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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
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再会

「連理…本当に大丈夫?」


「心配すんな、明日には治ってるだろ」


病院から力づくで帰宅してきたが、未だに美羽が心配そうに聞いてくる。


「でも…連理が居なくなったら…」


形見の指輪を探すことが出来なくなる…か。


俺以外の代わりを見つければ良いだろうに…。


「……居なくならねぇよ、絶対にな…」


何故だろう。思っても無いことが喉から勝手に出てしまう。それは俺がここに、美羽の隣に居たいと思っているからなのか、それとも…。


分からない。自分でも何故こんな事を言ってしまったのか理解できない。


「え?それってどういう……でも居なくならないで…」


美羽も恥ずかしいセリフを呆気からんと言い放つ。


俺のセリフに当てられたか、それとも本心からなのか。俺が知る由は無いが、その言葉は不思議と俺の心に安らぎを与えているのが、自分でも驚きだ。


「……眠い…寝るわ」


照れ隠しか、本当に眠たいのか、自分でも分からない。だが、今は美羽の顔を見るのが少し恥ずかしい事は事実だろうと思う。


「ええ...おやすみなさい、連理」


一言そう言った美羽の顔を見ることは無かったが、その優しき口調は今の美羽の顔を想像するには十分な程柔らかく、慈愛の溢れるものであった…。





「…”護りきる力”彼はそう答えた。”君”はどう思うんだい?」


そこにある虚無に向かい問いかける。本来ならば返事は帰ってくるはずもない。なぜならそこには何も”存在”していないから。


「あなたとは真逆の考えね。まさに正反対」


「”奪う力”…君はそう言うだろう?こんなに長くいると嫌でも分かってしまうね」


彼女が微笑む。その天使の如き笑みは見る物を魅了し、破滅させていく…そんな魔性の力を持っていた。その少し幼い声も、淫靡で脳を刺激する。


「それはどうかしら」


「そうだろう?”護りきる力”は幻想に過ぎない。それは僕が一番知っている」


そうだ。この歪んだ世界、本当に必要なのは”奪う力”…そう、全てをね。


「私は………」


手痛い指摘に苦笑いが止まらない。


「夢見る羊が、眠りから覚めただけさ…そう、永い眠りからキミが目覚めさせてくれた」


幾億の時を駆け抜けた。今度こそは、”奪いつくして”みせるよ。他でもないキミの為に。





「もうっ!我儘言ってないで病院に行くの!」


倒れた日から一日が過ぎた。美羽は余程心配なのか、未だに病院に行かせようと促してくる。


「だから治ったつってんだろ。やなこった!」


なんであんな所に行かなきゃなんねぇだ!もう二度と御免だね。


実際熱も退いたし、体の倦怠感ももう感じていない。


「ダメー!絶対にダメなんだから!……昨日は絶対に離れないって言ったクセに…」


うっ…。そこを突かれるとなんとも言えない。


「今日だけだぞ…もうこれ以降は絶対に行かねぇからな」


ったく...心配性な奴だな。



病院についてそうそう、美羽が受付に行く。


「連理、ここで待ってて…絶対に動かないでね!」


はぁん…暇だな。少し探索するか。少しくらい離れたって文句は言われないだろう。



「あ?…ここだけ異様な空気感だな」


病院を探索していると少し気になる部屋に来た。ここだけ活気が少ないと言うか、寂れていると言うのか。


扉には名前の入ったプレートが置いてあった。


「根緒雪音…女か?」


中に気配はあるが、あまりにも薄い。限りなく薄い気配がそこにはあった。


「邪魔すんぜ…」


中に入る。中は質素で、生命維持のための装置のほかは殆ど何も無かった。


そして…ベッドに眠る一人の少女。どこか儚く、溶けていきそうな少女が居た。


「はぁん…意識が無ぇみたいだな。起きろ!」


声を掛けてみるが反応が全くない。多分だが…睡眠をとっている訳では無いだろう。


やせ細った体を見るに…生かされていると言うのが正しいか。


「お前は夢を見ているか?何を願い、何を糧に生きている」


返事は無い。これは只の独白だ。この眠りについている少女は、果たして夢を見ているのだろうか?こいつは何を願い、何を目標にしていたのだろう。


これ以上はここに居ても仕方が無いか。美羽のぷんすこゲージが溜まる前に戻るとしよう…。



「どこ行ってたの?」


「クソだクソ。聞いてくれるな」


適当にはぐらかしておこう。変な女に会ったなんて言ったら怒られそうだ。


「先生が直ぐに来てくれだって」


それは直ぐに検査を行うという事だろう。昨日あんなことを言った手前もう一度検査をするのがダサいんだが…。


「お・と・こ・ま・えー!!!」


「うおっ!?な、なんだお前!?」


突如後ろから抱き着かれる。この俺が後方を取られるだと!?一体どんな手品を使った!?


