妖精息子2の25
「――もうっ。やだ」
(尻がふたつに割れてもうたやないか!……って、初めからやんけ!)
心の内、古風な関西弁でひとりノリツッコミをしながら(たぶん)上から落ちてきた少女は、自らの臀部をなでた。
そこそこの高さがあったように思えたから、ぶつかり落ちて大丈夫かと思ったが、どうやら下はやわらかい素材だったらしい。特に怪我もなさそうだ。
まわりを見わたすと、まったくの惣闇というほどではないが、うすぐらい。上を見ても明かりはない。
ここが、ふつうの落とし穴の底ではないのはわかる。
床、そして手探ってふれた壁の感触からして、この空間はどうもみょうだ。空気そのものが、ぬめぬめひったりしてくる。どう考えても元の世界とは違うのだが、空間の構造自体は学園の校舎を思い出させる。もし学校が舞台の悪夢を見たらこんなではないだろうか、という不気味な感覚。
ぷーすけとも遠く離れてしまったらしい。
「どうしよう」
思わずつぶやくと
「……佐和子ちゃん?」
近くから聞こえるその声は……
「絵里ちゃん!?」
「そうだよ」
声をたよりに手探ると、いかにもきめ細かな肌質の手があたった。
それにちょっといい匂い。
「「ああっ」」
薄闇に目が慣れると、たしかにうるわしき推しの少女の顔がそこにあった。
「絵里ちゃんも落ちちゃったんだ?」
「うん。あたしの下にも穴があいたの」
地の王子は、立っていた人間をのこらず落としたのか。他の人では……
「大田原先生もいるよ」
エッ?
少女のそばには、化学教諭にして演劇部の顧問でもある女性が立っていた。メガネをずり上げ直しながら
「ふたりとも、ケガもなさそうでなにより……だけど、とんでもないことになったわね」
生徒を見る。
(まさか、大田原先生が雷の王子の選別に耐えていたとは……)
一見、すべてに杓子定規で理性的な現実しか受け入れないように見えるこの教諭に、この異状事態は似合わない。
ただ、佐和子は彼女の秘密を知っていた。
大田原教諭は、少女ふたり以外ほかにいないのを確認すると、にわかに破顔一笑
「それにしても、やはり絵里さまね!こんな危機的な状況に生き残っていることがすでにスターの証だわ!そして、あたしが残ったのはそんなスター・エリの活躍を見るためなのね!やっぱり、神さまはあたしに尊きものを見届ける役目をお与えになっているの!」
手を組み天を仰ぎ見て、恍惚とした表情でさけぶ。




