夢の始まり
僕達は異世界へとやって来た。
そんな、夢や物語の中にある出来事じゃないんだから........
と、否定するのも難しくなってきた。
百メートルはありそうな樹木に空に昇る2つの太陽、2頭6足の狼に角の生えた兎、3本の角が生えた熊。
日本に無いような植物に地球にいないような生き物。何より太陽が2つもあるなんてそもそも絶対無い!!
◇
「おい、マジでどうなってんだ!!」
「なんで、太陽が2つもあるんだよ!!」
「運転手さんは何処行ったんだよ!!」
「もしかしてこれが異世界召喚ってやつか.......」
「家に返してよ!!」
「先生!!これは一体どういうことなんですか!!」
「駄目だ!!携帯が使えない!!」
「おい、誰か外出て見に行けよ!!」
「嫌よ、あんたがやりなよ!!」
「なんか、向こうの方に変な生き物いるぞ!!」
「刀!!刀!!刀!!刀の気配がするぞ!!」
「誰かバスの外に出て様子見てこいよ!!」
「どこにいんだよ!!何もいないじゃないか!!」
「もう終わりなんだよ!!このままみんな飢え死んでしまうんだーー!!!」
「バカなこと言ってないで落ち着け!!」
「おいやめろっ!!それは俺の水だぞ!!」
「ちょっと、私の貴重な食料を取らないでよ!!」
「うるせぇ!!最後に立ったものが勝ちだろ!!」
「お前やんのか!!」
「皆さん落ち着いて......」
「お前やめろよ!!こんな時に争っても......」
「うるせぇよ!!殺る気がない奴は飢え死んどけ!!」
「何言ってんだよ!!みんなで協力すれば......」
「協力すればどうなるってんだよ!!俺達は助かるのかよ?」
「アハハハハ!!もうおしまいだぁ!!みんな死ぬんだよぉ!!」
「異世界と言ったらスキルがあるじゃないか!!ステータスオープン!!」
「なにバカなことしてんだよ、こんな時に!!」
「そもそも、誰がこんな事を!!」
「テメェら全員死ねぇ!!」
「落ち着けよ、落ち着けって!!」
クラスの混乱は増していき遂に崩壊寸前まで差し掛かっていた。委員長もクラスメイト達を落ち着かせようとしているものの、むしろ勢いはさらに増していく。
「なぁ、斎藤」
「これだいぶ、ヤバくね?」
「どうしよう海藤くん......」
「このままじゃ、本当に殺し合いになっちゃうんじゃ.........」
一部のクラスメイトは水分や食料の奪い合いを始めようとしている。みんなピリピリしてお互い疑心暗鬼になりつつあるし.........
だからといって、僕たちが止めようものなら火に油を注ぐことになりかねないし........
「どいつもこいつもピーチクパーチクと.........」
「うっせぇんだよゴラァ!!あ゙ァ゙ン?」
........と、僕が心配していた矢先に火に油ならぬ火薬を投入していく幼馴染が目の前にいる!!
マァジでナニシテンノ龍ちゃん........
ただでさえ、ピリピリしていた空気が更に酷くなるどころか僕たちに矛先が向いちゃうじゃん!!
「な、なんだよ龍轟!!」
「お、お前みたいな何もしないよりかマシだろ!!」
案の定、クラスメイトの一人である小田切という男子が龍ちゃんに突っかかってきた。
「あ゙ぁ?」
「ヒッ!?」
しかし、龍ちゃんの睨みと唸り声に小田切君は自分の席に隠れて縮こまってしまった。
まぁ、龍ちゃんの筋骨隆々な体格と喧嘩っ早い性格を知っていれば誰も龍ちゃんに立ち向かうなんてしないか......
今まで黙ってた龍ちゃんの参戦により、今まで喚いてたクラスメイト達全員が一瞬にして黙ってしまった。
その隙に僕は龍ちゃんに目配せをして合図を出す。
「チッ、意気地なし共が......」
「しょうがねぇ、ピーチクパーチク鳴くことしか出来ない意気地なしの根性なし共に変わって俺たちが外を見に行ってやるよ」
「ちょっ、龍轟くん!?」
「外は危ないわ!!危険よ!!何がいるのか分からないのよ!!」
龍ちゃんの思わぬ発言に委員長は驚くも直ぐに龍ちゃんの行動を止めようとする。クラスメイト達もどよめいた様子を見せている。
「そう遠くは行かねぇよ、バスの周りを少し見てくるだけだ危険もクソもねぇわ。それと、幼馴染と馬鹿海藤もついて来い!!」
まぁ、バスの周りなら安全か......
