコミライ地区のカコミライ駅で待ち合わせましょう。」
「ええっ?」
「さすがにスーツのままでいくのは窮屈で嫌なので、俺は着替えてから行きます。」
「えっ?はい、わかりました。」
食べ終わる直前に山河が待ち合わせについての返答をする。何も考えることなく、急に返事をした山河。それに対して食べることに集中していたためか、小澤は動揺することなく返事をした。そして、食べ終わった2人はいったん解散して、約束した23時に再び集まった。
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
朝5時過ぎ、建物から出てきた山河と小澤。寝ぼけ眼の山河にびっくりしている小澤は彼を目的地へ連れていくため、頑張っていた。
「山河さん、ちゃんと歩いてくださいっ!だいち橋まで行きますよ!」
「・・・、眠い。」
「朝は弱いんですか?トレーニングの時はばっちり起きていたのに、しっかりして下さい。」
「・・・、ふぁい。」
「もぉ~。」
「ごめん、彩ちゃん、連れてって~。」
「ふぇ?はいっ、こちらこそ!」
彼らがいた場所はスパだった。お風呂に入れることや休める所という条件を満たす場所は数少ない。その少ない選択肢の中でスパという選択肢は最善だった。のんびりできる環境だったためか、山河は風呂からあがった直後に寝てしまう。小澤は自らのデバイスと山河のデバイスの2つを簡易メンテナンスしてから仮眠をした。
(私、2時間しか寝ていないのに、山河さんの方が眠そうです・・・。)
だいち橋まで歩き続ける彼らは呼び出しに対する不安の大きさよりも眠気の方が強く、呼び出しの理由を考えようとしなかった。小澤は隣で歩く山河の様子が気になっているので眠気が無くなっている。一方、山河は寝ぼけたまま歩いていて、たまに瞼を閉じながら歩くという器用なことをしていた。
「山河さん、着きましたよ。起きてください。」
「・・・、ふぁ。」
「あの~、着きましたよ、待ち合わせ場所に。」
「・・・、うん。」
(ダメですね、起きていませんね。)
朝6時過ぎ、待ち合わせ場所に着いた彼らは海を眺めている人物を見つけた。その人は彼らの存在に気づき、声をかける。
「エグザの山河総司さんとナビゲーターの小澤彩さんですね。おはようございます。」
「おはようございます。」
「・・・、います。」
「ちょっと、山河さん起きてます?」
「あら、朝は弱いんですか。それとも、夜更かしをしすぎたのかな?」
「はぁ?」
「ちょっと、山河さん、怒らないでください。」
「いや、怒っていないですよ!というか俺たちいつの間にだいち橋に到着したんですか?」
「ええっ!?覚えていないんですね・・・。」
「2人とも時間が無いから、話をはじめていいかい?」
「ああっ、ごめんなさい。梅田さん、お願いします。」
スーツ姿の梅田は手持ちのカバンから1つの端末を取り出した。それを見て、時刻を気にしながら話をはじめる。
「さて、私は君たちの実績をある程度、把握しているのだが、もう少し詳しく知りたいと思っている。特にナビゲーターとエグザの信頼関係が無ければうまくいかない『切り札』と君たちが呼んでいるシステムについてだ。」
「あれはやろうと思えば、打ち合わせをちゃんとすれば、どんなエグザでもナビゲーターでもできますよ。」
「ちょ、ちょっと、山河さん?」
「小澤さん、俺は事実を言っただけです。驚くことでもないですよね。」
「まぁ、そうですけど・・・。でも、梅田さんが聞きたいこととは、ちょっと違うんじゃないでしょうか。」
「俺たちしか使っていないから、珍しいとか意外性があるだけ。俺たちと同じことを他のペアでも出来るようになれば、アークバスターズ全体の強化に繋がるでしょ。だから、それが知りたいんでしょ、きっと。」
「そうだとしたら、もっとストレートに『切り札を使えるようにしたいから、プログラムを教えてくれませんか?』とか聞くと思います。」
「いずれにせよ、何が知りたいのかわからないけど、早く話をしてほしいですね。」
「2人とも、話をしてもいいかな?」
「はぁ?」
「ん、何かな?」
「ちょっと、山河さんは静かにしてください。梅田さん、すみませんでした。話を聞かせてください。」
梅田はアークバスターズKNGブロックの副ブロック長、つまり山河達の先輩である。その先輩を気にかけず、話をしていた2人は気まずさを感じてすぐに謝った。
「その切り札だが、できるだけ使用をしないでくれ。」
「何故ですか?」
「現場で使っている君からは当然の質問だね。それは負担が大きいからだよ。管制しているナビゲーターならわかっていると思うけど・・・。」
「私は切り札をサポートすることが負担だと思ったことなんて無いですけど・・・。」
「小澤さん自身への負担ではない。彼のデバイス、スイレンのシステムのことを言っているんだ。普通のデバイスは情報の放出量や集束量に制限をかけている。しかし、切り札はそれを解除して使うという面でシステムに無茶なことをしている。」
