113春の宴はこちら①
執行部実行部隊恒例、春の懇親会当日となった。アーシアは早めに現場へ行って、自分の出す分の食事の準備だ。
今回の会場は、前回の露天掘り跡地の訓練場ではなく、いつもアーシアが棒術のレッスンで使わせてもらう、裏庭の隊員専用運動場だった。
「あそこで本当に大丈夫なの?」
と、前回の惨事を思い出しサムくんに聞くと、
「ああ、今回は距離が近いほうがいいんだ。
それに、練習試合くらいしかしないよ――たぶん?」と歯切れのよくない答えが返って来た。
サムくんは、注文しておいた飲み物や食料を取りに行っている。
いつものテントの下には、既に椅子とテーブルが何台もくっつけて並んで置いてある。傍には予備の椅子もあるので、参加者が増える予定なのだろうと、アーシアは考えていた。
テーブルの奥、生垣が自然のサンシェードのようになっている場所を背後に、長い折りたたみサイドテーブルを3台広げ、ポケットコンロ、七輪、網と下ごしらえを終えた食材などを用意していった。
テーブルの一つはやや離して設置し、縁が少し高くなった柔らかいマットを、隅に敷いておく。
「さあ、マドカ、今日はここで良い子でね」
《おいらなら、大丈夫だぞ!
この間のマルムーが来ても、相手にしてやるよ》
そう念話を送ると、マットレスの中に入ってくるんと丸まり、こんもりした白いボールのようになった。
「お~い!そろそろ、みんな来るよ!」
サムくんが、箱を抱えて入ってくると、後ろから岩魔法のヘルマンさんと雷のヴィンスさんが、それぞれ重そうな箱を持っていた。
デリバリーも丁度来たので、アーシアの方も、前もって仕上げておいた唐揚げと、付け合わせにサラダを盛りつけて用意した。
空間収納から出した大量の唐揚げは、揚げたての熱々でブワッと美味しそうな匂いを放っている。
ポケットコンロは足らなくなった時に、唐揚げをその場で揚げる用だ。ローストビーフを薄く切っていると、ざわざわと入り口で賑やかな声がして、皆が入って来た。
ソースは焼いた肉の脂を素に作ったオーソドックスなグレービーソースと醤油とみりんにアルディアのワサビを用いたワサビ醤油のソースだ。
ルッコラを添えて飾りつけをする。もう一方の七輪の傍には容器に入った焼くだけのムナギ(うなぎ)と、広い甕型の陶器があり、アーシアが作ったみりんと濃口醤油で作ったたれが入っている。
「あらあ、美味しそうね」
カルラが今日はナオミ先生を伴ってやって来た。
「こんにちは。
……ナオミ先生も、染毛剤の時は、ありがとうございます」
「いえいえ、私は特に何も……セドリック先生の方が……」
「そうそう、それで思い出したけど、セドリック先輩も誘ったんだけど、
都合がつかなくてね、来れなかったのよ」
ナオミが残念そうに言うと、カルラが続けて話した。ナオミは謙遜しているが、引き続き、染毛剤の改良に協力してもらっているので、"何も"ということはないのだ。
カルラはいつもの通り華やかで綺麗だが、最近はナオミ先生も、短期カラーをすごぶる気に入ってお洒落になった。部分的に髪色を変えるのが好きなようで、今日も黄色くインナーカラーを入れている。
なかなかハイセンスなお洒落さだ。以前の如何にも研究者然としていた時より、表情も明るくなったと評判だった。
「やあ、こんにちは。お嬢さんがた」
そう言いながら、ステファンがスマートにやって来ると、一番運動広場に近い場所に座った。
「一応ね」
と、笑いながら言っていたが、やはり危ないのではないだろうか。アーシアには一抹の不安はあった。
「よおぅ」
「こんにちは、俺も今日は時間通りでしょ。ささ、皆さんもどうぞ」
ヴィクトルが入ってくると、続けてカイトが数人を伴って現れた。
「ヴィクトールよ、そんな挨拶はどうかと思うよ……」
と、言っているのは、オットー・ブラウアー先生だ。その横には細工科のマルコ・ブリリア先生もいる。
