表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

使い魔

「いやー、美味かっタ! ご馳走するつもりが、ご馳走されてしまったナ!」


「はは、満足してもらえたなら俺も嬉しいよ」


 満足そうな笑みを向けるリタに、力の抜けた声で返す。

 いや、まだファーストインプレッションを経たに過ぎない。

 ここから上手く立ち回り、脱出の(すべ)を探るのだ!

 できれば、夜を迎える前に!

 ……迎えたら逃れられない気がするからな。色んな意味で。


「さて……と、朝ご飯も食べたし、そろそろ行くわよ!

 リタが寝坊したたせいで、ずいぶん遅い時間になっちゃったんだから」


「あはは、昨晩は色々とすごかったからナ! ウルズも自分の番がくれば分かるゾ!」


「……っ!? そんなの分かりたくないわよ!」


 リタと共に、赤面しながらウルズが立ち上がる。

 ちなみに、俺も赤面していた。

 こういうところでも、気が合うじゃないか?


「……ランス様の調理に応えるべく……ふさわしい獲物を狩って参ります」


「お兄ちゃんは、アラダお姉ちゃんと一緒に待っててねー」


 次いで、ヘルテとロナが立ち上がった。

 四人の顔は――凛々しい。

 朝食後のまったりとした時間であるというのに、熟練の冒険者でもそうはできない緊張と静かな戦意を感じさせる表情なのだ。


 元より閉鎖的な部族なのもあり、アマゾネスの生活ぶりは、ごくわずかな伝聞が存在するのみである。

 その内容と照らし合わせるならば……。


「狩りに行くのか?」


「ん? ランスも一緒に行きたいのカ?」


 俺の問いに、ちょっと嬉しそうな声でリタが尋ね返す。

 大方、俺に良い所を見せたいとか、そういうところだろうが……。

 これはもしかして、チャンスではないだろうか?

 彼女らに同行すると共に現在地を調べ、スキを見て逃れるのだ。


 俺は素早く思案したが……。


「ランス様を危険にさらすのは……承服しかねます……」


「ロナも、れんけーが取れないのはちょっと困るかなー?」


「こんな奴連れてったって、足手まといになるだけよ」


 他の三人に、あっさり却下されてしまった。


「そういうわけだからー旦那さんは私とお留守番してよっかー」


 そういえば、畑作りが趣味と言っていたか……。

 おそらくは、畑の世話をするために居残るのだろうアラダが俺にそう言った。


 残念ながら、同行案はなしか……。

 いや、それでも集落外の情報は欲しい。

 手札を一枚さらすことにはなるが、俺は術の使用を決意した。


「そういうことなら、少し待ってくれ……」


「待ツ? 何をダ?」


「すぐに分かるさ」


 今朝方、そうしたように……。

 広域の魔力の糸を伸ばし、周囲の小動物を探る。

 今回は――こいつがいいだろう。


 俺は使い魔とする対象を選び、その意思を乗っ取った。


「ちょっと、あたしは早く行きたいんだけど?」


「今、中に入ってくる」


「――キキッ!」


 焦れているウルズの背後――開け放たれている木窓から、たった今使い魔としたそいつが姿を現す。


「盗っ人猿だー!?」


 その姿を見たロナが、はしゃいだ声を上げた。


「ちょっと、小物を盗んでく嫌われものじゃない!?」


「人を恐れず近づいてくるとは……珍しきことです……」


 ――盗っ人猿。


 ネクシム大森林地帯に生息する、小型の魔物である。

 体長はリスほどであり、危険度は低いのだが……。

 とにもかくにも、手癖が悪い。

 ゾマーノ川を行き交う船に樹上から人知れず飛び乗り、旅人の小物などを盗むのはたまに聞く話であり、俺自身もその被害にあったことがある。

 『東方食聞録』、こいつにパクられたんだよな。数年前のことだし別個体だろうけど。


 ともかく、せっかく使役したものを攻撃されてはたまらない。

 俺と同様、嫌な思い出があるのだろう……身構える少女たちに、待ったをかけた。


「こいつは今、俺が魔術で支配している」


 盗っ人猿を操り、俺の腕に飛び乗らせながらそう宣言する。


「魔術って、火を出したりするだけじゃないのカ!?」


「魔術ってのは奥が深いのさ……。

 で、俺はこいつを通じて色々なことが可能だ。

 例えば、今やってるみたいに行動を操ったり、例えば、五感を共有したり……。

 他にも――」


『――コウヤッテ、オハナシスルコトモデキルヨ!』


「――な!?」


「猿がしゃべったー!」


 ウルズが驚愕の表情を浮かべ、ロナがきゃっきゃとはしゃぐ。


「……すまん、今のはただの腹話術だ。

 さすがに種の限界を超えることまではできない」


 ロナの喜びように罪悪感を覚えながらそう告げる。

 うん、ロナは当然としてウルズも心なしかガッカリした表情をしていた。悪いことをしてしまったな。


「さておき……この子をお供させよということでしょうか……」


「ああーそれならー皆の勇姿も見せられるねー」


「そういうことだ」


 ヘルテとアラダにうなずき、盗っ人猿をリタに飛びつかせた。


「まあ、操ったり感覚を共有したりできると言っても、常にそうするわけじゃなく普段はそいつ自身の意思で行動する。

 君たちの邪魔はせず、大人しく一緒にいろと命じてはいるがな」


「――キキッ!」


 俺の命を受けた盗っ人猿が、どこで覚えたのか敬礼をして見せる。


「そういうことなら歓迎ダ!

 よろしく頼むゾ……レオネイアス!」


 使い捨てのつもりだったが、何やらぎょうぎょうしい名前を付けられてしまった。

 あと、男の子っぽい名前つけてるけどそいつメスだぞ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