妖精息子3の5
そんな小間使いの様子を、奥方は興味ぶかげに見つめると
「……むかしのあたしだったら、おまえのその涙の意味を分からぬままであったろう。しかし、坊を持った今のあたしならわかる。
おそらく、その苦しみをどうにかするためにおまえはこんなところまで来たのだ」
しかし、さわこにはその仰せの意味がわからない。
奥方は、愛する坊を抱きしめると
「おまえも知ってのとおり、この坊はあたしが産んだ子ではない。あたしが実の子らの卵を温めていたとき、何者かにすりかえられた卵から孵った子だ」
頬をすりよせる。
「奥さまが現在かわいがっているぼっちゃまは、取り替えられた子であって、実の子でもなんでもない」
というのは、下々(しもじも)にとってはなかば公然たる秘密で、さわこも噂には聞いていたが、はっきり本人の口から聞くと衝撃がある。
「は、はぁ……」
返答を言いよどむのを、奥方は気にしない様子で話を続ける。
「しかし卵から孵った、血のつながりも何もないこの坊の顔を見た瞬間、あたしの体の中をこれまで感じたことのない強い感情がかけぬけた。
『いとおしい』という感情だよ。それこそ、この子のためならば自分の身がどうなってもかまわないと思う強力な心の動きだ。
……あたしは、今までに多くの王子を産んできた。しかしそのうちのどの子に対しても、そのような感情を憶えたことはない。あたしにとって子を産むとは、次の王を決めるための下準備にすぎなかったからだ。王子たちが互いに殺し合ったすえに一体生き残り、次の王となる。その『御位争い』という流れ作業の一部を請け負っているにすぎない……まあ、今回はいまだ王が決まらぬ非常事態だがね」
先王が亡くなってだいぶ経つのに、いまだ次の王が決まっていないことはさわこも聞いていた。今この世界は、次王の座を狙う王子とそれに追従する各勢力たちの争いによって荒廃するいっぽうなのだ。
ただ、この王城の一帯は先王の后たる奥方の勢力圏なので、一種の緩衝帯として御位争いの被害がおよんでいない。新入りの小間使いであるさわこは、話に聞くことこそあれ、実際に深刻な事態に接したことがなかった。
「……いまのところ、王子たちは生みの親であり王代行であるあたしにそれなりの敬意を示しているが、いざ自身が王となったらどう出るかわからない。そうなったとき、あたしが一番心配なのは、この子の行くすえだ」
坊の頭をなでながら
「王子にとっては、庇護するあたしがいなければこの子に薄紙ほどの値打ちはない。ちりあくたとして、簡単に殺し捨てられるだろう」




