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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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覚悟

おッ...そこの兄ちゃん、読んでかない?

「そんな武器で勝てると思うなよ。人を殺したことなんて無いようなひよっこが…ナイフなんて殺傷性の高い武器を扱えるかよ」


「に、人数を掛けろ!こいつは異常だ!油断しているとこっちが死ぬぞ!」


別に殺す気は無いぞ。俺だって好き好んで人を殺す異常者ではない。


「で…人数をかけるは良いが…本当の殺し合いなんてしたことない蟻共が死地で狩を行う狼に勝てるか?いや、勝てる道理なんて無いんだよ」


「構うな!多勢に無勢だ!訓練通り急所を狙え!人間ならば急所を刺せば死ぬ!」


美羽は無事だろうか。早く合流してやらねばな…。


「後ろがガラ空きだぞ!」


背後からの襲撃。確かに…人間である以上、背後に視界は無い。勿論鏡などがあればその限りでもないが。


後ろからの斬撃を避ける。


何故、避けれたのか。それは聴覚…そして俺の前に居る奴の顔だ。明らかに笑みを浮かべていた。なら背後を注意しておくのは簡単だ。ま、避けるのは簡単では無いけどな。それは今までの経験がものを言う。


「ナイフってのはな切り裂く事よりも突き刺す事の方が良いんだよ。切り裂いてもそれは表層だけ…日本刀なんかで斬ったら別だが…そんな刃渡りのナイフで切っても致命傷にはならない。なら…ついて少しでも深く傷つけた方が良いんだよ」


「知った口を…っ!!しっ!」


「おっと!ま、なんて説教をしたが、斬られるのも俺は嫌なんでね、避けさせてもらうぜ」


「囲んで一気に畳みかけろ!!人一人だ!臆することは無い!!」


それが一番有効だろうな。一般人ならば…一気に数人が襲い掛かってこれば対処は出来ない。


「これで終わりだァァ!!!」


複数人が襲い掛かってくる。俺は近くに飾ってあった壺を持ち上げ…天井に叩きつけた。


バリィン!!!と大きな音をたて、壺がの欠片が飛散する。


「グッ…」


その欠片が仕掛けて来た奴らの眼に入り、足を止める。壺が粉々になる程の力を掛けた為、天井にも大きな跡が出来た。


「高そうな壺だったな。ま、壺なんて割られる為にあるんだからしょうがねぇよな」


RPGしかり、壺は割られる為にある。それを有効活用したに過ぎない。


「なっ!?グっ...」


壺の欠片に眼球を傷つけられた男たちを処理していく。一人は鳩尾を殴打され気絶。また一人と倒れ伏していく。


「クソっ!使えない奴らだなっ!!」


リーダー格のような男が直々に来るらしい。体格は熊のように大きく、その筋肉量は眼を見張るものがある。


「お前もナイフか?芸の無い奴らだぜ」


「バカ言うな。俺はそんなちんけなモノに頼りはしない」


「へぇ…その筋肉かよ?なんだ、俺と勝負でもするか?」


挑発。勿論、筋肉量は俺よりも多いだろうな。だが、力は筋肉量だけでは無い。収縮…そして発散。


「減らず口を…ぶっ殺してやる!!!」


その巨体からは想像できない程のスピードで駆けてくる。どの世界も筋肉だるまは早いらしい。


だが…そんな奴らを俺は殺し…奪ってきた。


「はっ…やっぱ芸の無い奴だ」


その巨体を正面から受け止める。熊男の巨体が…俺の目の前で止まる。奴の力と俺の力が拮抗しているという事だ。


「ば、馬鹿な!?」


「初めてかよ?前にも居たんだよ、力自慢の奴が」


そいつもこんな感じでぶちのめしたっけか。覚えてねぇけど。


熊男の首を掴む。


「ぐえっ…」


「どうした?苦しいか?初めての苦しみか?なら刻んどけ、これが…”力”だ」


熊男の身体が浮く。その首に…熊男の重力が一点に掛かり…やがて首が折れるなり、骨が抜けるだろう。


「や、やべろ…」


「あ?あぁ…やめて欲しいのか。良いぜ…お前には”力”の違いをみっちり教えてやるよ」


男の首から手を離す。


「力比べしたいんだろ?なら次はお前の”力”を見せてみろよ。ほら、俺の首を掴んで良いぜ」


だが…男の眼は既に戦意を喪失しているのか、俺を恐れた目で見つめる。またこの眼か。化け物を見る目。


「……冷めちまったな」


これ以上は必要ないか。戦う気のない奴相手を虐める程良い趣味をしてはいない。


美羽の後を追うか…いや、美羽が居ない間にこの屋敷に居る奴を全員ぶちのめしておくか。


「おい、この屋敷の主は何処だ?喋れ、じゃ無いと殺す」


「ひっ!い、一階の道場だ!!」


「そうか」


向かうとするか。





「道場…ここか?」


一階に降り、暫く探索を続けていると、道場らしき場所を発見した。にしても…広いなこの屋敷も。俺たちが何時も居る屋敷が大きすぎて感覚が麻痺しているが…この家も充分大きい。ま、金持ちって奴は家でもなんでも見栄え良く見せたがるもんだ。


「たのもー!!!」


「だ、誰だ!?」


道場の中に入ると数人の同義姿の男と…奥に座る爺さんが居た。あの爺さんか。


「お前が襲撃者か?ふっ…警備はどうした?逃げきれたか?」


「あぁ…あいつ等の事か?ま、死んじゃ居ねぇと思うけど」


多分死んでない!


