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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
20/70

20話

「連理準備は出来たー?そろそろ時間だけど」


「zzz」


「って寝とるやないかーい!!!」


「あ?あ、ああおはよう」


「おはようじゃなーい!早く準備しないと電車に遅れちゃうじゃない!!」


そういえば今日は渡されたチケットの…。完全に忘れていたらしい。準備も何もしていない。


「よし、行くか。服さえあれば大丈夫だろ」


「よし、行くかって…2泊ですよ?その服で三日も過ごす気?」


「おーいメイド達!今すぐ服を見繕ってくれ!!」


取り敢えずメイドに押し付けとけば良いだろう。


「はぁ…こんなこともあろうかと私たちで用意しておきました」


メイドが旅行用の鞄を持ってくる。


「流石だな。俺の事を理解してやがる」


「理解したくは無いんですけどね…一緒に居るうちになんとなく」


メイドが呆れた顔で見てくるが、今はそんな事はどうでも良い。


「ちょっと連理待ちなさい。電車のチケット渡すから」


美羽から切符を渡される。文献には切符から徐々にカードのようなものに成っていったらしいが、現代ではチケットに戻ったらしい。


「ああ、急げ美羽。遅れるぞ」


「遅れたのは連理だけどね…」


ひと悶着あったが、何とか間に合う事が出来そうだ。




「電車って空を飛んでんだな。てっきり敷かれたレールに沿って行くもんだと思ってたぜ」


「いつの時代の話…その電車もなくは無いけど」


空を飛んではいるが、揺れも殆どなく非常に快適だ。流石はお嬢様って感じだな、これ多分vipルームって奴だろう。個室だし、なんか駅員の態度もめっちゃ畏まってた。


「この気配…」


暫く経った頃、不意に見知った気配を感じる。隣の個室に居るらしい。


「なんだあいつ等も来てるじゃねぇか」


「え?副会長?そうなんだ」


フィリアと従者のキルの気配があった。偶然だろう。俺たちの後から来たしな。


「挨拶に行ってくるね。連理も来る?」


「いいや、休日くらい良いだろ」


美羽が挨拶に行くらしい。俺は生徒会業務でもなければ特に話す事も無いのでここに残ることにする。


「か、会長!?フィリアさんと一緒だったんですね…」


会長?生徒会長の事か?


気配は二つしか無かった筈だが…気のせいか?


「ああ、烏丸くんも久しぶりだね。丁度仕事が終わって帰ってきた所だよ」


少し覗いてみるか、生徒会長とやらも少し気になるしな。


「フィルが生徒会を率いているけど何か困った事などないかい?」


そこには金髪碧眼の美少年が立っていた。身長も俺より少し低いが、一般的に見れば高身長の部類だろう。


「あら会長、失礼ね。会長が居る時の方が円滑に進まないでしょうに」


「そうかな…。それに新しいメンバーも増えたらしいじゃないか」


「俺の事か?メンバーじゃねぇけどな。このお転婆娘の子守りをしてるだけだ」


のぞき見するだけなのも何なので一応挨拶くらいは交わしておこう。今後関わることが有るだろうしな。


「君が…噂はかねがね優秀な人だそうだね」


なにかおかしい。部屋にはフィリアとコイツしか居ない。さっきはキルの気配だと思ったんだが…俺の気のせいか?それにコイツ…不気味だ。なぜこんなにも不安になる?


「優秀ね…その価値観は俺には無いな。誰から見て優秀なのかそれは人それぞれだろ?」


「ははっ、そうかもしれないね。自己紹介が遅れたね…。私は千堂希望だ。気軽に希望って呼んでもらって構わない」


希望…ね。大層な名前だな。


「俺は連理だ。上の名は無い」


俺の前に手が差し伸べられる。多分握手を求められているのだろう。


断る理由もない。


俺も手を出し、お互いに握手を交わす。


それ以上はお互い言葉を交わすことは無かった。



「なんだったんだあいつは」


「会長のこと?会長は一般家庭の出自ながら、生徒会に為った凄い人…それにフィリアさんの婚約者でもある」


なるほど。叢雲と言う支配者階級の長である家庭と一般家庭が婚約か…相当な才能なのだろうな。


「頭脳も身体能力も他の追随を許さないくらい完璧…って言われてる」


はっ…まさに完璧人間って事か。胡散臭ぇ。それにあの容姿か、そりゃ泣かせた女の数は星の数ほど居るんだろうな。


「なに連理…嫉妬?連理は連理のままで良いのに。完璧なのはそれはそれでつまらないでしょ」


嫉妬だと?この俺が?あり得ない、そんな感情を一つも抱いては居ない。ただ、なんだこの違和感は。


「んなもんじゃねぇよ。俺は俺だ。他の何者でもない」


美羽が少し笑みを浮かべる。美羽も俺の事が気に入ってるし俺も美羽が気に入っている。


今はそれだけで良い。いずれ記憶を取り戻すための協力者だ。



叢雲の屋敷にて


「ちょっと迂闊だったね。まさか隣に彼が居るなんて、気付かれたかな」


「気づかれたって良いじゃない。貴方に敵なんて居ないのだから」


フィルが言う。ああ、この笑顔が観たくて俺は…地獄からこの少女を助けたんだ…。


ただそれではダメなんだ。この世界は”壊さなければいけない”


歪みすぎたこの世界を。


「そう思ってたんだけどね、彼はやっぱり特別だ」


「良いじゃない。貴方が初めて心から愉しめる相手が出来たってことでしょう?」


そうかもしれない。生まれながらにして完璧だった俺に、敵もライバルも何も存在しなかった。


それは空虚で、寂しいものだ。そう、生まれながらの空虚…”ヴァニタス”…大昔にはそう言われたそうだ。


「いずれ”世界を壊す”事が、彼と対峙する事になるだろうね」


「ええ…決められた運命、どう抗ってくれるのかしら」


「私は貴方だけのモノ。貴方も私だけのモノ…そうでしょ希望」


「ああ。キミだけの世界を」

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