プロローグ ※読まなくても何とかなる
Pixivで地獄みたいなラブコメの執筆に勤しんでただけで生きてたよ!
「今日は早くお店を閉めるからね。さっき約束したこと覚えてる?」
「もうママったら! はやく行かないとダメでしょー!」
昨日から何度もくり返した会話に、少年は口をとがらせた。
お昼のサンドイッチはテーブルの上にあるし、トイレだって失敗しない。
もう五才なのだから、ひとりでお留守番くらいへっちゃらだ。
いつもは近所に住むナニーが来てくれるが、都合が悪いならどうしようもない。
もう時間だというのにしぶる背中をぐいぐいと押すと「外に出ちゃ駄目よ」と念押しされた。
玄関で華奢な後ろ姿を見送ると、少年は靴箱を開けて誕生日の贈り物を取り出した。
タイルの上に並べられたピカピカの長靴。
少年が大好きな黄色のそれは、朝日に照らされて明るく輝いていた。
(なんど見てもさいこうにかっこいい……!)
最近は雨が降っていないので、買ってもらってからまだ一度もはいて外に出たことがなかった。
ナニーがいると家の中でしか遊ばせてくれないので、彼女が休みの今がチャンスだ。
一人で外に出るのは許されていないが、家から見える距離ならば迷子になることはない。母が帰ってくるまでに戻ればバレないだろう。
*
少年は小さな足を長靴に入れると、石畳の道を歩いた。
キョロキョロと見回すも、目的の物は見つからなかった。
せっかくなら水の中を歩きたかったのだが、残念ながらどこにも水溜まりがない。
真新しい靴で冒険に出たつもりだったが、閑散とした住宅街を一人で歩くのはひどく心細い。
意気揚々とした足取りは、段々と重たくなっていった。
風船みたいに期待で膨らんでいた心はみるみるしぼんでいき、一方でじわじわと不安がこみ上げてくる。
(どうしよう。もうお家にかえろうかな)
最後の望みをかけて、もう一度辺りを見回す。
古い町並みなので地面にくぼみは多数あれど、どれも乾いていた。
小さな肩を落として踵を返したとき、背後から名を呼ばれた。
手を上げて近づいてきた人物は、母のお店で何度かあったことがあった。
直接話したことはないが、よく母に笑いかけていたので悪い人ではないだろう。
何をしているのか聞かれたので、正直に新しい長靴のことを説明した。
「それなら、とっておきの場所があるぞ」
言葉と一緒に差し伸べられた手に躊躇したが、近所に住む顔見知りだ。
(知らない人にはついて行っちゃダメだけど、この人はお母さんの知り合いだから大丈夫だよね)
大きくてゴツゴツした手は、ほっそりとした母の手とは全く違うが、同じくらい温かかったので自然と肩の力が抜けた。
*
手を繋いだ二人が辿り着いたのは、近所の川だった。首都と町を結ぶ定期船が遠目に見える。
危ないので水辺には近づかないように、と言い含められていた少年の手に汗が滲んだ。
「あのね。危ないからね、川に近づいちゃいけないんだよ」
「大人が一緒なんだから大丈夫」
浅い場所なら水溜まりと変わらないよ、と促されて少年は渋々踏み出した。
足下を流れる水は透明で美しく、川底までしっかり見えた。
長靴越しに感じる水圧。足を動かす度に飛沫が跳ねて、ジャボンと重たい音がする。
少年は足を水面から出しては下ろし、靴に水が入らないようゆっくりと歩き回った。水溜まりなんて比べものにならない水の中にいるのに、長靴が守ってくれるので足は濡れない。
「えへへ……」
足下に夢中になっていると、背中に衝撃が走った。
盛大な水飛沫をあげて、小さな体は水の中に沈んだ――
一応順番があるので短編ではなく、連載として投稿。




