22話
「おそーい!全くなにしてたのっ!」
ぷんぷんと可愛く頬を膨らませている。
「ああ、迷子だ。お前が一人で地図持って行ったからな」
「そ、それはそうですけど」
「それに、なかなかいい経験だったぜ」
「あ、あの幽霊さんどうなったの...?」
恐る恐ると言った感じで聞いてくる。
「ああ、あれ気のせいだったわ。普通にお前が逃げた後キャストが謝って来た」
「もうっ!やっぱり嘘だったんだ!」
「すまんすまん」
「でもさっき出てきた人たちが変なこと言ってたけど…」
その噂ってのが…なにやらお化け屋敷になる前、屋敷の改修を行っている時に頻繁に女の霊が出たそうだ。それ以降二階への立ち入りを禁じ、誰も入った事は無かったらしい。
だから二階だけ酷く鬱蒼とした空間だったのだろう。
「ただの噂だろ」
「そ、そうだけど…気になるじゃない!」
もう出る事は無いだろうけどな。
今やあそこには二人の思い出と壊れた扉しかないからな。
「次はこれに行こうぜ。プール」
悲しくも美しい愛の物語はこれで終わりだ。これからは美羽の貧相な体を見せつけるショーだ。
げしっ!げしっ!
「痛いんですけど」
「今失礼なこと考えたでしょ」
ジト目で脛を蹴られた。
。
。
。
「うぅぅ…本当にこれで大丈夫かなぁ」
「早く出てこい、もう日が暮れそうだぜ」
美羽が更衣室から出てこない。何を恥ずかしがってんだ全く。
メイド姿とさほど変わらんだろ。
「れ、連理…あっち向いてて」
「なんでだよ」
「うぅぅ…恥ずかしい」
恐る恐ると言った感じだが、美羽が出てくる。
「んだよ、別に似合ってんじゃねぇか」
「う、うるさい!うぅ見ないでぇ…」
ったく。
「ほら、これ着ていけ」
俺が来ていたパーカーを被せる。
「あっ…ありがと」
調子が狂うな。何時もらしく居て欲しいものだ。
「人が多すぎるな…ほら腕掴め」
「う、うんっ!」
気恥ずかしいのか、袖を掴む美羽。ま、はぐれなければ良い。
「てかこれぜってぇ小便してるやつ居るだろ」
「変なこと言わないでよ。入りたくなくなるじゃない」
ガキも多いしな…塩素の匂いで誤魔化されてはいるが、実際少し臭う。
まあ良いか、気にしたら負けだよな。
「おい美羽、あのうぉーたーすらいだーって奴に行くぞ!」
「ちょ、ちょっとまって!」
取り敢えず美羽の手を引きながらお目当ての所に向かう。
「身長制限で百五十五センチ以下の方はご遠慮させて頂いています…」
「…あの私一応百五十七センチなんですけど」
乗る際に係員に告げられる。
「うーん…ご一緒に乗られるのなら身長は制限が無いのですが…」
「じゃあ一緒に乗れば良いじゃねぇか。美羽行くぞ」
「え、一緒に乗るの?ちょっと恥ずかしいんだけど…」
何言ってんだこいつ。今さら恥ずかしいなんて関係ないだろ。
「じゃあお前このままここで待ってるのかよ?一緒に行こうぜ」
こういうのは経験しておくのが良い。楽しいやつまらないと言ったことも経験しないと分からないあ。
「うーんじゃあ一緒に滑ります」
美羽が係員に告げる。覚悟は決まったみたいだな。
「うぅ…どうして一緒に…」
「ほら次だ。浮き輪持ったか?」
滑る順番が直前になる。未だに美羽はおよおよしているが、もう待ってはくれない。
「う、浮き輪もった」
「よし、じゃあ俺が後ろに座るから前来い」
前の美羽を抱きかかえる形が一番安定するだろう。
「う、うん…よいしょ」
前に美羽が座り込む。
「ひゃっ!冷たい…」
後ろから美羽を抱きかかえる。
「行くぞ美羽!」
時間になったため美羽を抱えながら滑り始める。
「きゃっ!れれ連理どこ触ってるの!?」
「うびびびびびびびびびびび」
は、肺が押しつぶされる。じぇっとこーすたーの時も感じた圧迫感が来る。美羽がなんか言ってるが今はそれどころではない。
「む、胸!胸当たってる!」
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
水しぶきが顔面を直撃する。音も視界も満足ではなくなってくる。
そのため今は触覚に頼るしかない。
ふにょん…。うん?ああ、そういえば美羽の事抱きかかえていたんだったな…。
「ちょ、ちょと!胸揉んでるっ!連理ったら!」
ザッバーン!!スライダー部分が終わりプールに激突する。
「ふぅ...もう二度とやんねぇわ」
美羽の方を見ると何やら顔を真っ赤にして顔を水に浸けていた。
「連理のばか」
俺が何したって言うんだ…。
このパークに来て分かったことが有る。俺は多分絶叫系のアトラクションが苦手って事だ。
よっこいしょっておっさん臭いな...
あと連理はパーカーの下にもシャツを着ているので傷が見られているという事は無いです