表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/28

27.努力とビジネステクニック

 ブルーと二人、家路を歩く。

 夕焼けに照らされた王都。中央通りとでも呼べばいいんだろうか? 王宮からまっすぐに敷かれた広い石畳の通路を歩く。左右には、無数の商店が並び、夕方の活気を満喫している。


「それにしても」

 ブルーが話しかけてきた。

「やはり、ご理解なされたようですね。感服です」

「いえ、たまたま似たような人がいたので、助かりました」

「私も話を聞いていましたが、付いていくのがやっとでした」

「そうですね。現状のシステムを差し替え、人の意識を変える。その後、国家という仕組み事態を無くす。ここまでがワンセットですからね」

「そのように噛み砕いていただければ、私にも多少の理解はできるのですが、それでも、最後の国家の仕組みを無くす。というところがわからないのです」

「ええ。私もよくわかりません」

「そうなんですか? ギルバード様の話をご理解されていらっしゃるようにお見受けしましたが」

「あ、やりたいことや考えていることはわかります。しかし、国家の仕組みを無くすというプロセスはわからないのです。おそらく、ギルバードさんも自らが先頭に立ち、トライアンドエラーを繰り返しながら、徐々にゴールに近づいていこうとしているのでしょうけど」

「なるほど。私とは、わからないのレベルが違うようですね」

 そう言いながらブルーは笑った。


「私のわからないは、なぜ、そのようなことを思いついたのか、そのようなことをしたがるのかなど、最初にあたる動機から理解ができませんが、マキト様は、最後にあたる実現のプロセスだけがわからないと言う。それだけでレベルの違いを感じます」

「え? 動機は簡単ですよ?」

「そうなんですか?」

「はい。アリシアさんもギルバードさんも人民の幸せが動機です。ただ、方法が違うだけです。アリシアさんは魔法というテクノロジーを使い便利な世の中にする。ギルバードさんは政治を使って世の中の不幸を生み出す要因となる格差を是正する。それだけの違いです」

「アリシア様を見ていると、自分が楽しんでおられるので、ついつい忘れそうになりますが、たしかに、成果だけを見れば、便利な世の中が実現されていますね」

「ええ。それに、普通の人ならアリシアさんの生き方はツラく感じると思いますよ」

 ブルーは、この言葉にハッとし、何か考えている。


「ツラい……。たしかに、そうかもしれません。寝ないで研究を続けて、気付けば3日経っていた。なんてことが日常にあるようです。これは、普通ではできませんね」

「ええ。でも、努力の究極の形というのはそういうものです。周囲の人が冷静にその人を見ると、努力以外の形容詞がないほどの生活をしている。でも、本人は、さもそれが普通であるという振る舞いで日々を過ごしている」

「努力の究極系ですか」

「ええ。自覚無き努力が最強です」

「自覚無き努力。これは、教育者として非常に参考になる考え方です。ありがとうございます」

 そうだ。この人校長代理だった。しかも、学校の校長業務をすべて請け負う、実質校長先生だった。


「ブルーさんって、教育者でしたね。すいません。すっかり忘れていました」

「ええ。でも、今のマキト様のお言葉。教員にも伝えてよろしいですか?」

「もちろんです」

「それで、話は変わりますが、ギルバード様の件はどうしようと考えていますか?」

「あ、それでしたら、だいたい内容はまとまってます」

「え?」

「先ほど、人民の幸せが動機と言いましたが、これを国民に置き換えます」

「人民と国民」

「ええ。アリシアさんもギルバードさんも国にはこだわらず、人類全体の繁栄や平和を望んでいますので、まずは、ベイランドに限った話に限定したほうが通りが良いとおもうので」

「はあ」

「それで、以前聞いた第二次魔石革命時のドラゴニアとの通貨スワップの話に組み合わせます」

「ええっと……。ギルバード様は魔石が出来た段階から、この危機を察していた。だから、少し無茶な方法は取ったかもしれない。でも、それらはこの危機を回避するためだった。そういうわけですね」

「ええ。ギルバードさんの理屈は少し一般の人が理解するのは難しいかもしれません。なので、まずは論旨のストーリーラインを決めて、ギルバードさんの行ったことの説明は極力簡素化しながら、ストーリーにはめ込んでいこうと思います。この買い占めからもっと多くの製品を国で管理する体制を作れていたら、この危機は起こらなかった。と、こんな感じでまとめていけばいいかな。と」

