妖精息子2の40
(へえ、あの子がそんなこと……)
ちくわも顔をしかめて
「なにせ木と電気では相性が悪いからな。火と雷のほうがマシだろう……ってな」
ふうん、そう……まあ、あの子なら心配いらないだろうけど。いまごろ相手を倒して、涼しい顔してるんじゃない?火だけど。
佐和子がのんきに言うと、
みどりの親子は顔を見合わせて
「……やっぱりこの子、勘違いしてるみたいだぜ」
どういうこと?
少女のけげん顔に、緑髪の美少年は
「言いにくいけどよ。きのう地の王子と接触したことではっきりしたことのひとつに、おれたちコチラ生まれじゃアチラ生まれの王子にとてもかなわない……ってことがある」
……へっ?
「やっぱり、生まれたときから摂取した魔素量がぜんぜん違うんだ。おれとぷーすけの全力を合わせたところで到底およばない。きのうは、そこのハンターもいて不確定要素が多かったので誤魔化せたが、正直、オレたちふたりだけでは地の王子とやりあうのは無理だった」
えっ?そんな?だってぷーすけが、自分は特殊個体だから問題ないって……
「あいつはたしかにコチラ生まれのわりには強いから、いけるかもって思ってたんだけどな……昨日、相対してはっきりした。おれたちは、まともなやりかたでアチラ生まれに勝てない。ぷーすけの野郎は、あんたに見栄を張ったんだよ」
ちくわのことばに、直実が
「そんな言い方は良くない、ちくわ。ぷーすけくんは、青柳さんに心配をかけまいとしたんだ」
とりなす。
……えっ、じゃあなに?ぷーすけがあたしに言ったのはウソだったの?楽勝だって言っていたのよ。
「昨日の公園で、あいつはふるえていただろう。おれだってそうだった」
ふるえてたって、武者ぶるいじゃなかったの?
「ちがうよ。こわかったからだ。あんな強い個体が何体もいるとわかったら、とても生きた心地がしない。だから、あいつは昨日の晩うちに来て対策を練ったんだ」
えっ?昨日の夜ぷーすけが行ったのって、直実くんの家?そんなこと、あいつ何も言わなかった。
おどろく少女に、
直実は
「ぷーすけくんに、きみには言わないよう口止めされたからね。本当は、ふたたび王子が襲ってきた際どうするかの作戦会議をしたんだ。彼の求めることは、なによりもきみの安全だった。
いざとなれば、自分が捨て石となってきみを逃がす時間稼ぎになればそれでよい、というのが彼の意向だった」
初めて知る息子の真意に、佐和子は絶句する。
「きみはこのまま逃げてくれたらいい。絵里たちはぼくとちくわで運ぶよ」
つづく直実のことばに、
しばらく黙っていた少女はしかし顔を上げて
「……そうはいかない。あたしは、あの子の母親よ」
きっぱりと言った。