表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/140

妖精息子3の3


「奥さま。ウンジェリゴをお持ちしました」


「うん、さわこかい」


「ああ!かあさま、さわこだ。さわこが来たよ!」

 奥方に抱えられた坊は、お気に入りの小間使いが来たのをよろこんだ。


挿絵(By みてみん)


「はやくおいで、さわこ」

 つばさをふってまねく坊を


「まったく。さわこを見ると元気になるのだから」

 この王城のあるじ……先王妃たる奥方は、抱きいつくしむ。


 まったく、これほど似ていない親子もない。

 奥方さまは不自然なほどに整った相貌に、大きな鱗翅類のはねをもつ、いかにもこの世界の貴族のすがた。


 それに対してぼう……ぼっちゃまは、顔こそ人間の赤んぼうらしいが、首から下はまるっきり鳥の身体である。腕とは別にはねが背中から生えている奥さまと違って、両腕がすなわち翼となっている。翼色は灰青色で、長い尾に白斑がある。それはまるで


(カッコウ……って、あれ?「カッコウ」って、いったいなんだったろう?)

 兵隊虫に拾われて意識を取りもどしてから、ぼっちゃまに似たものなど他に見たおぼえはないのだが……そのすがたを見ると、そのことばを思い出す。


(意識を失うまえに?……いや、よくわからない)

 無理に思い出そうとすると、頭が痛くなる。


「さわこ。苦しゅうない、そばにまいれ」


「あっ……はい」


 うやうやしく膝行いざってそばに寄った小間使いに、坊は抱きついて

「ああ。さわこ、さわこ。はやくぼくのつばさをなでておくれ。おまえのそのかぼそい手があたると、ぼくはとても気持ちが良いのだよ」

 ねだってくる。


 その様子に、奥方は

「まったく、この子ときたらすっかりおまえがお気に入りだよ。あたしは嫉妬してしまうよ」

 冗談めかしているが、その目は本気の悋気りんきを帯びている。


 さわこは、恐怖を覚える。

 なんといっても、この奥方……夫である王が亡くなって、次の王が決まるまでは暫定的にこの世界の支配者であられる御方は、おそろしいのだ。きのうも、ちょっと物言いが気に入らなかったと御機嫌を損ねあそばされると、侍女を三人みたりも溶かしておしまいになられた。

 この方にとって、自分たちのような小間使いの命など紙切れほどの重さもないのだ。


 その微妙な気配を察したぼっちゃまが

「かあさま。さわこをいじめたりしてはいやだよ」

 言う。


 すると

「お〜お〜、そうねそうね。もちろんわかっているよ、あたしのぼうや。さわこをいじめたりはしないよ」

 あまい母親は、その蝶のように長い舌で坊の顔をなめなめとした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