47 中継都市ゲアラド
古い幌馬車は、とても揺れた。初めは客はアーシア一人だったが、途中、一人乗って、降りてと、客が入ってきていた。
過ぎていく景色が、岩の荒野から緑の木々が生え、畑が増えるようになっていく。
そろそろ、終点の町が見えてくるころかもしれない。
急に大きな城門が遠くに見えてきた。中継都市ゲアラドだ。
降ろされたときは、地面がぐらぐらして見えたから、気が付かなかったが、かなり馬車酔いしていたようだ。この世界では、短距離の馬車以外は、魔獣や魔獣のミックスが馬車を引く。大層早いが、かなり揺れる。アーシアが見たのは一見すると、頑丈そうな馬だったので、言われるまで気が付かなかった。
馬車に乗ったあたりから、マドカがいないようだったので、また、神殿に戻っているのかもしれない。
ゲアラドは、ホノリア王国にある中継都市と言われている都市だ。エゲリア森公国、アーテー国との境でセドゥーナにも近い、交通・物流の要衝となるハブ都市で、人口も多い活況な町だ。
岩塩も有名で3国の合流都市としてだけでなく、地方ではあるが栄えている。
アーシアにとって、アルディアに来て初めての大きな街である。
駅馬車の集うロータリーが停車場所だったので、セドゥーナ行の馬車を探すと、定期的に出ているそうで、時間表を見せてくれた。
いつの間にか夕方で、翌日の便でセドゥーナに向かうことにする。
これだけ大きい街のせいか、もう仕舞いの時間である駅馬車ロータリーにも、行き交う人がまだ多い。
三国の人々が行き来するため、人々が各々服装の特徴が色々違って見えた。
皆せわしなく先を急ぐように歩いて行く。
人が多いので亜空間作業場で休むよりも、宿を取ったほうが良いだろう。
歳月だけはアルディアに長くいるアーシアだが、アルディアの常識は、ビッコロ村以外ない。
少しこの都市を見て回るのも、いいかもしれない。
この地域はゲアラドの旧市街地にあたり、町並みは石やレンガで、静かで美しく古風な外観を持ち、ゆったりと馬車が通れる大きな道路が敷かれている。
近くにいる帰り支度をしている御者に、商業ギルドの場所と、この辺りで泊まれる場所、そして錬金製品を専門に扱う店はないか聞いてみた。
御者は一旦手を止めて、アーシアを見ると、また作業の手を動かしながら、
「商業組会ならここの左手の道に行ってすぐにあるよ。町の中央にもあるけど、あっちはホノリア国のギルドだから、お嬢さんにはこっちのギルドのほうがぁ、お勧めだね。
旧市街地ギルドは、全国に跨るギルドだから、外人でも使いやすいんだよ。
あとはね、錬金の専門店も丁度この旧市街地にあるね。アポテーケ錬金術店っていうのがこの辺じゃ有名かな。
ほかの国にも2店舗あるよ。後は、宿か、商業ギルドに今行くならそこで紹介してもらったらどうだい?」
「この時間、ギルドはまだやってますか?」
「うん、でも急いだほうがいいよ」
「ありがとうございました。よかったら、これ」
アーシアは袋から(出したように見えるように)以前作った【健康湿布】を渡した。
日焼けしたおじさんは、少し驚いたようだった。
「あの、お礼です」
おじさんは、
「なんだかいいの、貰えたなぁ。ありがとう。旅、気をつけていくんだよ」
と言って去って行った。
アーシアは石畳を急いで、教えてもらった道を行く。広い道沿いなのですぐに場所が分かった。
大きな、砂色の建物で赤っぽい屋根の下側はレンガになっている。段を上り、大きなドアを開けた。
中は、客がまだちらほらいる。
真ん中突き当たりに、窓口があるのでそこへ進んだ。
若い女性が事務仕事をしていた。
「あ、あの、すみません……」
「はい、なにか御用ですか?」
「発明品を作った場合、登録はこちらでよろしいでしょうか?」
女性ギルド員は、若干、焦ったように、
「担当者が、今、丁度、留守にしております。
明日の午後には、出勤していると思います」
「そうなんですか。
でしたら、この辺りでわたしでもとこれから泊まれるような宿はありませんか?」
「それなら……」
ギルドに紹介してもらった宿の場所は、丁度アーシアが聞いていた、アポテーケ錬金術店の傍だった。
