105わたしの進む道は?
週が明けて、鳩伝でアレッサンドロ先生に呼び出された。
マドカは、今日は『聖なる森』へ遊びに行っている。どうやら小鹿たちとも一緒に訓練ができていいようだった。
アレッサンドロの研究室に着くと、アレッサンドロは一人で封筒を持って立っていた。
清潔な白衣と、さっぱりした髪型だけでこうも変わるものかと、アーシアだけでなく、学園の皆が思っていた。
8割増しくらいよく見えるのが驚きだ。ハンスさんに聞くと、ソレッレ《姉妹の》美髪店には、定期的に行っているとのこと。
ハンスさんは、いつも付き添いをしないといけないらしい。アレッサンドロ自身は、女性ばかりの店でも本人はこちらが思っていた程、苦にはなってないようだとも言っていた。
——そのアレッサンドロ博士は、姿勢はまだ少し悪いものの、部屋の中央にすっくと立って、待ち構えているのだから、かなり威圧的に見える。
「端的に言うとな、先だっての進級試験のことだが、
合格だ。で、小娘、何級が望みだ?」
「ええ?! えっと……3級?」
「ばっかも~~ん!何を馬鹿なことを言っておる。
貴様は、在学中は最低でも二級だ!一級を優に合格しているからな。
……はあ、まあ、座りたまえ。少し話があるからな」
アレッサンドロは、自分も一人掛けソファに座ると、手に持った封筒を弄んだ。
アーシアも、圧倒されながらも、おずおず長椅子に座り、心は混乱していた。
(ええ?合否って、個人に郵送って言ってなかったっけ?)
アレッサンドロの言うには、ただ、1級の合格は卒業と同時に公表かどうかを聞いていたらしい。
どうやら、エージェントのヘルマンやサムくんと同じような扱いにするということだ。彼らはほとんど1級だが、時期をみているそうだ。
少しダンディになったとはいえ、風変わりなこの学者は、落ち着きなく動かしていた手をピタリと止めた。
「のう小娘、そもじは特級になることに興味はあるか?」
「ええ?! ……な、何を言ってるんですか?」
(なに? 特級ってなに?なんか、ヤバそう?)
「がははは、その様子では嫌なようだなあ。賢明であるよ」
目を白黒しているアーシアを見て、アレッサンドロが仕方がないという様子で説明を始めた。
「ふむ。そもそも、特級というのはな、普通の級とは全く違う。
一級または学部長の経験のある者の三名の推薦で、三名以上の国主の承認によって任命させるのだ。
現在は、ヴィクトールしかおらん。
特級になれば、各国家からの直々の命令も受けざるを得んのだ。
なので、貴様には厄介ごとが増えるだけだろうと思ってな」
(そう言えば、あのチャラっとした、風変わりなお兄さん、特級だって、言ってたな……)
そんなアーシアを余所に、昔を思い出すように遠いまなざしをして、アレッサンドロは続けた。
「ヴィクトールの小童は、初めから規格外でな。
同じ錬金術といっても、小娘の参考には、まったくならん。
あやつは幼き頃より、周囲が制御出来ぬほど力が大きくてな、あのビィドメイヤーの歴々が対処にも困ったものだ。
おまけに、なんでも爆発させて壊してしまったのでな、特例で、齢九つの居りよりこの学園に居るのだ。
コントロールを覚えさせるには致し方なかったそうだ。錬金学部ではあるが、貴奴は攻撃錬金術しか使えぬ。
だからの、錬金術の座学以外は、魔法学部の実技に混ざって、ずっと訓練してきたのだ。
はは、面白いものでな、あの小童、前回の勇者のパーティーに混ざって魔王退治に行こうとしたこともあるのだよ。
まだ、小さかったゆえ、相手にもされなんだが、……「あやつらよりオレのほうがずっと強いのに」と、何年もぼやいておったなあ。はは、全く手の掛かる小僧であったよ。
……今思えば、昔のことだが、あやつもまだ幼くてな……
——つまり、貴奴は特級しか取れんかったのだよ」
(えっ?じゃあ、ヴィクトルさんは、生産錬金ができないってこと?
