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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第二章 聖なる森と出発
52/190

48 旧市街地商業ギルド

 

(なにかまた、やらかしてしまっただろうか……)


 商業ギルドの吹き抜けの高い天井を見上げる。

 アーシアの心配をよそに、今日は人が多くアーシアたちのことは、気に留めているものはなかった。


 学費を稼ぐ必要があるという理由もあるが、(はか)らずしも、こんなに年月(としつき)が経ってしまった。早く卒業して師匠に会いに行きたい。

 それこそ、飛び級して。


 発明品(はつめいひん)を作るというのは一種の才能らしい。発明品の一つでもあれば、飛び級できるそうなので開発していた品だ。

 学校の案内を読んだ時にもそのことが記されていた。師匠自身の言葉からも、飛び級は非現実的なアイデアではなさそうだった。

 そのために、ポケットコンロを開発していた、と言ってもいいくらいだった。


 ただ、アーシア以外に、ほかの錬金術師には、あの仕掛けは作れないかもしれない。

 魔法式のみならず、アーシアの同時魔法陣は、特殊なのかもしれなかった。

 今日のアポテーケ錬金術店を見て、アーシアは思った。少し考え方を変えないといけないかもしれない。



 しばらくすると、先ほどのギルド員がこちらに、とアーシアを案内した。

別室に通されるらしい。

 ゴソゴソと胸のスリングが動いた。胸元が暖かい。アーシアが小声で、


「帰って来たの?」


 《おいら、念話が使えるようになったから、声に出さないでいいぞ。

 うん、ただいま》


 すると、スリングの中で、居心地がいいようにグルグルとポジションを変えて、いい感じに収まったのか、話し始めた。


 《ちょっと、あっちでいろいろあってさ。

 もっと頻繁に行かなきゃいけないかもしれないんだ。アーシア、ここは?》


 《商業ギルド。コンロを売ろうと思って来たんだよ》


 《そうか。それはいいな!》


 ぴょこっと顔を出すと、猫のように、ニャンと鳴いた。



「どうぞ、こちらでございます」


 ドアを開くと、応接室になっていた。

 思っていたより若めの男が立ち上がって、こちらにやってくる。



「副ギルド長の、ベルナルド・ペプローです。

 どうぞ、こちらにお座りください。ようこそ。ええと、お名前は……」


(副ギルド長?!随分偉い人に、通されちゃったな……)

 なるべく落ち着いて見えるように、アーシアは分からないように深呼吸した。


「アーシア・デイスです。よろしくお願いします」


 手招きされて、案内された席に座った。



 アーシアはペプロー氏に、しばらくの間、発明品についての発明者の権利や販売法などや、一度発明品と認定されれば証明書を取得できるという旨を説明された。



「では、今日お持ちいただいた品物は?」



 ペプロー氏は、副ギルド長という割には若々しい男だった。若葉のような緑の髪を一つにまとめ、縁のない眼鏡をしている。身なりもキチンとして、物腰は柔らかい。


「こちらです。空間収納から出しますね」


 アーシアは、テーブルの上に、発明したコンロを出した。


「これは、何に使うものですか?」


 興味津々で身を乗り出すペプロー氏。


「持ち運びができるかまどです。【ポケットコンロ】と言います」


 そういって、銀色と黒い五徳がつき、横に四角い金属に箱がくっついているコンロを取り出した。


「――かまどですか?随分小さいですね! どうやって使うんですか?」


 ペプロー氏が眼鏡を上げてじっとコンロを見つめた。


「やってみましょうか?」


「すぐにできるんですか?」


 アーシアは、前に着いた取っ手を回した。チチチチ……という音と共にぼうっと音をたて火がついた。


「こ、これは……すごいですね!!!

 素晴らしい発明です!!

 幾つぐらい販売できそうなんですか?

 是非とも、当ギルドで売らせて頂きたいのですが」


 と、ペプロー氏は人が変わったように興奮気味だ。


 アーシアは、はっとして、


「あ、そういえば! 

