妖精息子2の46
「うちの生徒を放しなさい!」
その、人をしかりつけるのに慣れた口調は
「大田原先生!」
下で意識を失っていたはずの教諭だった。
彼女は
「……まったく青柳さんったら。あたしがちょっと休んでいるうちにかってに飛び出して!危ないじゃない。仕方ないから絵里さまを平井くんにまかせて、追いかけてきたのよ」
「先生、なんでこんなところに?」
「なんでって当然じゃない。あたしは教師よ。生徒の安全については責任がある……でもなんで屋上なのよ!?階段でここまで駆け上がってくるの大変だったのよ!」
がなる。
「……うるさい人間だ」
あきれ顔の雷の王子には
「だれがうるさいのよ!学園中をめちゃくちゃにしといて!……あなた、ちょっと顔がいいからってえらそうにしちゃだめよ!あたしは性別不明の美形より、男前の女の子のほうが好きなんだから!」
……先生。いま自分の嗜好をのべなくともけっこうです……
雷の王子は、急にあらわれた人間の金切り声にあきれ顔で
「ほんとうに不愉快な人間だ。なぜ、われの精神支配におまえのような人間が抵抗し得たのか?……もしかして、一定水準以下の知性しかないコチラモノには通用せんのか?」
「失礼ね!あたしは大学出てんのよ!教員免許も持ってる学士さまよ!」
さらなるキイキイ声に
「知るか、やかましい……死ね!」
人差し指をふるって、電撃を与えんとすると
――バシャンッ!
にわかに、教諭の前に水の壁が現れ攻撃を防いだ。
「なっ!?水か?どこから……それにどういうことだ?水が雷撃を防ぐなど。水は導電体のはずだが」
いぶかしむ王子に対して、
化学教諭は
「ふふっ!イオンを含まない純粋な水分子からなる純水は、むしろ電気を全く通さない絶縁体となる。あたしの化学の授業を聞いていればわかったでしょうに。おあいにくさまね!」
あっかんべえをする。もう謹厳なキャラを守ることをやめたらしい。
……そんなことより先生、この水はいったい?
おどろきで目が点になる佐和子の目の前で
「……もおっ、あなたにもこまったものね。千草」
教諭の体の中からにじみでるようにあらわれ立ち上がったのは、水色の長髪をなびかせて立つ端麗なものだった。
それは
「水の王子!?そんな!前に、ぷーすけに吹き飛ばされたんじゃなかったの?」
すがたは前回のおとなびたふうとちがって少女っぽいが、まちがいない。土の王子や金の王子らといっしょに佐和子らを襲ったが、ぷーすけの高温攻撃に分子レベルで分解されたはずの王子だった。