妖精息子3の3
「奥さま。ウンジェリゴをお持ちしました」
「うん、さわこかい」
「ああ!かあさま、さわこだ。さわこが来たよ!」
奥方に抱えられた坊は、お気に入りの小間使いが来たのをよろこんだ。
「はやくおいで、さわこ」
翼をふってまねく坊を
「まったく。さわこを見ると元気になるのだから」
この王城のあるじ……先王妃たる奥方は、抱きいつくしむ。
まったく、これほど似ていない親子もない。
奥方さまは不自然なほどに整った相貌に、大きな鱗翅類の翅をもつ、いかにもこの世界の貴族のすがた。
それに対して坊……ぼっちゃまは、顔こそ人間の赤んぼうらしいが、首から下はまるっきり鳥の身体である。腕とは別に翅が背中から生えている奥さまと違って、両腕がすなわち翼となっている。翼色は灰青色で、長い尾に白斑がある。それはまるで
(カッコウ……って、あれ?「カッコウ」って、いったいなんだったろう?)
兵隊虫に拾われて意識を取りもどしてから、ぼっちゃまに似たものなど他に見たおぼえはないのだが……そのすがたを見ると、そのことばを思い出す。
(意識を失うまえに?……いや、よくわからない)
無理に思い出そうとすると、頭が痛くなる。
「さわこ。苦しゅうない、そばにまいれ」
「あっ……はい」
うやうやしく膝行って側に寄った小間使いに、坊は抱きついて
「ああ。さわこ、さわこ。はやくぼくのつばさをなでておくれ。おまえのそのかぼそい手があたると、ぼくはとても気持ちが良いのだよ」
ねだってくる。
その様子に、奥方は
「まったく、この子ときたらすっかりおまえがお気に入りだよ。あたしは嫉妬してしまうよ」
冗談めかしているが、その目は本気の悋気を帯びている。
さわこは、恐怖を覚える。
なんといっても、この奥方……夫である王が亡くなって、次の王が決まるまでは暫定的にこの世界の支配者であられる御方は、おそろしいのだ。きのうも、ちょっと物言いが気に入らなかったと御機嫌を損ねあそばされると、侍女を三人も溶かしておしまいになられた。
この方にとって、自分たちのような小間使いの命など紙切れほどの重さもないのだ。
その微妙な気配を察したぼっちゃまが
「かあさま。さわこをいじめたりしてはいやだよ」
言う。
すると
「お〜お〜、そうねそうね。もちろんわかっているよ、あたしのぼうや。さわこをいじめたりはしないよ」
あまい母親は、その蝶のように長い舌で坊の顔をなめなめとした。