第十一話 そして俺が手に入れたもの
「上手く事を収めたようだな。流石は婿殿」
「お義父さん!」
俺がラクシュ湖の畔で花を摘んでいると、思ったよりも顔色の良い村長が現れた。
ちょ! 今から行こうとしてたのに!
足元がふらついているので心配だ。思わず駆け寄る俺。
「体の具合は大丈夫なのですか?」
村長を支えながら尋ねる。
「ああ、少し寝たら大分良くなったよ。婿殿、いや……、次期村長ディルク」
俺の手を握りしめ、村長はいきなり語りだした。やめてくれ。花が潰れる!
「あなたはこの村が精霊の祝福を受けた村だという事は知っておりますな」
手の中の花を死守しながらも、村長の改まった口調に少し戸惑う。
「はい、まぁ……」
俺の現代知識が精霊の贈り物だの精霊の囁きだの言われている事は知っている。なにせそう持って行ったのは俺だからな。
「そう、この村は実際精霊に守られております」
「はぁ?」
それは初耳だ。あいつら基本その辺に漂ってるだけで何もしてくれないだろう?
「特に彼女がそうです」
「はぁい」場違いな幼女の明るい声。
「座敷童っ!」
村長の足元から座敷童がひょこっと顔を出した。
「ざしき……?」
「ディルクがつけてくれた愛称なの~」
村長の足に纏わり付きながら座敷童が誇らしげに言う。
「ほう、それは良かった」にこにこ笑う村長。
「もうすでに次期村長と守護精霊殿の仲が良いようで何よりですな」
守護精霊!!? なんだそれは?
村長の足元から俺の足元に移った座敷童。人の足を支点にぐるぐる回っている。
キャハキャハ笑って、何がそんなに楽しいんだか。
そんな俺達を見ながら至極ご満悦な表情でうんうん頷く村長。
「ディルクならすでに気付いておるでしょうが、テオテル村長の資質は彼女が見える事です。婿殿も仰ったこの村の得難い至宝……彼女と相性の良い村人こそが真のテオテル村の村長なのです!」
『真の村長』ってなんだよ! ……と突っ込むべきか?
あと、この村の至宝はエルゼだろうが。
だが迂闊だった。テオテル村の村長は世襲制では無く、(座敷童の)指名制だったのか。
愕然とする俺の足元で、座敷童は相変わらず楽しそうに遊んでいた。
「ディルク!」
背後からイグナーツの声が聞こえた。
振り向くとフィデリオと、イグナーツが気を利かせたのかエルゼも居る。
ここまでくれば普通の村人は俺が何をしたいのか分かる。
フィデリオは面白そうにこちらを見て、エルゼは真っ赤な顔で俯いている。
気が付けばラクシュ湖の湖面を背に、エルゼと村長がこちらを向いた。湖面の上を風が走り、周りの草もさやさやと揺れる。
俺の後ろにはイグナーツとフィデリオ。
足元の座敷童は余計だが、これがテオテル村の正式な求婚の位置だ。
「エルゼさん、テオさん」
改まって二人に向き合う俺。
「穏やかで賢く、情の深いフィデリオ・ルッツ・テオテルと冷静で聡明、かつ行動力のあるイグナーツ・ドリュヘスを友に持つ、俺ディルク・ゴーロ・テオテルは素直で頑張り屋さんで優しく、芯の強いエルゼ・テオ・テオテルを妻に望みます」
ここで先ほど摘んだ花束をエルゼに差し出しまっすぐと顔を見る。
エルゼは真っ赤な頬と潤んだ瞳でこちらを見ている。
「どうか俺と結婚して下さい」
一般的にテオテル村では、求婚する側の男が信頼出来る友二人を相手の娘と父親に紹介する所から始まる。
求婚者の紹介する友が立派であればある程、父親の心象が良くなるし、安心して娘を嫁にやれるのだ。
俺も何度か幼馴染に頼まれた事がある。しかし俺が一番信頼しているのはこの二人だ。
なんだかんだ言ったって、エルゼとこいつらが居るから今生が楽しいんだ。今更口にするのは恥ずかしいが……。
……と言うか、出来ればこんな恥ずかしい方法でプロポーズしたくなかったのが本音だ。
しかし、テオテル村の娘を嫁にするんだ。テオテル村の村人として、今こそきちんと向き合わなくてはいけない。
「フィデリオ・ルッツ・テオテルは我が友ディルクを一人前の男として認めます」
恥ずかしさが限界に来ている俺の横に立ち、フィデリオが温かく誠実な声音で言った。
「イグナーツ・ドリュヘスも我が友ディルクを一人前の男として認めます」イグナーツもフィデリオに続く。
一般的な町人のフルネームは『名前・家名』だけだ。
ここで「副官として」とか言われたらどうしようかと思ったが、イグナーツは空気を読める。よかった。
「はい、喜んで!」
花束を俺から受け取り、いつもよりも大きな声で返事をくれたエルゼ。
エルゼが、生まれて初めて俺のプロポーズを受けてくれた。
感動している俺にうんうんと頷きながら村長が俺の手を再び握る。
「私テオ・テオ・テオテルは正式に我が娘エルゼをディルク・ゴーロ・テオテルの妻として認めよう」
「有難うございます。娘さんは必ず幸せにします!」俺は誓った。
これでテオテル村式プロポーズは無事終わった。
ホっとしたら汗がどっと出てきた。
「ディルクあのね。私こういう普通の求婚でよかったの。変に凝ったのじゃなくて、こういうのだったらもっと早く応える事が出来たかもしれないのに……」
花束に顔を埋め、涙を浮かべながら言うエルゼ。
いや、エルゼさん。この村のプロポーズは元現代日本人にとってかなりハードル高いよ。
顔の赤みはまだ治まらない。俺を見ながらにやつくイグナーツとフィデリオ。後で見てろよ!
でも余計なプライドを捨ててやって良かった! エルゼが頷いてくれた!
「収穫祭ではディルクとエルゼの結婚式もあげましょう。きっと村の歴史に残る盛大な式になりましょうぞ!」
エルゼの頭を愛おしげに撫でる村長。彼に対しては流石の俺も嫉妬しない。
「それでは、今村にいる冒険者を雇って家を建てましょう。副官として貴方達に相応しい立派な家を建てますよ」
だからもう敵(王子)は居ないんだよ。副官副官ってこいつは何と戦っているつもりなのか。
「じゃあ僕は腕によりをかけて料理を作るよ」
普段は温厚なくせにイグナーツに張り合うかのように言うフィデリオ。料理は楽しみだけど笑顔で睨み合うのは止めて欲しい。
「そして、収穫祭の時に私の引退も宣言しましょう。なぁに、今から鍛えれば春には立派なテオテル村の新村長が出来上がります」
「ディルクぅ~、えへへ。よろしくね~!」村長の言葉に座敷童が嬉しそうに笑う。
つられて俺も村長も笑ってしまった。
座敷童は見えないエルゼとフィデリオだが、俺たちを見て皆も笑う。
見慣れたラクシュ湖がいつもより輝いて見えた。
こうして俺は最愛の妻(予定)と『テオテル村の村長』の座を手に入れた。
チートな記憶とともに異世界に転生して手に入れた座が村の村長。
事情を知る人間(いないけどな!)には呆れられるかもしれない。だが、これが俺の何よりも欲しかったものだ。
俺に向かってはにかみながら微笑むエルゼを見て、俺はこの世界に生まれた事を心から感謝した。
ディルク編はこれでお終いです。
村長と村長の父親の名前は「ここで使わなければ何時使う!!?」と思って付けました。
国王とか別作品の白ひげじーさんも同じノリですw




