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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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絶望症候群

「もうすぐ、彼らが衝突する。この時から世界は大きく動き出す」


「ええ、でも希望…今回はどちらが勝つと思う?」


「このままじゃ間違いなく彼…”護る者”が居ない者に何も護れやしないからね」


「だけど…今回の彼はどこか、どこか歪な気がするの」


フィルが妙な事を言う。今までとどこが違うのだろうか。


「今まで通り、俺は世界を壊すだけ…邪魔なんて誰も出来やしない」


これは油断では無い。事実に元づく感想だ。


「世界を護る為?それとも...世界を再生することを恐れて?」


「勿論恐れてるだけさ。世界を護る事に意義は感じていないからね…」





「あら、もう大丈夫なの?先生嬉しいなぁ授業に出てくれて!」


「授業には出ねぇけどな」


「なんでよ...ここまで来たら一緒でしょ?」


学校に来るなり東城に絡まれる。あの一件以降東城とは偶にだが会話をする仲になっていた。


ま、本当に少しの会話だが。


「哲学が嫌いな訳じゃ無いけどな」


「え...じゃあ私が嫌いって事!?」


何だコイツ。別に嫌いな奴を助けようとは思わないだろうに…。


「うるせぇうるせぇ!」


美羽と東城から逃げるようにその場を後にする。



「キミは連理くんだったね。どうだい学園は」


逃げてきた先におっさんが居た。確か理事長だっけか校長だっけか…。まあどうでも良いか。


「あ?どうって何がだよ」


「楽しいかい?それとも退屈かい?…授業をサボっているのを見るに後者のようだね」


退屈…それもまた違う。退屈だったら学園に来ることも無い。


「退屈じゃ無い。ただ...楽しくは無いかもな」


楽しくないから退屈かと言われたらそういう訳でもない。


「はは…手厳しいね。いじめの件も君が関わっていたそうだね。その節は僕もお世話になったよ」


あの件か…。あれからあの三人は家から勘当され放浪していると聞く。多分だが…”下”の世界に堕ちたんじゃ無いだろうか。


「あれに関してはあの女が率先してやった事だ。俺は特に何もしちゃいない」


「謙虚だね。君には自身を擲ってまで”護りたいものは”あるかい?」


どうだかな。たまに考えていたが、自分で回答を導き出してはいない。普通はそんな護るべき対象が居るのかも知れない。


「居たとしておっさんに言うつもりは無いけどな」


「それが良い。大切なものは自身の心に仕舞っておくものだからね…」


大切なものをひけらかす必要は無い。むしろ大切なものを奪われる可能性だってある。


「僕にも大切な人が居たんだけどね…今は護る事も出来なくなってしまった」


護ることが出来なくなったか...それは死別か、それとも護る必要が無くなったのか。


「何語ってんだ。護るべき時に護れなかったお前の責任じゃねぇか」


「厳しいね。君に忠告しておくけど…護るべき時に護れると限らないんだ」


「そんな事覚える価値もねぇな」


おっさんに何があったかは聞かない。だが、その押しつけがましい価値観は嫌いだ。


「……まだ諦めてないけどね」


ボソッと何かを呟いた。諦めていない…ね。何を諦めていないのか、それは気になるが…このおっさんはいずれ敵になる…。そんな予感が確かにあった。




「トワイライト…黄昏、なんて素敵な響きだろうか」


「もうすぐ完成しますよ…。少し邪魔が入りましたが、然程問題ありません」


そうだね。そろそろ完成する頃だろう。今までもこの時期に完成していた。


トワイライト脳症。いわゆる絶望症候群の特効薬がトワイライトだ。


絶望症候群は脳の活性が著しく低下し、脳死状態になる病気だ。原因は不明、治療法も確立されていない。まさに不治の病。これはまさに世紀の大発明となるだろう。


……………問題は製造法だが。


「キミの絶望…今希望に変えて見せよう」




「お久しぶりですね。生徒会活動に支障はありませんか?無理そうでしたら明日に変更しますよ」


「ア?誰が無理だ。俺は至って元気だ馬鹿野郎」


「連理…一昨日はあんなに弱っていて可愛かったのに…ぷぷ」


コイツ...ぶっ殺してやろうか。


「お前は夜中にもっと声を控えるんだな」


「ななななな、なんのこと!?え!?」


「はいはい、そこまでです。問題ないのでしたら今回の生徒会活動を始めますよ」


心底どうでも良い様にフィリアが制止する。


「んで、今日の活動は」


「今回の件は貴方達も無関係ではありませんよ」


はぁん…俺たちに関係があるってか。一体なんだと言うのだろうか。


「それで、一体何なんだ?」


「脳の行方…とまで言えば分かるでしょう」


「それが分かったって事だな?胸糞わりぃ奴らだ全く」


「脳…?一体何の話なんですか?」


事を知らない美羽は何を言っているのか分からないみたいだ。あの時美羽も居たが…精神衛生の為見せてはいない。燃やし尽くしたからな。


「隠語だ隠語。誘拐された子供を脳って言うんだ」


適当にはぐらかしておこう。美羽が知るメリットは何一つない。危険な事に首を突っ込ませるのは止めた方が良いだろう。


「脳は臓器の一つです。”上”で数多の脳が取引されている件です。誘拐は関係ありませんよ」


この女狐…。


「なんで嘘つくの……そんな危なそうな件に首を突っ込んで大丈夫なのですか?」


「なんとも言えませんね。武装集団が関わっている訳でもありませんし…」


「で、どこに行ってたんだ?最終経路を教えろ」


大事なのはそこだ。何の目的があってあんなものを集めていたのか…それに尽きる。


「それと、肺はダミーでした。脳だけが取引されていた様ですね」


なるほどな。脳は研究の為だろう。移植には適さないからな。


「取引先は天城研究施設…政府から認められた研究施設です」


そんな所がアレをねぇ...。”上”は”上”で一枚岩って訳でもないのは理解しちゃいたが…もっと複雑な感じがして来たな。


「で、その研究施設に潜入しろと?無理だろ、学も人望も無いぞ」


「潜入するわけじゃありません。出所を潰すだけでこの話は終わりですから」


確かにな。脳の供給さえ途絶えれば研究は出来ない。


「出所は…ギャングか」


「ええ...ですが、少し複雑なんですよね」


それは”下”と関与しているからか、それとも別の理由があるのか。


「ギャング間も一枚岩ではありませんから、内部で諍いが起きている訳です」


そのまま内部抗争で潰れてくれるなら早いんだがな。


そんな簡単じゃ無いだろう。


「で、俺に何をしろってんだ?ギャングを潰せってか?」


「そうですねぇ…取り敢えずの間は歓楽街で張り込みですね」


またか…。ま、やることも無いから良いけどな。


「わ、私も手伝います!」


言うと思ったぜ。ま、歓楽街位だったら危険も少ない。美羽がついて来れる範囲だろう。


「暫く生徒会活動はそれだけにします。異変があったら直ぐに知らせてください」


そう言ってフィリアが出て行った。

あいつはあいつでやることがあるのだろう。

早い事に越したことはねぇか。俺達も向かうとしよう。

エウレカに絶望病ってありましたね...。

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