 わたしまだ、錬金術製品取扱管理士の資格が……ないんですっ」


 ペプロー氏は、きょとんとして、


「ああ、そうなんですね。別に構いませんよ。発明品は何よりも優先ですので。

 もしどうしても取りたいようでしたら、時間があるときで結構ですよ」


「そ、そうなんですか。じゃ、ええと……とりあえず、手持ちは……」


 アーシアはたじたじと、少な目の数を言った。

すると、ペプロー氏が、金色の混ざった目をクワっと見開いて、


「そんなにですか!ちょっと、お待ちください。

 しょ、商品の販売価格は…ええと…高級品として…」


「別に、高級品でなくても……」


「いえいえ!だめですよ!ハイランク冒険者なんてお金持ちなんですから、がんがん売っちゃいましょう」


 ペプロー氏の熱意に押されまくり、アーシアはタジタジする。


 ペプロー氏は、凄い速さで手元の書類を書き込みながら、


「この時期は、セドゥーナ学園への入学で発明品の持ち込みが増えるんですが……ちゃんと物になっているのは初めて見ましたよ。

 あ、これひとつお借りしてもいいですか?」


 そして、いきなりバッと顔を上げて、(いささ)か、陶酔した調子で、


「それにしても、ポケットコンロ、コンロですか!なかなかエキゾチックな、いいなまえですねぇ!

 この表面が銀色なのも、まばゆいくらいです!」


 かなりの熱の入りように、アーシアは押されっぱなしだった。


(コンロの響きがエキゾチックって……異世界だからかなぁ。

 ああ、焜炉(こんろ)って書くから、もしかして、

 日本語的な響きに聞こえるのかな?それで、エキゾチック………エキゾチック…ジャパ……)


 いやいやと、アーシアは余計なことを考えたなと思い、頭を振った。



 心配していたコンロは、レシピ非公開でアーシア個人で生産する、という契約になった。数は心配だがその方がいいだろう。

 一度販売したものを鑑定したとしても、アーシアの錬金スキルは特殊なので仕組み等は隠蔽するまでもなく、分からないだろう。



 ペプロー氏との話し合いで、証明書発行に一週間はかかることと納品の数の相談をした。

 話をしていると、マドカがひょこっとスリングから顔を出した。ペプロー氏が、パッと顔を上げた。


「あ、あの従魔なんですが、不味かったですか。

 動物を建物に入れるのは……。一緒に連れてきて大丈夫でしたか?」


「もちろんですよ、それよりその前に掛けているかばん!」


「あ、これ本当は赤ちゃん用で、ベビースリングといいます。

 だいぶ前に作ったんですが、ご存じないですか?」


 ペプロー氏は端正な見た目に反して、鼻息荒く


「これも?!もちろん、登録ありませんよ。僕が全部暗記してますからね、

 確かです。

 ところで、これは裁縫ですか?錬金ですか?」


「裁縫でもできると思いますが、これは錬金です」


「エクセレント!こちらの登録もしましょう。レシピはどうされますか?

 よそで作られた分は開発者の権利で一定期間、使用料が徴収できますが」


「そうなんですね。わかりました。こちらなら、レシピを公開できるのでどなたでも作れると思います」


 後でわかったことだが、売ってくれと雑貨屋さんに渡したベビースリングは全部パーマーさんの妹さんが、買い占めていたそうで、妹さんもそんなに人口の多い場所で子育てしていなかったせいか、全く世間に広まってなかったのだった。


 思いがけず増えた商談を進めていると、ペプロー氏が、


「どうですか?まだ、試験までに時間があるから、ゲアラドに一カ月の残ってくれませんかねぇ。滞在もこのギルドの上の階に無料で宿泊できますよ。

 もちろん、いくらでも錬金釜もお貸しできます」


 と、手揉みこそしないが、にんまりとしながら、アーシアに言った。



 結局、ひと月くらいなら余裕はあったし、家賃もかからない、鍵もかけられ、放っておいてくれるということで、よいご提案だ。なので、アーシアはそのまま、ギルドにお世話になることにした。


 マドカは『大丈夫なのか?』と横目でみていたが。


(大丈夫……多分)アーシアは、ペプロー氏の張り切った顔を眺めていた。





(おまけ)


《なあ、アーシア、エキゾチック・じゃぱ、って、なんだあ?》


《あっ、聞こえてた?(念話で?気をつけなきゃ……)

 う、うん、な、何でもないよ……》


 今のマドカの言葉で、アーシアの頭に中は、あの歌で一杯になってしまい、止めようとすればするほどマドカまで合唱のように入って来て……頭を抱えたくなった。

 この、真面目に人が行き交う商業ギルドのホールで……





               ~~ジャ、パ~ァーァーン!!~~



お読みいただきありがとうございました



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何卒どうぞ、よろしくお願いいたします

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