オットー先生が来たことに驚いたアーシアだったが、もし時間が合ったらアーシアが作った醸造品を見てもらおうと嬉しく思った。
皆がそれぞれ席に着くころには、テーブルにお料理が並んで、グラスや小皿も用意された。
「久しぶりですね、オットー先生、来ていただけて、嬉しいですよ」
「うん。今日はワタシも、都合がついてね」
「やあやあ、諸君。我輩を待っていたかね。今日も、用意してきてやったぞ」
アレッサンドロが、片手を高く振りながら入って来て、近づくなり、ギョッとして真顔になった。
「は、オットー・ブラウワアー先生じゃないですか」
「うん。久しいね、アレッサンドロ。
今日は、ワタシも君の醸造飲料を楽しみにしているよ」
ひぃっと、アレッサンドロは小さく言うとぶつぶつ呟いて、そそくさとヴィクトルの横へと向かった。
ヴィクトルは、ステファンの横に座り、反対を一つ置いて、その横ヴィクトルの向かいにカイトが腰を下ろした。カルラとナオミは並んで座った。
「今日も、ルビィを連れて来たんだ。マドカ君、よろしく頼むよ」
マルコ先生が従魔のマルムーをマドカの居るテーブルに連れて行って放すと、二匹は鼻をくっつけて挨拶すると一緒に敷物の中に仲良く入ってゆく。
その二匹の様子に微笑んで席に戻ると、マルコはオットー先生と共に女性の側の席に腰かけた。アレッサンドロの反対側は席が全部埋まってないが、若手のためにとってある席のようで、直ぐにサムくん、ちょっと苦い顔をしながらヴィンスが座った。
アーシアは料理のため、一番奥に控えていた。
「すみません、少し遅れましたか?」
息を少し切らせながら、それでも涼し気な様子でフリムカルドがやって来て、アーシアの横の席に座った。
「お、珍しいね。君が来るなんて」
とステファンが言うと、飲み物配りや作業を最後までしていたヘルマンが大きな体を縮めて横に座りながら続けて言った。
「そうだな、もっと来るといいよ」
やはり防御結界が張れる二人がその席なのかと、アーシアは思いながら、一旦、自分も席に着いた。ローストビーフは薄切りにしたものが大皿に、唐揚げも山盛りテーブルに載っている。他のメニューも沢山あって、大変豪華な光景だ。
蒲焼きは、乾杯をしてから焼く予定だった。音頭を取るのは誰にするか揉めた結果、最終的にはアレッサンドロになった。今日は白衣ではないアレッサンドロが小ざっぱりした姿で立ちあがった。
「では、僭越ながら……乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
皆一斉に、それぞれ好きなものを小皿に取っていく。
「そのお肉はどうやって食べたらいいのかしら?こっちのソース?」
ナオミが目の前にある、ローストビーフを見て、アーシアに聞いた。
「はい、お取りしますね。こっちのソースは一般的なもので、
そちらの濃い色の方はジュェワの原料を使っています。清涼感のある、すっとした辛みがあります」
「あ、私もいただくわ」
「ソースをおかけしても?」
「ええと、私はジュェワ風で」
と、興味で目を輝かせているナオミが言うと、カルラも、じゃあと、
「私は、普通のにしてみるわ」
と別々のソースを頼んだ。2枚を皿にのせてソースを垂らして、二人に渡す。
「俺も……いいですか? これは、似たようなものが故郷にもあるんですよ。
あ、2種類味見していいですか?この唐揚げというのも、アーシアさんが作られたんですよね」
「そうだよ~この2つはアーシアお姉ちゃんが作って来たんだ。オレのもちょうだい~」
肉を切り分けたものにそれぞれ好みのソースをかけて配る。
「うん。美味しい! それにお肉の色が、綺麗だこと」
「ええ、いいお味ね。上品で。
それに、このジュェワ風ソース、とてもさっぱりしていいわ」
女性二人が言うと、男性陣もうまいうまいと囃し立て、合唱になった。
宴が始まりました
お読みいただきありがとうございました