みんなの視界に収まる範囲だけなら、何か変な生き物が近づいて来てもみんなが知らせてくれるだろうし、バスの近くなら直ぐにバスの中に逃げ込めるし。
「ちょっと、龍轟くん!!」
「うるせぇよ委員長。テメェはさっさとクラスの奴らをまとめて静かにさせとけ。また、ピーチクパーチク鳴かれたらうざいったらありゃしないぜ」
委員長がもう一度止めようとするも龍ちゃんは軽くあしらって、僕と海藤くんの首根っこを掴み扉の前まで進んでいく。しかし、扉の前まで来ると龍ちゃんは立ち止まり僕と海藤くんを床に下ろす。
「どうしたの龍ちゃん?」
「そういやぁ、バスの扉ってどう開けんだ?」
あぁ、確かに......
いつもなら、バスの運転手さんが開けてくれるけど今はいないんだった.........
「しゃあねぇ、開けられねぇなら窓から出るか!!!」
そう言って僕と龍ちゃん、次いでに海藤くんはバスの窓から飛び降りるのだった。
ちなみに、意外と地面との距離があって普通に怖かった。
◇
「...........んで、なんで俺と斎藤まで巻き込むんだ龍野郎?バスの周りを見るだけならお前一人で十分だろ?」
海藤くんが龍ちゃんに疑問を投げるが龍ちゃんは聞こえてないとばかりにスルーして行く。
それにしても、地面が湿って少しぬかるんでる......
雨でも降ってたのかな?空を見上げると先程と変わらず太陽が2つ昇っている。
それにしても、地面がぬかるんでて歩きづらい。よく見ると動物の足跡がいくつか残ってるし........
大きさ的に僕たちの何倍もある大きさの動物から小さな小型動物の通った足跡までくっきり残っている。
「あれ?」
そんな中、地面を観察していた僕は不思議なものを見つけた。いや、見つけたというより見つけられなかった?見つけられなかったことを見つけた?
「ん?どうした斎藤?ションベンか?」
「いや、ションベンじゃない。普通に違和感を感じただけだよ」
そう、違和感だ。おかしいんだ。
あるはずのものが無いんだ。いや、もしかしたら僕の勘違いなのかもしれないけど........
「いや、僕たちってバスでここまで来たんだよね?少なくとも僕はバスで来たと思ってるけど......」
「だけど、バスで来たのならバスのタイヤの跡が残ってないとおかしいんだよね。ここまでバスで来ているなら跡が残るはずなのに......」
「バスのタイヤの跡?別に跡が消えたのかもしれないだろうが。時間が経ってよ」
「もしくは、最初から付いてなかったんじゃないか?」
「つーか、そもそも異世界なんだから転移だか召喚だかなんだかしたんじゃねぇの?」
「まぁ、それもそっか.......」
「やっぱ、いいや。この話は忘れて」
なんだろう?でも、違和感がある......
この喉の奥まで出かかった答えが引っかかってる感じ........。出そうで出ない気持ちかな?
なぁんか、モヤモヤするなぁ〜
「なぁに、探偵ごっこしてんだバカ野郎。さっさとテメェが言ってた大事な話とやらを聞かせろよ」
あぁっと、そう言えばその事を忘れてた。
なんか、変に強い違和感を感じたのが不思議で忘れちゃってたよ。
「ん?なんだ、大事な話って?」
「バ海藤には言ってなかったが、幼馴染はいきなり俺に目配せしてきて大事な話があるからクラスメイト共に聞かれない場所に移動したいとか抜かしやがったんだぜ?」
「ったく、この困ったくんは何でもかんでもいきなり過ぎんだよバカ野郎が」
「んで?話って何なんだよ、もったいぶらず早く言えよ。お手洗いか?初恋か?体調でも悪いのか?」
「全部違うよ龍ちゃん」
「ねぇ、龍ちゃん海藤くん。あっちの方に三本角が生えた熊がいるんだけど見える?」
僕は2つの太陽が沈む方向に指をさす。
龍ちゃんも海藤くんも頭の上に?を浮かべた状態で僕が指さした方向を振り向く。
「なんだよ斎藤、何もないじゃん」
「強いて言うなら木と草が生えてるだけだな」
「俺も木と草が見えるだけだな。いや、木の上に牙の生えたリスがいるな」
海藤くんも龍ちゃんも殆ど同じ答えが返ってきた。いや、龍ちゃんはプラスで牙の生えたリスを見つけたみたいだ。
よく見つけられたよね、あんな小さなやつ.........
