第十話 塩は必需品!
一度アップしましたが、長さに差がありすぎたので二つに分けました。
これは後編です。
「ディルク!」
エルゼとしばらく抱き合って、もう一回と思った時に横槍が入る。
こいつ今日も朝早くからロープウェイで登ってきたな。
「どうした、イグナーツ?」
腕の中で身を捩るエルゼに気が付かない振りをしながら俺は聞く。
「王太子が探していましたよ」
こいつも大概不遜だよな。喋る時は『殿下』や『様』ぐらい付けてやれよ。
しかもすぐ後ろに王子一行を引き連れている。
今日のイグナーツの髪型は一瞬、髪の毛を束ねているだけかと思ったが後ろを見た時に項あたりに編みこみと数回だけ三つ編みされているのを見た。
途中で飽きるのなら最初からするな根性なし。毎朝最後まで三つ編みをするエルゼを見習え。
「探したぞ、ディルク・ゴーロ・テオテル」
王子は王子で律儀だ。
その名前に『テオテル村のゴーロさんとこのディルク』以上の意味は無いぞ。わざわざフルネームで呼ばなくてもいいのに。
俺はもう一度エルゼを抱きしめる腕に力を込めた後、「家の中に戻るんだ」と耳元で囁いてエルゼを逃した。エルゼが去る事に王子達は何も言わなかった。
「実は一部始終見てたんですよー」
村長の家から離れるように村の中を歩くと宮廷魔導師小僧が俺に話し掛けた。俺の反応が見たいのか、期待に満ちた表情でこちらを伺う小僧。
「見せつけてたんだよ」
いつでも精霊に見られまくりの俺だ。エルゼとのあれやこれを見られる事もとっくの昔にシミュレーション済だ。
「気づいていたのか」驚いたように反応したのは王子だ。
「まぁな」
今更ながら王子にタメ口を聞いている自分に気付く。王子もそれを当然のように受け止めている。
「私は村長が倒れた時のお前たちの様子を見て確信した。お前にエルゼ嬢が必要なように、彼女もお前が必要なのだな」
「当たり前だ」
ここははっきりと言っておく。さっきのエルゼの言葉も教えてやりたい所だが、もったいないので言わない。
「まー、本当は彼女を妾妃にした際にディルクさんが反乱を起こすだろうからそれを鎮圧し、罪人になったディルクさんを一生こき使おうとも考えたんですねどね~」
おいおい! なんて事を考えてるんだよ! そんな事してみろ!!! この国潰すぞ! 「知的好奇心を満たす」って理由だけでマグマ召喚と氷塊作成のコンボを試すぞ!!?
「……だが、お前の実力を見て、敵に回すには未知数、他国との戦争よりも被害が出る可能性もあると判断した」
「ディルクさんみたいな人は敵にするより味方にした方がおトクですよね~。ボク達噂を通して知るよりも、もっと早く『精霊の贈り物』とか『精霊の囁き』を欲しいですし~」
打算駄々漏れだぞ、この宮廷魔導師小僧!!!
「王太子殿下」
俺は改まって王子を見る。王子達も俺の様子に姿勢を正した。
「協定を結びませんか?」
この日、俺テオテル村のディルクはアグピオス王国の王太子リーンハルト・フュルヒテゴット・フォン・アグピオスの味方になる事を誓い、王太子もまたテオテル村に圧力を掛けず尊重する事、そして自身の名において村を庇護する事を誓った。
「あ、ディルクさーん。最初に氷の檻を作った時に塩を掛けた理由も教えてもらえますか~? ボク気になって夜しか眠れません」
一通り話をして、再び和やかな空気になった後で宮廷魔導師小僧が切り出した。こいつも王太子と一緒で好奇心の塊だな。
「だったら昼寝するなよ!」思わず突っ込む。
「ガウナは仕事中でも昼寝時に消えると宮廷魔導師長が困っていたぞ」王子も呆れていた。
隠すことでもないので、簡単に塩と氷の関係を明かす。気分は理科の先生だ。
「なるほど~。ディルクさんはやっぱり凄いですね~」
言いながら小僧は何かにメモをしている。
「精霊を使って相手の弱みを掴む方法も勉強になりました~」
俺はもしかして、王宮の権力合戦に新たな武器を投入してしまったのか? ニコニコしている宮廷魔導師小僧に戦慄を覚えた。
「じゃあ、次は祭りの時期に来ますね~」
メモから顔を上げてにっこり微笑む小僧。
「待てよ! 来月じゃねーか!!!」
「うむ。テオテル村の祭で食べる魚は美味だと聞いた」
さりげなく切り出す王子。クールさを装ってはいるがワクワクした空気は抑えきれていない。
「あ~、確かに。祭の時の魚は来年の豊作を占う意味もあるから漁師の奴らの気合が凄いんだよ……じゃね~よ! 二度と来るな! お前ら!!!」
かくして王子一行は爽やかな笑顔で去っていった。
これから途中で脱落した兵士どもを回収しながら帰るのだろう。
冒険者達にはヤツらが来る前にさり気なく撤収するように言っておこう。
俺はヤツらの後ろ姿に向かって塩を撒いた。
こんな事もあろうかと、上乗せの宿代をさらに上乗せしておいてよかった。
フィデリオからの情報によると王子一行は高すぎる宿代を疑問に思った様子は無いらしい。このボンボンどもめっ!
だが、何はともあれ嵐は……去った!
思わず俺は空を見上げた。
空はすっかり秋の色だった。
王子達が納得したとは言え、まだ全てが終わった訳ではないのだ。
「ちゃんとケジメを付けないとな」
前世の記憶を元に古今東西様々な方法でエルゼにプロポーズを試した俺だが、実はまだ知ってはいるのにやっていない求婚方法がある。
「なあイグナーツ。今から村長の家に行きたいんだが、フィデリオを呼んできてくれないか? 俺はラクシュ湖に行ってくる」
『村長の家に行く』が今回の報告だけではない俺の言葉の意味をはっきりと理解したのだろう。普段は二枚目を気取っている顔を楽しそうに緩めてこちらを見るイグナーツ。
フィデリオとはブリザード級に仲が悪いくせに、嬉々として俺の言うことを聞いてくれた。あー、恥ずかしい。この時点でかなり恥ずかしい。
俺は赤くなった顔を片手で抑えながらラクシュ湖に向かった。
次回、ディルク編最終回です。




