妖精息子2の19
「振り子のようですね」
ぷーすけがつぶやく。
ドクター・ヌエロウも
「今からみんなに見せるのはペンデュラム・ウェーブ、すなわち振り子の波だよ!」
言っているが、みな「波」の意味がわからない。
ヌエロウは口をニイッと笑み曲げて
「ともかく、まずは見てもらおう!さあ、レッツ・オブザーブ!観察してみよう!」
そのことばを合図として、糸に吊られた球体群がいっせいに揺れ始める。それぞれの糸の長さが異なるため、ゆれる速度にはちがいが出る……
が見ていると、それらの球はひとつづつはちがう速度で揺れているのに、全体を見るとまるでなめらかに動く生き物のように不思議な調和を見せ
「……あっ、(同じ位置に)そろった」
と、見えたその次の瞬間には、それぞれわかれた揺れをなす。
それからまたしばらく異なった揺れだと思ったら、またそろい……という動きを繰り返す。
「ヘッへッ、どうだい?ちょいとオモチロイだろう?わかるかなぁ?わかんないかなぁ?
少しだけサイエンティフィックに言っちゃうと、この振り子ちゃんたちは、糸の長さは全部ちがうけど一分ごとにちょうど同じ高さにくるよう調節してんだよね!振動の周期ってのは、ひもの長さによるからさ……」
ド文系の佐和子に、物理の説明はちんぷんかんぷんだが、同調するように変化を見せる振り子たちの動きはたしかにおもしろく、見とれてしまう。
それは講堂に集められた生徒、そして教員たちもかわらない。
始まったときはなにごとかと思ったが、たしかにサプライズ・イベントにしてよかったのかもしれない……佐和子が単純に考えていると、
背後に浮かぶぷーすけがつぶやいた。
「……ヘンですね。単純な振り子であれば、糸の摩擦や空気抵抗にエネルギーを取られてもうとっくに止まっているはずですが、あれは動きを止めていない。電気じかけでしょうが」
小首をかしげると、まわりを少しく見わたして
「そもそも、こんなに振り子を一心に見続けていては、影響が出ますよ」
「影響?」
小声になる母に
「ええ。なにせコチラモノ……人間が催眠術とやらでよく使うのが、振り子でしょう?」
そのことばに、少女がまわりを見わたすと、講堂にいるもの全員がだまって一心に振り子の波に視線をそそいでいるが、その目はとろんとしていて、まるで……
「――母上!」
考えにふける少女をぷーすけが押し倒す。
「エッ、なに?急に……」
ふりかえって文句を言おうとした少女は、ことばを飲んだ。
いま自分が立っていた床に、ボール・ペンを突き刺す男子生徒のすがたをみとめたからだ。