そんなことって……
急にヴィクトルさんの話になって驚いたけど、そうか、サムくんみたいな感じかな……いや、サムくんより酷かったのか……
9歳って、随分幼いときから親御さんと離れて暮らしていたんだなあ)
「ところで、そもじは特級になりたいか?
なりたければ我輩たちも、推薦するのはやぶさかでないが。
丁度、前回の試験官で推薦の規定は満たすからなあ」
考え込んでいるところを急に話しかけられたように感じて、ハッとなったアーシアだったが、特級になるには国主承認、つまり王様クラスに自分の存在が知られてしまうことを意味する。
想像すると、背筋がぞっと寒気が走った。
「いえいえいえ。ご遠慮します!」
「がははは。相分かった、そのようにしよう。
オーウェン教授辺りは、残念がるだろうの。
折角の生産錬金術師の特級の誕生だったからのう」
アレッサンドロ博士には、珍しく長い間笑っていたが、封筒から何かを抜き取ると、その封筒の方をアーシアにすっと手渡した。
「さあ、合格証書だ。貴様は、これから卒業までは、二級錬金術師だ。
卒業すれば一級を有する身となる。まあ、覚悟しておくのだぞ……」
そう言って、また、堪えながらもくっくと笑っている。
アーシアは、少々落ち着かない気持ちのままではあったが、アレッサンドロ博士が、理解ある人物でよかったと、しみじみ感じていた。恐らくこうして態々呼び出して、合格を知らせてくれたのも、アーシアの希望を聞いてくれようとしてのことだったのだろう。
喋り方は、独特で奇抜であるが、思ったよりも優しく、気が利く御仁であるな、とアーシアはアレッサンドロ博士に心から感謝していた。
(それにしても、”特級”を勧められるなんて……
ヘレン先生も……思った以上に熱い先生だったのね。そんな風に思って貰えるなんて……本当に、ありがたいわ)
アレッサンドロ先生から、ヘレン先生が頻りに「勿体ない」と、言っていたと聞いた。
いつも動じることのないような冷静な先生が、アーシアの試験を采配し、一番熱心だったと。
アーシアは、自室に戻る道すがら、そのことを悶々と考えていた。試験ではなるべく控えめにやったつもりだったが、それ以前からの問題だったようだ。
(うん、みんないい先生方だったんだな…… この学園に来ることが出来て、わたし、幸せ者だ)
部屋について、まじまじと自分のスキルのレベルもそうだが、来訪者の特典ともいえる”チート”能力について考えた。
アーシアのスキルは、アルディア人のものと非常に異なる。もしかすると、他の来訪者、——所謂勇者とも、かなり違うような気がするのだ。
レベルの上限や上がりやすさは、来訪者のものらしい。他の珍しいスキルは、『イベントリ』のように固定されたものと、個々に違うものがあるのだという。
(……その違いも、何なんだろうね)
『ステータスウィンドウ』
(……それにしても、レベルは今…… えっ、レ、レベル79?!
な、何か増えてる…… こ、こんなに高かったっけ? 入学から10レベルくらい増えてない?)
「あ、何か読めるようになってる。わあ、新しいレシピ!
ええと、……【匠の錬金釜】レベル70…… 気がつかなかった……」
幸い材料もそろっていたので、早速、実績を積むために、【匠の錬金釜】を作成することにした。
『調合・錬金』
「よし、出来た。ええと……」
『スキルウィンドウ』と、唱えてどのような種類の釜か調べてみる。
「なんだか、また、凄いのが出来たみたい。
……でも、実験釜ほど癖はなさそうね。よかった。また今度使ってみよう」
[分類]錬金釜(道具)
【匠の錬金釜】〈希少度〉レア★★
概要:錬金生成
効果:特性がつけやすい
備考:〈注意点〉品質は上がり、数量は減る傾向
アレッサンドロの台詞は、少し癖のある時代劇調です
気分や感情によって、二人称がころころ変わってしまいます
本人、そこまでお年寄りではないのですが…
因みに、アレッサンドロとヴィクトルの出会いは、アレッサンドロの学生時代で、
自分の学部に、小さな男の子のヴィクトが入学して来た時です
なので、少し弟みたいに思っているのかもしれません
お読みいただき、ありがとうございました