「ほう…中々に腕が経つみたいだな…お前ら、相手をしてやれ」


「お前でも良いんだぜ?ジジィ」


「小童が、年上に対する敬いが足りないな」


「年下に対する敬いが足りないの間違いだろ?ジジィ」


「おい、信二を呼んで来い。こやつ…少々イレギュラーみたいだ」


「はっ」


一人増えたところで変わりはしないが。


「で、誰が俺の相手をしてくれるんだよ?纏めてでも良いんだぜ」


「舐めた奴め!この俺が成敗してくれる!」


……あの構え…”下”で美羽についてきた奴と同じだな。


そう言えば信二ってそいつじゃねぇか?...ま都合が良いか。あいつが来るまでこいつ等で暇つぶしでもしておくか。


「ドリャァ!!」


男が高く跳躍する。そのまま蹴りに派生するか、攪乱する意図があるのか。


ここは合わせてやるか。


「取った!」


男の蹴りが俺の首、頭を直撃する。脳がぐわんと揺れるが、気合でなんとか耐える。視界が一気に黒くなるが、これが一過性という事は経験で分かっている。数秒も経たないうちに視界は回復する。


「なんだ?それだけか?もしかして…無抵抗の奴一人…倒せない何てこと無いだろうな?」


挑発。武道を嗜んだ奴は少なからずプライドがある。そのプライドを傷つけられると…たいていの場合憤り、思考が好戦的になってしまう。


「まだまだ!!はっ!!」


勢いそのままに回し蹴り。その蹴りがまた俺の頬を捉える。だが…威力が足りない。俺の意識を断ち切るには…少なくともさっきの熊男位の筋肉量は必要だ。


「な、何だコイツ…」


「お、可笑しいぞ!?健太郎の蹴りはこの道場でもトップクラスの威力…」


「底が知れるな」


「つ、強がりだ!俺の蹴りを喰らってまともに立てる筈がない!」


「そんな事言ってる暇があるなら来れば良いじゃねぇか。なんだ、怖いのか?」


「クソがァアアア!!!」


やけくそになった男が力任せに蹴りを放つ。


もう良いか…。既に勝負は決まった。この程度で平静を保てない奴が…同じ土俵で戦える訳も無い。


男の蹴りが俺の顔に到達……………………することは無かった。


「なっ!?」


男の足首を俺が掴んでいるからだ。…細すぎるな。もっとカルシウムを取らなきゃ直ぐに骨が折れるぜ。


その男の足首を、力のままにへし折る。


バキッと鈍い音が鳴る。そして男の足が…明後日の方向へと方向を変える事になった。


「ギャアア!!」


男の絶叫。だが、それで終わらない。男のへし折れた足を掴んだまま力任せに振り回す。成人男性が簡単に振り回される様は、まるで扇風機の羽の如く。


そのままの勢いで地面へと叩きつけた。


「グギャッ」


鈍い音をたてながら地面へと顔から激突する。顔面は既にぐちゃぐちゃで、あらゆるところから血が溢れ出ている。


「け、健太郎!?」


健太郎とか言う男は既にピクリとも動かない。心配した仲間たちが駆け寄るが…既に意識は無い。問いかけに答える事も無いだろう。


「き、貴様ァア”!!!」


「おっと、暗器か」


一人の男が懐に持っていた小型のナイフで切りかかる。俺の腕に少し切り傷が刻まれたが、戦闘に支障は無い。


「ち、父上!襲撃者と言うのは…!?」


道場へと新しい客がやって来た。”下”で美羽の事をストーカーしていた奴に間違いない。


「こ、こいつは!あの時の続き…ここでまた虐めてやる!!!」


確かに、あの時は美羽を背負ったままだったからな、こいつに好き勝手やられていたが…今は美羽は居ない。


「信二!気を付けろ…そいつは強い」


「父上、こいつは強くなんかありません、以前戦ったことがあるのですが、防戦一方で反撃してすら来ませんでした」


「なら、あの時の続き、始めようか」


「ふんっ…お前をここで殺して…あの娘は俺の物にする」


「そうかよ」


手加減は…必要ねぇ。こいつは俺の敵だ。例え…実力が離れていても、此奴相手に手加減はしない。それが…悲惨な結末になったとしても。


更にもう一つ”切り替える”。必要は無いが、俺がただ虐めたいだけだ。ただそれだけ。


「俺から行くぜ」


信二は俺が弱いと思っている。なら…これに反応は出来ない。


「なっ!?は、早い!!」


遅いな。


信二の首根っこを掴む。勿論全力で。


ミシっと嫌な音が鳴る。


「ごぽっ…」