「なるほど! それなら、難しい経済理論が理解できなくても、ストーリー上で理解してもらえそうですね」

「はい。特にギルバードさんが悪意がないのは本当ですから、無期懲役から懲役刑へと減刑されれば……すいません。この国の最大の懲役刑って何年ですか?」

「えっと、単独の罪ですと20年が最長ですね」

「今回は、横領と国家反逆罪。2つの罪で問われているので、国家反逆罪が減刑になれば、すでに40年の刑期を終えているので、すぐに釈放されることになると思います」

 明るい兆しが見えたせいだろうか。ブルーは空を見上げた。ちょうど、王都の中央道も真ん中まで進んでいる。

 そこには学術都市アリシアと同じように噴水がある。

 二人で立ち止まって噴水を見ると、ちょうど水が噴射された。


「歓迎しているみたいですね」

「ええ。きっとうまくいきますよ」

 噴水を覗き込むと、そこには初老と幼い子どもが映し出された。

「ありがとうございます。では、明日にでも、再審査の申開きを申請します」

「ええ。お願いします。裁判員に伝える役割はブルーさんが行うんですよね?」

「ええ。マキト様が考えたことなのに申し訳ありませんが、やはり国内での発言力が高い人間が行ったほうが、話も通りやすいと思いますので」

「もちろんです。むしろ、僕にやれと言われてもお断りします」

「一人称が僕に戻っていらっしゃいますね」

「ええ。何かさっき噴水で自分の姿を見たら、自然と戻ってしまいました」

「たしかに、他の人から見たら、親子、いえ、お祖父ちゃんと孫にしか見えないでしょうね」

「そういえば、今、普通に街を歩いてますけど、大丈夫なんですか? ブルーさん有名人ですよね」

「問題ありません。私が有名人だったのは、20年以上昔の話です。あれから、髪も白くなり、あと、服装の趣味も違います。おそらく私をすぐに認識できる人は国の関係者だけでしょうね」

「そういうものですか」

「そういうものです。人の記憶。特に自分と関わり合いのない記憶というのは、少しの年月で薄れていくものです」

 たしかに、懐かしの芸能人などの番組を見ても、名乗らなければ誰だかわからない。という人がほとんどだ。

「申開きはいつ頃、行われると思いますか?」

「たぶん、最速で明後日、最遅で3日後ですね。さすがに私とアリシア様の連名での申開きとなれば、早急に動くはずですから」

「わかりました。では、明日にでもブルーさんと打ち合わせが必要ですね」

「あ、すいません。マキト様のスケジュールも聞かずに、事を進めてしまいました」

 そうか。この人はブルーレット置くだけだった。普段はすべて自分一人で事を進めていたのだろう。でも、仕事の進め方としては正しい。

 すでに時間がないことを聞いているので、その時点で、相手に早急に動く案件だと伝えてある。その上で、ブルーはスケジュール調整に動く。

 完璧に調整した後、先方のスケジュールを聞き、了承なら普通に進む。ダメならリスケをすればいい。この場合、ブルーは国の有名人なので、国関連のスケジュールならリスケもラク。ここまで考えての行動だろう。


 私も昔、部下に怒ったことがある。

 先方のスケジュールをなかなか抑えられない社員に対して、メッセージのやり取りを見せてもらいながら注意をした。

「いつ頃、空いているでしょうか?」

「スケジュール調整してご連絡します」

「すいません。そろそろスケジュール日程お願いします」

「かしこまりました」

「すいません。日程お願いします」

「◯日の◯時なら大丈夫です」

「かしこまりました。よろしくお願いします」

 これだけのメッセージだが、あまりにも無駄が多過ぎる。

「まず、自分のスケジュールを提出してください。そうすれば、相手はYes,Noで答えられます。とにかく、相手にボールを投げさせない。投げたボールを返すだけ。という状況を常に作るようにしてください」

 忙しい人とのアポを取ろうとすると、こうなりがちだ。

 私は、そこに「夜中でも空いているなら馳せ参じます」などと付け加えていたが、今の御時世だとそこまではできない。

 だが、この相手にボールを渡して好きに投げさせるというのは、ビジネスとして本当に良くない。

 特に相手の気持ちがこちらに向かっていないときは、遠慮せずにガンガン攻めるという姿勢でないと、取り逃がす可能性が高い。


「様? マキト様?」

「え、は、はい」

「どうなさりました?」

「少し昔のことを思い出していました。どうかしましたか?」

「いや、マキト様のスケジュールについて聞いていたのですが」

「ああ、そうでしたね。大丈夫です。明日の夕方くらいに来ていただければ、それまでに準備はしておきます」

「かしこまりました。では、私は一度家に帰り、裁判資料を持って再びアリシア様のところに向かいます」

「そうですね。ありがとうございます」


 それからしばらく歩いて門をくぐって、王都ベイランドから学術都市アリシアへと抜けた。

 ほとんど同じ色合い、同じ街並みだが、何となく門をくぐりアリシアに行くと空気が変わったように感じる。

「では、後ほど」

 そう言って、ブルーは去り、私は街の中央に向かい、軽く小腹を満たしてから家路に着いた。


少々短めでお送りしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