背中に当たる豊満な果実の感覚がその正体が女だって事を物語っていた。


「キミ!久しぶりっ!!!」


後ろを振り返ると…なにやら少し見たことのある女が居た。確かこいつは…。


「………お前は確か…”下”でひん剥かれてた…」


「そんな覚え方してたの!?お姉さん悲しいな~」


なんかキャラ変わってない?こんなあざとい女だった記憶は無いが…。


「……………連理……その人誰」


ヒュンッ…。


「知らない人。僕知らない」


「嘘つかないで」


怖ぇよ!その眼!


美羽の紺碧の眼から闇の波動が流れ出していた。


「貴方…烏丸のご令嬢よね?彼とどういう関係なの?」


全裸女が美羽に問いかける。


「そ、それは!一心同体の関係ですっ!」


「主人と奴隷だろ」


べしっ!頭を叩かれた。


「連理って言うんだ…あの時聞いとけば良かったな…」


まあそん時に聞かれてたら別の名前になっていたかもな。最近付いた名前だからな。


「あ、あなたこそ!連理と一体どういう関係なんですか!?」


「え~、白馬の王子様とお姫様かな......きゃっ!」


きゃっ!じゃねぇよ…。美羽がおどろおどろしい顔をしてこちらを伺っていた。


今にも包丁を出してきそうな程だ。


「ここじゃちょっとなんだし……検査は私がするから、連理くんだけこっち来てね~!」


そう言って検査室の方に走って行ってしまった。


「じゃあ行ってくるわ」


「ちょ、ちょっと!」


引き留める美羽を無視して検査室へと歩みを進めた。




「ふふっ…ちゃんと一人で来たんだ」


「別に…あいつを来させる理由も無いだろ」


「…ねぇ...あの日からどんな日々を過ごしてきたの?」


唐突な奴だな。別に、特別な日々を過ごしてきたつもりは無い。至って普通の”下”での生活だ。


「なんも無かったぜ?退屈で…鬱陶しい日々だ」


「嘘…...あの時から随分と顔つきが変わった。何かあったのね」


はっ...顔つきね。成長しただけだろ?


「イケメンが歳を食った、ただそれだけだろ?」


「そう…それは貴方だけの秘密なのね」


秘密なんて何もない。記憶の無い奴が一丁前に秘密を抱えるなんて、どこの笑い話だ。


俺の過ごした季節は変わらない。


「私はずっとあなたの事を忘れて無かった。貴方は…その限りではなさそうね」


苦笑いしながら言う。別に、忘れていた訳では無い。むしろ印象に残っている分偶に思い出すくらいには覚えていた。


「何が言いたいんだ。ぼかさないで直接言えよ」


本題が分からない。世間話をしたい訳でも無いだろう。


「……ねぇ、私と一緒になろうよ。こう見えてお金持ちなのよ?」


顔を少し俯かせながら言う。それは照れ隠しか、何か、俺に分からない。


が...生憎俺には…。


「…それは”愛”か?それともただの恩か?」


こいつは去り際に、この恩を忘れないと言っていた。あの時はこいつに恋心なんてものは無かった筈だ。


「紛れもない、愛よ!失礼ね。こんな美人が告白して出てくるのがそれ?面白い人ね…本当に」


愛ね。にしても突然だな、本当に。


「突然すぎる。それに…俺に愛だとか、恋だとか、全く分からねぇ」


これは本当だ。俺には純粋な”愛”が分からない。まだ感じたことが無いだけなのか、それとも”愛”を感じる事が出来ないのか。


「そう…別に直ぐに答えを出す必要は無いわ…。でも少しだけ考えて欲しいの」


真剣な眼差しで見つめてくる。


「……気が向いたらな」

短編って難しいな...。簡潔な物語の難しさたるや...。

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