104それぞれの進路
おはぎが入った籠を用意して、『聖なる森』に空間扉を開く準備をした。マドカは久しぶりの兄弟たちとの再会に期待を膨らませているようだ。
気持ちを整えて集中して、鹿之丞たちの好む広場の切り株の前あたりを想像する。いつもの場所だ。
『空間扉・扉から扉へ』
上手く出来たようで、大きさも手渡しできるくらい十分だった。
しばらく待って、扉を叩く。——すると、向こうからも直ぐに叩き返してくる音がした。
「こんにちは。鹿之丞さん、いらっしゃいますか?」
『やあ、ちょうど休憩していたんだ。
ほら、そうしたらこの扉があいただろう、わくわくして待っていたんだよ』
まるで、土産物屋のカウンターから、ぬんと鹿が顔を覗かせているような様子は、非常にユーモラスだ。
「ええ、今日は、ちょっとお裾分けをと思って……
あの子たちもお世話になっていますし、どうです?元気にしていますか?」
「うん、元気で頑張っているよ。みんな、従魔契約で魔力が安定したのもあるけど、とても張り切ってね、
きみの役に立ちたいって、頑張っているんだ。
でも、まあ、まだ小さいからね、もう少し育ってからがいいだろうよ。
うちは、下の子たちもいい訓練相手、というか、遊び相手ができて、とても喜んでいるんだ。
ほら、あそこが見えるかい?」
扉の外をよく見ると、向こうの広い場所で、2頭の小鹿たちと子猫たちが、じゃれ合うように飛び跳ねているのが見えた。
アーシアは、目を細めて微笑んで、しばらくその光景を見ていたが、よくよく見ると、稲妻が走っていたり、水の短い矢が飛んでいたり、小岩が浮かんでいたりと、またそれを小鹿が軽々と躱し、エアカッターで切り裂いていくのが分かったのだ。
驚いて声も出ないアーシアの後ろから、いいなあ、と声がしたかと思うと、マドカが跳ねて飛んで合流していった。
『やあやあ、おまえたち、どうやらおやつをもらったみたいだよ。
こちらへおいで!』
鹿之丞が、珍しく大きな声で子供たちに呼びかけた。
おやつという言葉に一斉に気が付いた小鹿と子猫は、すぐさまじゃれ合いをやめて、こちらに急いで駆けて来た。
ただ、マドカだけは出鼻を挫かれ、ちょっとがっかりしながら戻って来た。
皆、切り株の周辺に輪になって集まった。
『わあ、ごしゅじんだ!』
『あたち、がんばっているわよう』
『おやつて、聞いたんだなあ』
ご主人という言葉に、小鹿がちょっとうらやましそうな表情をしたが、おやつという言葉を聞いてパッと目を輝かせ、いそいそと森の方に向かった。
子猫たちは、自分たちが日ごろどんな風に楽しく努力して過ごしているかを口々に言い、ぴょんぴょん跳ねていた。
「お皿を用意しましょうか?」
「いや、この葉っぱで十分だよ」
そういうと、小鹿が慣れたように綺麗な葉っぱを銜えて戻って来た。
「じゃ、配りましょうね」
そう言うと、下でグレーと白のハチワレがぴょんと跳び上がっていった。
しばらく見ない間に、丸い身体がいよいよむっちりして、ジャンプするとぽよんとたわんだように見える。
『ヨシが、やるんだなあ!』
「ん?なにを?」
『ヨシが、おやつをみんなに配るんだなあ』
そう言うと、真ん丸の子猫のヨシが、う~んと唸ると、おはぎの籠が浮かび上がって、中からおはぎが1個1個浮かび上がった。
そのおはぎは、順々に小鹿たちが用意した葉っぱの上に載っていく。
『ほら、役に立っているだろう。この子たち、みんなユニークな能力なんだね。
このこは、岩魔法のほかに、こうやってものを浮かすことができるんだよ』
訓練したら、みんな凄くなるよと声を掛けられたアーシアは、驚きと同時に誇らしさを感じた。
『おいしいね』
『うん、おいちい。これ、おはぎっていうのね』
『おいしーね』
『これは、なんとも、まったりとよいお味ですなあ……』
子猫たちと鹿さんたちは、和やかにおはぎを食べている。ちゃっかりマドカも、もう1個食べていたのでぎょっとしたが。
「どの味が好きですか?」とアーシアは、今後の参考にしようと皆に聞いた。
『全部~!』
『そうだね~』
『んむ、まったく。どれも、甲乙つけがたいですな~』
「いやいやいや」
仕方がないので、多数決を取った。アーシアは、メモ紙を持って来て、書き込む準備をした。
1人2票にしてそれによると、
・こしあん 鹿之丞、マドカ、小鹿1、ヨシ
・つぶあん マドカ、ヨシ、鹿之丞
・ずんだあん なごみ、小鹿1、エン、小鹿2
・きな粉 なごみ、エン、小鹿2
となった。子供にはずんだあんが、大人にはこしあんが人気かな、などと思っていると、長男鹿が帰って来た。
いつも、しっかり者のやさしいおにいちゃん保護者である長男鹿が、この時ばかりは大変ご立腹で、修羅場のようになりかかった。
アーシアは急いで、空間収納から長男くんの分を取り出して、渡したのは言うまでもなかった。
ヨシのほかに、女の子のなごみは、水から氷に変化させたり、草の魔法の使えたりと、2種類の能力を持ちそのどちらも強いそうで、コントロールもうまいんだとか。
水と氷は別に捉えられているから、実際には3種類かもしれないが。
エンは、非常に強力な雷魔法を使えて、将来的には強力なメインアタッカーになるだろうとのことだった。
その週はハートさんから頼まれた厨房用ストーブ4基の作成に掛かり出した。
燻したシルバーの清潔感ある見た目になっているものだ。
内側と外側の合金の合金層にそれぞれ違う特性をつけて組み合わせ、それぞれのパーツをプラモデルのように作って組み立てていく予定だ。
実は、アーシアの家のキッチンには、多くの鉄、クロム、ニッケルの合金が使われている。所謂ステンレス鋼と呼ばれるもので、錆びに非常に強い。
今回はこの合金は使えない。何故なら、このクロムという金属はあまり量が取れないのだ。アーシアでさえ手元に多く所持してないのだった。
それにこの世界には、まだステンレスは存在しない。
アーシアの亜空間の家のキッチンは、誰に見せることもないと思っていたので、思い切って作ったものだった。
なので、ハートさんのお店のストーブは、鋳鉄というのが適しているだろう。鋼はまだ大変高価で大量生産が難しい。価格が跳ね上がってしまう。
鋳造しやすく、熱を保持する性質があり、燃焼室や天板を一体で鋳造できるため、あちらの世界のヴィクトリア時代などに広く使われていた素材だ。
こちらの他の錬金術師等に見られても大丈夫な素材だろう。
鋳鉄は、2%以上の炭素を含む合金だ。
レシピ【合金】鋳鉄:鉄鉱石2、(炭)1、中和剤1 (出来上がり3)
炭には、普通の黒炭を用い、中和剤に特性を付ける。
特に非常に熱くなる外側側面になる部分の金属には、温度低減の特性を付け少しでも作業している人に楽になってもらえたらいいだろう。
なので、外と内とでは違う特性にしたのだった。
あとは、フルーと呼ばれる排気煙突部分でダクトになる部分の、囲炉裏フード、所謂レンジフードのようなものと、煙突のパーツも作った。
この囲炉裏フードは、アーシアのアレンジ品でかなり見ごたえのあるものになるだろう。
これを来月までに完成させなくてはならない。大物なので仕上げるのは大変だ。
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