「俺たちのやり方を否定するんですか。」
「ナビゲーターとエグザの連携を否定している訳ではない。ただ、やり方を変えるべきだ。君たちのやり方に意見をするつもりはない。だが、他のペアからどう思われるか考えてみてくれ。現場で連携をとる場合、他のペアがどう動くのか意識した対応をしてくれと言いたいんだ。」
「ちょっと、ま」
「待って下さいっ!!」
梅田の主張に対して、山河は苛立って声を荒げようとした瞬間だった。小澤が大きな声で強く言った。彼女が出した突然の大声に山河と梅田は驚く。
「確かに無茶なことをしていると私は思います。でも、山河さんが必要としているならできる限りサポートしたいんです。それがナビゲーターなんだと思います。」
「だが、それでも、大きすぎる力は。」
「それでもです!大きすぎる力でも、危ない力でもやれることはしたいんです!現場に出られない私だから、現場に出るエグザの皆さんのためにできることをしたいんです!一緒に、一緒に守っていきたいんです!切り札が危ないと言われても、卑怯と言われても、それが私にできるサポートだからするんです!他のペアとの関係が悪くなったとしても私のエグザ、ヴァンさんを支えていきたいんです!それが切り札を使うということなんです!」
(俺と一緒に、か・・・。)
小澤の強い主張を黙って聞く、山河と梅田。山河は何も喋らず、無表情で聞いている。梅田は彼女が喋り終わったタイミングを見て、話をはじめる。
「さて、今日2人を呼び出した本題は切り札ではないんだ。これを見てくれ。」
「これはデバイスですよね。」
「山河さんの言う通り、今、2人に見せているのはデバイスで、名前は何もない。処理能力やデータの容量は君たちが使っているデバイスのおよそ5倍になっている。山河さんにはこのデバイスを使ってもらいたい。それが呼び出しの理由だ。」
「あの~、そのデバイスを使うとしたら、今、山河さんが使っているスイレンは?」
「これを使ってもらうには条件がある。それは切り札を使わないということだ。」
『えっ!?』
「ちょっと、あんた!どういうことだ!」
山河は声を荒げる。これからも切り札を使わせてほしいという小澤の主張があった直後に、梅田が話をしたのは切り札の使用禁止について。この対応に対して山河は珍しく感情を表情に出して怒る。
「落ち着いてくれ。これは山河さんが使っているデバイスと交換するためのものではないんだ。このデバイスも一緒に使ってほしいんだ。」
「一緒に?」
「扱いは難しくなるかもしれないが、1つのデバイスで切り札を使うよりも、切り札を使わないで2つのデバイスを使う。その方が今、君たちが使っている切り札よりも負荷は少なく、強大な力を生み出せる。小澤さんならわかると思うんだが。」
「・・・、そうですね。」
「小澤さん?」
「正直、スイレンだけでは情報処理の力が足りないと思っています。切り札と同等、それ以上の力を山河さんの判断だけで発動できるようになれば、私もナビゲートにもっと集中できて、山河さんの力になれると思います。」
「小澤さんがそう言うなら、それに従いますよ。信頼できる俺のナビゲーターですから。」
「あぅ~、あ、ありがとうございます。」
「切り札は無断で使いません。俺はデバイス2つを使う。それでいいですか、梅田さん?」
「それでいい。私としては以上だ。他に伝えることはあるが、後ほどに連絡をするから。それから、これはデバイスのHDDだから、今まで使っているデバイスのHDDを交換するように。あとは時間が許す限り、デバイスを2つ使う時の注意事項などを話すから。」
『はい!』
時刻は7時30分、話を終えた梅田は急いで移動する。この時点で山河と小澤は知らなかったが、梅田は朝8時30分から仕事があった。だいち橋から直行した梅田が始業ギリギリに出勤したことを2人は後日知る。梅田が去った後、2人はKNGブロックの縦浜オフィスへ行き、スイレンのHDD交換と新しいデバイスの調整をした。調整を終えた2人は初期起動に必要な情報を登録しようとしている。
「あとは新しくもらった2つ目のデバイスの名前を決めるだけか・・・。」
「何か案があるんですか?スイレンみたいにカッコいい名前ですか?」
「いや、カッコいい名前じゃないですよ。俺が登録するデバイス名は【タイム】です。」
「タイムですか?時間とか停止とかのですよね。どうして・・・。」
「理由は機会があれば話しますんで、まずは登録をお願いします。」
名前の登録作業が終わり、山河は大きく息を吐く。彼の視線の先にあるのは2つのデバイス。山河はスイレンとタイムをゆっくりと手に取り、これからの任務でどう使えばいいかを考えようとしたが、それを止めた。
「小澤さん、帰りましょう。」
「あっ、はい!」
2人は縦浜オフィスを出て、縦浜の街を観光していく。




