妖精息子2の52
(なんとか顔らしきものは視認される)彼は、苦しげに
「……お、の、れ……怪心尼」
にらみ上げる。
尼僧は嘆息して
「午之助……おまえは有能なものであったに。本家に逆らうとは、なにを履きちがえた?猪吉爺が泣いておるぞ」
問いに、術師は目をむいて
「あんな、忠義一本しか能のない親父といっしょにするな!オレは自分の可能性に賭けたんだ!あんたのような主家筋に、俺たち使われものの気持ちはわかるまい!あのおそろしい家の……」
「おそろしいのは、わかっている……だから、あたしは尼になってまであの家を出たのよ。しかし、おまえはやりかたをまちがえたね」
「……おのれ!にくい!にくい!禍王のものなど、みな滅んでしまえ!呪ってやる!呪ってやる!呪って……」
そこで声は途絶えた。
術師は、目を見開いた怨嗟の表情のまま死んだのだ。
尼は
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
手を合わせて回向すると
「……また、ひとりの術者が禍王を呪いながら死んでいった。まったく因果な家だこと」
ふたたび嘆息した。
そんな尼僧に
「これは理事長。わざわざ足をお運びいただきありがとうございます」
生徒会長は、うやうやしく頭を下げる。
「いえ、真吾くん。あたしもお飾りとはいえ、この学園の責任者だもの。危機とあらば推参しますよ。
それに、直実くんも今回はご活躍。……そして、そちらがあなたの拾い子さんね。お初にお目にかかるわ。あなたのごきょうだいは夜中に拙坊を訪ねてきたので知っております。いまは上でがんばっておられるようね」
校舎をちらりと見上げる。
直実もちくわもなにも言わない。
尼僧は、それを気にしないふうで
「まあ。絵里ちゃんもひどい目に会って……」
横たわる少女を見やると
「――尼御前!」
銀狼先生が鋭声を発す。
同時に、尼の足元の地面が大きくせり出す。
そこからあらわれ出たのは、もとのふくよかなすがたとはかけ離れてやせ細り、体中がむごたたらしく爛れ欠損した、地の王子(の本体部分)だった。
「この下等生物どもが!よくも高貴な我輩を、このようなみじめな姿に!」
余裕もなにも失って怒りにとらわれた王子に向かって、宙から取り出した二振りの刀を手にする銀狼先生に守られた怪心尼は
「……この街をあなどりすぎたわね、妖魔さん。コチラすべてが、あなたがたの意のままになるわけではないのよ。まだ切り刻まれたい?」
そのことばに、妖魔は叫んで
「ふざけるな、ただの餌のぶんざいで!……見ていろ!そのものを喰らって力を取り戻してやる!」
言うと、横たわる少女……絵里に飛びかかる。