ギルドを出て、そちらに向かう。
建物に入った時より、人の行き来はばかに多い。
荷馬車も列をなして止まっている。
馬車の持ち主らしい男たちが大きな声で、
「こまったな、岩塩坑で爆発だってよ」
「おかげで、こっちは動けなくなってしまったよ。
まったく、面倒なことする奴がいるもんだぁな」
「え、事故じゃないんで?」
すると、声が小さくなって、
「もう使ってない方の、狭い場所だったんだ。あんなとこ、誰も普段行かないよ。
今、軍が調べに来てて、通行止めだ……」
「きっと、いたずらだよ、まいっちゃうな」
そんな、おしゃべりが聞こえてくる。
アーシアは通行止めには、ちょっと気になったが、宿へ急いだ。
翌朝アーシアは、アポテーケ錬金術店に向かった。きれいな作りのギルドと同じような砂色の建物だ、大きな窓から、錬金術師が作業している所が見られるようになっている。
錬金技術者の店員は、キチンとしたシャツに皮のエプロンをして作業している。仕事は丁寧で、手元に小さ目な魔法陣を出している。
錬金術師の作業を、このよく見える窓越しにしているのは、窓の前で見物客の子供などが多く見つめているのを見ると、集客のための宣伝なのかもしれない。
しかし、アーシアのように複数で魔法陣をだしたり、当然魔法式を作る様な、錬金を行うものはいなかった。
店に入ると、商品が同じテーブルの高さので揃えて陳列されている。壁側には、高い棚があるがそれもきれいにディスプレイされている。
カウンターが店を見渡せる場所にあり、ベストとシャツの制服の女性が手を揃えて立っている。
アーシアは商品を見て回る。キッチンコーナーもあり、金物でさえ、おしゃれに並んでいる。横にカタログが置いてあり、調理かまどやシンクなどが載っている。
アーシアはしばらくそれを見ていた。
(うん、わたしの携帯コンロはないみたい)
店員からも、声をかけられずじっくり見ることができた。
続いて、壁際に行って、棚を見ると染料が各種カラフルに置いてあった。
自分で作る染料とは違うように見える。しかも、いい値段だ。手に取ってじっくりと見てみるが、やはりなにか違って見えた。
アーシアは、一度ぐるりと店内を見て回り、染料とちょっとおしゃれな置時計をカウンターに持って行った。
「お買い上げですか?」
マニュアル通りなのかもしれないが、このアーシアの持っている品物は、若い娘がポンと買うには結構高いのかもしれない。
しかしながら、最初の村で売った骨がかなりいい値で売れたので、アーシアには、少し余裕があったのだ。
「はい、お願いします」
「贈答用に、おつつみしますか?」
「いえ、いいです」
店員はにこっと笑った。
(いろいろ鑑定したかったけど、悪い人にはなりたくないものね……買ってからなら、いいよね)
店を出て、少し回り道をしてギルドへ向かう。途中どうしても気になって、道の隅で染料の鑑定をしてしまった。
鑑定すると、【草花染料・赤(調剤)】とでていたので、錬金でなく調剤、薬剤師のスキルで作られていることが分かった。
アーシアも調剤のスキルが重複しているものがあるので、できるのかもしれない。
石畳を歩くと建物は、みな同じような色で高さも大体揃っている。馬車道ではないので、周囲もゆったりしている。
道を横切るようにアーチ状に建物と建物を繋ぐレンガ造り(渡り廊下だろうか)がアクセントになっておしゃれだった。
その下を通るとき上を向いて覗き上げるようにしてゆっくり歩いた。
建物のすぐ横は石の外壁がすぐにある。
ギルドに着くと、昨日の受付嬢がいたので、担当者に取り次いでもらった。
しばらくして、若そうな男のギルド員が呼ばれてきた。
「発明品ですか?ここでは珍しいですね。どんなものですか?」
男が笑顔で言った。
「ええと、いま、空間収納から出しますね……これなんですけど」
ギルド員はぎょっとして、
「あ、あなたが作ったんですか?ちょちょっと待って!
……あと、それ仕舞ってください」
と言って、奥の部屋に、飛ぶように駆けて行った。
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