信二の口から血が溢れる。だが、力は緩めない。まだ、愉しんでいない。


「たて」


信二の首から手を離す。


「グッハァアア…ッ!!ゼェ…ゼェ…」


嫌な呼吸音を立てながら立つ。


まだ立てるのには驚きだな。


「し、信二!やめろ!お前じゃ勝てん!!!お前ら…全力で奴を止めろォオ!!!」


「邪魔だ」


「ブベッ!!」


近づいてきた男を殴り飛ばす。鼻時をまき散らしながら吹き飛んでいった。


「ご、ごろず!おばえだけは!」


「そうか。なら、俺もお前を殺す」


既に首の骨は折れただろうが、俺を殺す殺意だけはあるみたいだ。なかなか見上げた奴だな。その状態で立てる奴は”下”でもなかなかお目にかかれないぜ。


「や、やめてくれ!!そいつはこの家の跡取り…死なれちゃ困る!!」


「なんだジジィ。邪魔するならお前から殺すそ」


「構わん!私に命一つなど…安い」


「なら...ジジィを殺してから、こいつを殺すとしよう」


「なっ!?人でなしが!」


人でなしか...。俺と相対した奴は皆、俺をそう言う。


だが、もう気にしない。美羽が俺を俺だと…教えてくれた。普通じゃ無くても良い。あいつの横に居られるのなら。


「と、止まれ!この女がどうなっても良いか!?」


何?


「美羽…何故ここに」


いや、意識は無いか。だとすれば…この男が美羽の意識を断ち切ったか。


「美羽に何をした?返答次第で死か、惨死か選ばせてやるよ」


「うるさい!!この女がどうなっても良いかと聞いている!!」


「黙れ。美羽を…どうした」


「くっ…書斎の奥で倒れていたんだよ!!」


「勝手に倒れるかよ」


「ほ、本当だ!!」


「美羽、起きろ」


だが、反応する気配はない。どういう事だ?外傷はない。ならばすぐに目覚めると思ったが…。この騒ぎでも起きないだと…?どうなってやがる。


「おい美羽!!!!起きろ!!!!!」


だが、全く反応が無い。


「おい…美羽の脈はあるか」


「心臓は動いている!お、俺は殺しちゃいない!本当だ!!」


確かに…服も乱れた様子は無い。外傷も無いとなると…なんだ?何が美羽を眠らせている。


「退け!!死にてぇのか!!!」


美羽へと駆け寄る。今は信二とかどうでも良い。美羽の事だけしか見えない。


「ど、どういう事だ…何故目覚めない…」


「救急車を呼べ!信二の首が折れている!」


ここは一旦退くか。クソが…俺が離れたばっかりに…。





「美羽…どうしちまったんだよ」


屋敷へと戻って来た俺は先ずメイド達に美羽を任せた。少なくとも医療に関する知識も、美羽に関する事も…俺より知っている筈だ。


「れ、連理さん…美羽様は…」


「これは……間違いないね。絶望病だよ」


「んだって!?なんで美羽が!?」


医者から宣告された病名。それは嫌でも記憶に残る…あの病だった。


目覚める事は無い、一生寝たきりの病。トワイライトと言う特効薬を理事長が作ろうとしていた、あの病だ。


「絶望病に予兆も何も無いからね。君だって見ただろう、あの病室の少女を」


雪音とか言う奴か。クソが…美羽………。


そこからは何も覚えていない。ただ、美羽が絶望病になってしまったという事、そして…鍵も手に入らなかった事だけが…事実としてそこにあった。


「連理さん……」


メイド達からも動揺が伝わる。


俺が…俺が付いていながら…。美羽を護ることが…出来なかった。


ただ、あの時美羽を一人で行かせた事に対する公開が、ただただ俺の脳を支配していた。



「………………………」


「連理さん…お食事は…」


「要らねぇ」


メイドが時々やってくるが、相手にする気にもならない。喪失感…。


美羽が前問いかけて来た内容…一緒に居られなくなったら…。一緒に居る...と言う曖昧な状態。果たして…意識の無い美羽が傍に居る事が…一緒に居る事になるのだろうか?


こんな事は全く予想もしていなかった。俺に…覚悟が足りなかった。美羽を失う事の恐ろしさ、それすらもまともに認識せずに、ただただ美羽を死地へと同行させた。


すべて…俺の責任だ。


「なぁ…こんな時、お前ならどうするんだ」


教えてくれよ…俺に…。


美羽………。

長くなっちまったぜ。

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