合意の夜
その後……。
ヘルテの奇跡により、リタたち前衛陣が負っていた軽微な傷を癒した俺たちは、クビカリトカゲなる魔物たちの解体作業へ日が暮れるまでの時間を費やした。
何しろ、三十匹近い数を仕留めたのだ。
こいつらには悪いが、戦いそのものよりも解体作業の方がはるかに難儀してしまったのである。
「クビカリトカゲは、肉が食べられない以外は捨てる所が無いゾ!
牙や爪……尾の先に生えた鎌は、加工して武器の部品や矢じりに使うことができル!
鱗や皮は、もちろん防具ダ! 腱の回収も忘れるナ!」
どうやら、一同の中では最も魔物素材の扱いに詳しいらしいリタの指導に従い、死体へ短剣を入れていく。
『運び』を主体に働いてきたこの俺であるが、冒険者の心得として当然ながら魔物素材の剥ぎ取りにも一家言ある。
あるのだが……クビカリトカゲ、なかなかに歯応えのある素材だった。
ただでさえ強靭な筋繊維は、死後硬直を経ることによりさらに固くなっており、愛用してきた鋼鉄の短剣がなかなか通らない。
「私はー畑が気になるからー」
……という理由で先に離脱したアラダと短剣を交換してもらわなければ、一匹解体するだけで時間を使い果たす役立たずと化していただろう。
うん……自分で使うとよく分かるが、やはりアマゾネスたちの武具はモノが違う。
大型獣の牙を研磨して作り上げたのだろうこれは、鋼の刃が通らなかった肉をパンか何かのようにやすやすと切り裂いてしまうのだ。
ネクロム大森林地帯に巣食う強大な魔物を倒し、その素材を用いて武具を生み出し、戦力を拡充していく……。
今日この場で繰り広げられたような営みを、アマゾネスたちは連綿と続けてきたに違いない。
さすがに三十匹全ての素材を持ち帰ることは無理があり、回収できるだけ回収した後は、残る死体を自然の摂理に任せ集落へ帰還する。
その後は夕食という流れになり、当然のように俺が腕を振るったのだが……リクエストされたのは昨日と同じコクデンヒツジの肉野菜炒めだ。
俺としては二日連続で同じ料理というのはどうかと思ったのだが、強敵相手に魔術を連発したことや、よく知らぬ魔物の解体作業で疲れ果てていたこともあり、これを快諾した。
まあ、気に入ってくれたなら何よりだよ。
……ここで生き、共に過ごすと決めたのだ。明日からは、もっと色々な料理を食わせてやらないとな。
さしもの彼女らも死闘を演じて疲れていたこともあり、夕食後はすみやかにお開きという流れになった。
そのようなわけで、俺も自分用に建てられた家へ……そう、帰ることになったわけだが。
この時、違和感を覚えるべきだったのだ。
彼女らが、昨日と同じように「誰を抱くのか?」と聞かなかったことに……。
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「なんだか、最初の夜を思い出すな……」
俺ごときの力では到底振り払えない膂力で寝床たる毛皮の上に押し倒され、下半身をまたぐ格好で馬乗りとなっている少女――リタへそう話しかける。
違いがあるとすれば、今回はお互いに服を着ているという点であろう。
そういえば、リタはあれだけ大事にしているレオを夕食後ロナに預けてたな……そこに不穏の兆しを見るべきであった。
「でも、あの時とは違うゾ……」
最初の夜と同様、うるんだ瞳で俺を見つめるリタ……。
だが、そこに宿っている感情はあの時よりも少しばかり熟成し……膨れ上がっているのが見て取れた。
「……今のワタシたちは、夫婦、ダ」
「……そうだな」
一語一語を噛み締めるように放った言葉へ、同意する。
同時にふと茶目っ気が湧き上がり、少しだけ意地悪な質問をぶつけてみることにした。
「だが、夫婦と言うならリタとだけじゃない……ウルズはちと怪しいが、他の四人ともそうだろう?
いいのか? リタだけが、連続で抱かれるような形にしてしまって」
「他のみんなとも、こっそり話し合って決めたことダ」
しかし、リタはきっぱりとそう断言する。
いつの間に、そんなこと話し合ったんだ……。
考えるに、俺がトカゲの解体に悪戦苦闘していた時だろうか?
ともかく、相手あってのことなのだから、勝手に決めないで頂きたい。
まあ、その辺も含めて……おいおい話し合っていかねばならないのだろう。
どこの夫婦だってやっていることだ。
俺も自分の嫁と定めた少女たちと、しっかり話し合っていこう。
「ワタシはその……明日の夜から少し忙しくするから、当面はお預けになってしまうからナ!
だから、今夜はワタシの番なんダ」
「そうか……」
何を忙しくするのかは、少し気になるが……。
そこを明言しないということは、隠しておきたいことなのだろう。
だが、タイミングから考えて俺関連のことであるのは明白なわけで……。
あれだな。きっと贈り物でも考えてくれているのだろう。
鎧など身に付けそうもないリタが解体作業の際、鱗や皮が防具になると明言していたのだ。
ひょっとしたら、あれら素材を夜な夜な加工して、俺のために装具を整えてくれるのかもしれない。
かわいいやつである。
……そうだな。リタはかわいい。
夫婦となるからには、そういう感情をきちんと言葉にして伝えるべきであろう。
「そういえば、言いそびれていたけどな」
「なんダ?」
「昼間の戦いぶり、かっこよかったぞ。
……少しばかり、惚れてしまうくらいにな」
「――ッ!」
――感極まった。
……とは、まさにこのことだろう。
俺に覆いかぶさったリタが、なかば頭突きのような勢いで唇をかぶせてくる。
経験の浅さを感じさせる、不器用さだ。
……いや、俺以外に経験などないのだろう。
そこのところを考えると、何やら得体の知れない征服感が心を満たしてきて……ランス・シェーアの備えしランスがむくむくと屹立してくる。
「……っ!?」
それに気づいたのだろう……。
唇を放したリタが、年齢にそぐわぬ妖艶な笑みを浮かべてみせた。
「……準備、できたみたいだナ?」
「ああ、そうとも」
リタの言葉に、ニヤリと笑ってみせる。
今から、この少女を思うさま蹂躙するのだと思うと、昼間の疲れも吹き飛び……。
「心からの夫婦となったからには、もう最初みたいに遠慮はしないゾ?」
「へ?」
リタは俺の間抜けな声を意に介さず、東洋のニンジャが使うというニンポめいた早技で着ている服を脱ぎ捨てる!
のみならず、熟練の盗賊もかくやという手つきで俺の衣服に手を伸ばし……!
そして……!
そして……!
――アッー!?
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それからしばし……。
濃密にして過激な時間を過ごした後、俺は天井を見つめていた。
「すぅー……すぅー……」
傍らには、俺の腕を枕に安らかな寝息を立てる裸のリタ……。
俺も眠りたいが、限界を超えてあらゆるモノを絞り尽くされた体はかえって緊張してしまっており、それを許してくれなかった。
奇妙に冴え渡った頭で、考える。
――やっぱり、戻って来るべきじゃなかったかな?
……とりあえず、明日の朝食は麦粥にしよう。




