妖精息子2の31
そういや、ここっていったいなに?
さっき地の王子が言ってたけど、意味がよくわからなかった。
友の問いに
「そうね。王子の言っていたとおり、ここは学校の幽体・エーテル体からなる、いわば影の世界なの」
「かげ?」
「そう。あたしたちは幽冥界って呼ぶけどね。他にも反転世界……『さかしま』とか『ジ・アップサイド・ダウン』とかいろんな言い方がある」
「アチラの世界ってこと?」
それには首をふって
「アチラの世界ではあるけど、そのうちほんの一部。そもそも、アチラというのはものすごく広い概念で、コチラをつつむ異界全体を示す。でもこの幽冥界は、コチラとアチラのあいだにあるわずかな境界……うすい膜程度の世界。あたしたちは、そこに落ちこんでしまったというわけ」
ふうん……やっぱりよくわからないけど、とにかく今は
「どうやったらここから出られるの?」
思いがけずも専門家だった友人に問うた。
「……穴を見つけましょう」
「あな?」
「ええ。現実世界とこの幽冥界をつなぐ穴。さっき術師は作為的に穴を開けて、そこにあたしたちを落としたけど、今のあたしにそんな穴を開ける手段はない。だから自然に開いてる穴を見つけるしかない」
「自然に開いてるの?」
「めったにないから見つけるのはたいへ……」
話のとちゅう
――ドゥンッ!
急に、空間全体が震えた。
「ひっ!、なにあれ?」
佐和子のおそれに、絵里は
「……おそらくだけど、いま現実世界では王子たちが戦っている。その振動が伝わってきているんだと思う。この幽冥界は、現実世界からにじみ出たエーテル成分からできている。現実で大きな変化があると、タイム・ラグはあってもその影響を受けるから……ああ、なおくん大丈夫かしら?」
心配する少女を元気づけようと
「だいじょうぶなんじゃない?ちくわくんもいるし、うちのぷーすけもいるよ」
気がるに言うと
「シロウトが簡単に言わないで!あたしはあなたなんかよりずっと前からこの業界で生きてきた!そのあぶなさも知ってる。知ったような口をきかないで!」
思いがけない激昂をくらった。
そんな……なんかって……。
「なおくんとの付き合いだって、あたしのほうがずっと長いんだから。なによ!ちょっとばかし同じ妖魔を拾ったからって、あたしより上に立った気にならないで!」
上にだなんて、そんなつもりは……推しの少女から直截的な嫉妬のことばを浴びせられて、佐和子の心は千々(ちぢ)に乱れる。
絵里も言い過ぎたと思ったのだろうが、一度出したことばはもどらない。
きまり悪くしていると
「……ああ。力が切れたわ」
片輪車の動きが悪くなり、ついにはぴたりと止まった。
「ここからは歩きね。大田原先生を起こさないと……」
気を失ったままの顧問を抱き起こす。
「先生。起きてください、先生!」
揺さぶると、髪も眼鏡も乱れた教員は目を開けて
「えっ……あら絵里さま……ここは天国?」
寝ぼけたことを言う。