妖精息子2の50
金髪の美青年は、目を閉じてうっとりすると
「よい響きだ……あつかう余の体が震えるほどの豊饒な電子の動きよ。コチラではこの音を神鳴と呼ぶらしいが、下等なものにしてはなかなかよいセンスだ。たしかにこれこそ、神に等しき余がかき鳴らす至高の音楽よ。
せっかくだから下賤なる者たちよ。その響きを堪能しながら、偉大な輝きを浴びて死ぬがよい」
全身に電気をまとわせ光り輝く強大な存在を、佐和子は絶望しながら見上げていた。
(――ああ、こんなところであたしは死ぬのかしら。おかあさん、おとうさん……この子といっしょに死ぬことになるだなんて……)
母を守ることが出来ずに、どれだけしおれているだろうと息子の横顔を見ると
「ああ……やっと、ここまで来ましたね」
赤髪の美青年は、あきれるほどしらっとしている。そして
「たすかりましたよ、水の王子」
雷撃に長青髪が乱れた水妖に礼を言う。
彼のものも冷然として
「ほんとうによかったの?これで」
「ええ、もちろん」
そのふたりの王子の通じ合った様子に、佐和子や大田原教諭、そして宙に浮かぶものも戸惑いを隠せない。
「どういうことだ?なにを言っている?」
雷の王子の質しに、
火の王子は
「その大量の水蒸気こそ、わたしが水の王子に望んだことだよ。それが天に昇るのを見たら、きみは調子に乗って積乱雲へ活性化するだろうと思っていた。おかげで、やっとわたしも対等にきみと戦える」
「なにを言っている?きさま。この状況のどこが対等だ?」
いぶかしみに、
ぷーすけは
「きみの言うとおり、きみとわたしの能力は似ているようでまるでちがう。きみは属性として電気……物質粒子としての電子の支配権を持つ。それに対してわたしの権限は、その粒子の相互作用……光子としての『火』の操作だ。もとの粒子の動きをおさえられては、その相互作用を受け持つしかないわたしには勝負にならないところがあった。
しかし、きみは調子に乗りすぎた。力の誇示に大きな雷を落とさんと積乱雲を発達させた。
おかげで今その雲の中では波長の短い放射線……ガンマ線も発生している。無論ガンマ線とて電磁波だが、その電荷はゼロ……即ちきみではなく、わたしの支配下にある光子だ」
落ち着いたぷーすけの解説に
「それがどうした?雷によって生じる放射線など、たかが知れている。大したエネルギー総量でもあるまい」
いらだつ雷の王子に
「それこそ愚問だ。きみとて、元はささやかな電子の動きを自らのマナによって活発にしたではないか。火の王子たるこのわたしが、持つマナをすべてガンマ線の強化に注ぎ込んだら、そこそこの量になると思うよ……そしてガンマ線は、空気中の窒素原子核などに光核反応を起こしうる……」
「――きさま、まさか!?」
「……人類は、いまだ特定の核分裂性元素以外による大規模な核分裂反応を達成していないが……わたしたちならば、なんとでもできる」
「ばかな!そんな無茶をすれば、いったいどんなことがおこるか!」
傲岸な王子の面に、初めておののきが見える。