「そっか......」
「じゃあ、これは僕のスキルと言った所かな?」
「スキル?何を言ってんだ斎藤?」
「色々あり過ぎて、遂に頭がおかしくなっちまったのか?」
いや、海藤くんには絶対に言われたくないんだけどその言葉は.......。あぁ、でも海藤くんはいつも頭が悪いか。
「えっとね、簡単に説明すると僕は物凄く目が良くなってる。数百メートル先にいる虫が花の蜜を吸っている所をハッキリとクッキリと見える程度にね」
「もちろん、龍ちゃんが言っていた牙の生えたリスや三本角の熊が食事をしている所まで」
「そして、これはきっとスキルの力なんだと僕は思ってる。ほら、異世界に行ったらスキルを貰えるのは定番じゃない?きっと、僕の能力はきっと視力を良くする能力なんだろう」
「そして、多分だけどクラスメイト全員スキルを持っているんだと思う。なんせ、何の才能もない僕でも手に入れられる程なんだからね。みんな気づいていないだけで強力な能力を持つスキルを持っているのだと思う」
「なるほど、確かにここが異世界なら俺たちがスキルを持っていてもおかしくないか......」
「でも、別に俺たちだけに話すことでもなくないか?クラスメイト達にも教えてやれば少しは心の持ちようがあるってもんなんじゃないのか?」
「いんや、これはむしろクラスメイト共には伝えない方が良い。弱者が何の努力もせずにいきなり強い力を手に入れりゃ、思い上がって良からぬことを企む奴が出てくるかも知れん」
そうだよねぇ。自分の身に余る力をいきなり持たされるんだ。うまく使いこなせなければ内側から崩壊して最後は悲しい結末だ。それは、僕も龍ちゃんも幼い頃に身に沁みて感じたことだ。
「派閥での争いや最悪殺し合いにまで発展する危険がある。今そんな事を追っ始められれば確実に俺らも危険な目に晒されるだろうし、本当にこの事を話すんじゃないぞ。聞かれても知らないふりしてけ。これは俺らの秘密事項っとことで」
みんな自分に強力な能力があると知ってしまったら、今度こそ酷い殺し合いになるかも知れない。
そんな事にならないように僕は全力を尽くすよ.....
でも.......
でももし、殺し合いになるようなことがあったら僕はどうしよう?もし僕の手で人を殺さなくちゃならなくなったら........
まぁ、その時は幼馴染と友達を守る為に僕はクラスメイトを手にかける。その覚悟が僕にはある。
「さてと、じゃあ戻りますかなぁ」
そうして、僕たちはバスの中へと戻っていった。
ただ、窓から飛び降りて来たため入るのは出る時よりも大変だった。
◇
バスの中で......
バスの中は不気味なくらい静寂に包まれていた。
先程の龍轟 龍之介による思わぬ行動にと発言に加えて、委員長がクラスメイト達をなだめた結果、クラスメイト達の取り乱した様子から一変して静寂が支配する空間と化していた。
そんな静寂の中、一部の者達は密かに動いていた。
それは、現状を把握しようとする者、周りを観察する者、深い眠りに支配されている者、何やら興奮している者、荷物をまとめる者、等々である。
そんな中、ここにいる2名のクラスメイトが何やら動き出そうとしている。
「なぁ姉貴?」
荒々しく強い自信と力強さを感じる声が姉貴と呼ばれる人物を呼び止める。隣の席に座る姉貴と呼ばれた人物は声の主の方向に顔を向け頭をコテンと倒した。
「どうしたの光?」
姉貴と呼ばれる人物の声は澄んでいて優しくて甘い声が光の耳をくすぐる。
「なぁ、姉貴」
「俺の目の前にゲームのステータス画面みたいなヤツがあるんだが、何だこれ?」
突如、光が変なことを言い出し姉貴と呼ばれた人物は更に頭を傾ける。
「ゲームのステータス画面?攻撃力とか載っているの?」
「いや、そういうのは無いけどスキルとかそう言うのが見えるぜ!!」
「ほら、アレだよアレ!!なんて言うんだっけな?ああ言うのって?」
「ふぅん......」
「ねぇ、光?ここって現実だと思う?夢じゃないかしら?」
「ん?何言ってんだよ現実に決まってるだろ。姉貴安心していいぞここは夢じゃない現実だぜ」
「そう、じゃあやっと解放されるのね......」
「計画が色々台無しになったけれど、ねぇ光?新しい人生をまた私と一緒にいてくれる?」
「もちろんだぜ!!ただ、糞ジジイと糞ババアに復讐出来なかったのが心残りだぜ。アイツら絶対に俺らがいなくなってほくそ笑んでやがるぜ?」
「良いのよあんな人達の事なんて忘れて。これから私たちは好きなように生きていきましょう」
「だな、姉貴!!」
そうして、2人クラスメイトの新しい人生が幕を開けたのだった。




