妖精息子3の4
そして、小間使いに
「なんといっても、おまえが持っていた薬のおかげで、この子は元気になったのだ」
「うん。ぼく、脚が痛くて歩くのもできなかったのが、治ったよ」
鳥類らしい鱗をおびた肢をあげる。
さわこがにっこりと
「たまたま薬を持っていたというので、よかったです」
申し上げると
「ホホホホホ。このような処方箋のついた薬を持っているなど、たまたまではありえぬわ」
薬に添えられた箋紙をふりながら、奥方があでやかに笑む。
「これは、あたしが往診を依頼した異世界におる医者の処方したものよ」
――どうして、そんな薬をあたしが?
口にはしないが顔におのずと出る疑問を読んで、奥方は
「あやつめ。みずからは来ず、おまえを使いとしてよこしたのであろうが……しかしまあおまえときたら、よくもそのような弱い肉体を押して世界のはざまをわたって来たものじゃ。なぜ、そこまでしてこの世界に来た?」
心の奥を見通すようなするどい視線を、小間使いに注ぐ。
「わかりません……」
「ふむ……まあ、あの医者のやりくちはわかりかねる」
(奥さまは、あたしのことについてあたしよりよくご存知だ……)
が、高貴な方に根問いするのははばかられた。
そんな母と小間使いのやりとりに、坊は退屈をおぼえて
「さわこぉ。そんなことより、いつもみたいにお歌をうたっておくれ。ぼくはおまえの歌が好きなのさ」
「あっ、はい」
坊の翼をなでさすりながら、さわこは口ずさむ。
「ゆりかごの歌を
かなりやが歌うよ
ねんねこねんねこ
ねんねこよ」
古めかしい歌だが、子守歌をねだられたとき自然と口から出た。もしかしたら、さわこ自身が、かつて母親なり祖母なりに歌ってもらっていたものかもしれない。
坊は、にこにこしている。
その顔を見ながら、歌をうたっているうちに
「あれ?さわこ、ほっぺがぬれてるよ」
「……えっ?」
坊に指摘されて、さわこは自分でも知らぬまに涙を流していたのに気づいた。
「ぽんぽんでもいたいの?」
「いえ。そんなことはないのですが……」
なぜだろう?なにが原因で、自分は泣いたりしているのだろう?
さわこは、自分でもわからない心と体の動きにおどろいていた。ただ、自分の心がとても苦しんでいるらしいというのはわかる。
ほんとうは、だれかにこの歌をうたってあげなければならなかったはずなのに、それをせずままにしてしまった。
自分でも、わけのわからない感情……哀しみがあふれてくる。