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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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夢、それとも記憶

目の前の光景を素直に受け入れる事が出来ない。受け入れる事が自身の為になるだろうと理解ってはいる。だが、今まで経験した全てがそれを否定している。


「れ…んり」


美羽の声音、そして聞き慣れたイントネーション。


そして…その姿。


「………違う…理解っている。気配が……ねぇんだ」


目の前にいる美羽には気配…生物に必ずある筈の物が…無い。


「や......と……会えた」


やっと…会えた……か。


以前ここに来た時に聞こえた声も…美羽だったのか?


「そ…う。私は…影……そして記憶」


そうだ。目の前の美羽は……似ている…と言うより同じだ。学園長のおっさんの傍に居た女にな。


「ちげぇ…。姿も声も…同じだが…本質が違う」


「そう。私は幻影…そして世界が見た夢」


「分かんねぇよ…お前らも…世界も」


「れん...り…私の大切な…人…」


「やめてくれ…その声で…その姿で…話さないでくれ…」


それは世界のどんな薬物よりも…俺を依存させる。そうなれば…もう...戻れなくなってしまう。これは美羽では無い。そんな事は分かっている。だが…俺の愛した女が…そこに居る。


「大丈夫。これもまた…夢。世界は今だ…眠ったまま…」


「そ...うか。これも…夢か…」


ならば…夢の中でなら…良いのかもな。


””だめ。連理には…やるべきことがある筈””


「聞かないで。それは貴方を縛り付ける呪い。貴方も一緒に…眠りましょ?」


””連理!””


記憶。美羽を過ごした記憶だ。”上”の世界から追い出され…”下”で二人で過ごした時もあった。


何も思い出せない。だが…今見た記憶達を…ただの妄想だとは…思えない。


「違う。それは夢が見せた理想。それは貴方を堕落させ…崩壊させる…」


幻影が紡ぐ。


「あぁ…そうかも知れねぇ。だが、これは俺の記憶じゃねぇ。お前から流れて来た記憶だ」


ようやく理解した。この世界を...そして…俺のすべきことをな。


「わ…たしの...?そう…アナタはそれで良いのね…」


誰かに語り掛ける幻影。それは俺なのか…または別の誰かか。俺には分からない。だが…どことなく、幻影が見せる顔が…優しく見えた。


「すまねぇな。お前も美羽だったんだろ?ったく…思ったよりも”俺はお前”に愛されていたらしい」


「ふふっ…連理も…ね」


「あぁ…待ってろ。俺が…この世界を”終わらせてやるからよ”」


「うんっ!」


そして…気が付いた時には、俺は森の中で一人立ち尽くしていた。




誰かに埋めた貰った俺の記憶。確かに…まだ本質は空のままなのかもしれない。だが…俺はこれで良い。これが…俺って言う人間だ。


「空で良い。色が付いていなくても…あいつが…あいつ等が…俺を構成してくれる」


なんとも情けないが、それが俺と言う人間なんだろう。一人ではただの空のコップかも知れない。だが、一人じゃねぇ。


鍵だな。美羽の両親が言っていた鍵。そして…おっさんが言っていたもう一つの鍵。


「先ずは…世界を終わらせるための…準備だな」


ははっ...。





「連理さんっ!連理さんまで居なくなったら…私達…どうすれば良いか…」


屋敷に帰ってくるなりメイド達に抱き着かれながら泣かれた。


「わりぃわりぃ。ちっと釣りにな」


「み、美羽様が寝たきりになってすぐに!?」


その突込みはもっともだ。


「なぁ、お前らは…世界が壊れても…良いと思うか?」


「え?世界が…ですか?……私は…それに意味があるなら…良いと思います」


「意味?世界を壊す意味ってどんなだ?」


そんな大層な事…なかなか無いだろうにな。


「うぅん…愛の為…とか?うぇーん!恋人居ない歴が年齢の私に言わないで下さい~!」


あ、逃げてったわ。


「愛か…んな大層なもんねぇな」


物語にありがちな愛の力だとか、そんなものは興味が無い。世界を敵に回すだとか、大層な事を宣うが、そんな事に意味は無い。愛、それは抽象的な解釈だ。だが……そんな物語も…嫌いじゃ無くなった。


「だが、世界を壊す事に関係は無い。これは…愛でも何でもない。俺自身の為だ」


世界を壊すことは愛とは関係ない。世界を壊すことで…俺達の存在もこの世から消えてしまう。その先の事は考えない。この歪んだ世界を壊す事だけが…俺の使命だ。



「おい連理!心配したんだぜ!?あれから一向に連絡がねぇしよ、烏丸さんも倒れたって…」


「あぁ。すまんな。それよりそっちはどうなんだよ、あれから何も変わって無さそうだが」


こいつは...まぁ妹が居れば大丈夫だろうがな。


「あ、ああ。俺の事は良いよ。ダチが行方不明で心配で心配でよ。気が気じゃ無かったぜ」


「なぁ、お前は世界が壊れても良いと思うか?」


「ダぁ!?んなもん嫌に決まってんだろ。優香に…それにお前らに会えなくなるって事だろ?じゃあ嫌だね」


そうだよな。普通はそうだ。大切な奴が居て、そして思い出がある。それを簡単に壊すなんて…普通は出来ない。


「だが、条件があるとすれば…どうする。例えば…この世界が…無限に続く、牢獄だとしたら」


「難しい話だろ!?でも…それは悪い事なのか?辛い事も、楽しい事も、全部が全部、思い出だろ?じゃあ良いと思うけどな」


「思い出だったら…一度の方が、価値があるだろ」


「む…それはそうだな。まあどんな事情が有ろうとも…お前らとの思い出を亡くすのは嫌だな。……ただ…同時にこうも思う。それは…つまらないのかも知れないってな」


つまらないか。そうかもな。繰り返す世界、それは運命と言う言葉を否定する。


「何?お前…もしかして…中二病にでもなった?」


「バカ言うな。例えばなしだ。悪かったな、姿を消してしまって」


「分かれば良いんだ。烏丸さんも泣くぞ?お前が居なくなったら」


「そうだな。起きたらなんて言われるか分かんねぇ」



ふぅ...取り敢えずここまで来たかと言う感じです。もうちょっと肉付けしても良かったと思う反面、端的に、テンポよくすることも一つ、目標でしたので、これで良いと思います(適当)


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