彼の懇願
「デイジーが会場の中で一番きれいだね」
「カラバスお兄様、ご冗談を。なんと言っても今日一番美しいのは、アスターベル様でございましょう。それにしても、同じ青でもいろんなアイデアがあるものですね…」
王太子殿下とアスターベル様の婚約披露パーティーのドレスコードは、アスターベル様の水色の髪と深い青の瞳にちなんだ「青」だ。青一色のパーティーなんてどうなるものかと思っていたが、それぞれに工夫を凝らした装いが目に楽しい。
青いドレスはもちろん、青と他の色を使ったドレスもあれば、アクセサリーで青を取り入れるご令嬢もいる。男性陣も、青やネイビーのタキシードもあれば、タイやチーフで青を取り入れる方などさまざま。普段の王宮でのパーティーでは軍服の男性も多いが、今回はほぼ全面タキシードだ。
私はといえば、胸が白に近い青で、裾に向かうほど濃い青になっていくグラデーションのドレスを着ている。スクエアネックの胸元を中心にアクアマリンとパールが散りばめられていて、腰には短めのトレーンと一体になったリボンがついており、背面も凝っている。もちろんカラバスお兄様のデザインだ。髪はジヴァ渾身の編み込みを入れたハーフアップ。ドレスに合わせてアクアマリンとパールを連ねた紐を一緒に編み込んでいる。
カラバスお兄様は、襟にアクアマリンとパールを散りばめた水色のタキシード。聞いたときは水色のタキシードなんて、と思ったけれど、お兄様にはよく似合う。ちなみに、アクアマリンとパールで、私とさりげないペアルックなのが重要らしい。「今日は、デイジーが僕のものだってアピールしたいんだよ」とあんまり無邪気に嬉しそうなので、「私は物じゃありません」とか「お兄様の恋人じゃありません」と反論する気もなくなってしまう。
青くて華やかな会場を見渡していると、ステラリリー様の美しいピンクの髪が目に入った。そしてその横にはアレンお兄様。ステラリリー様は本当に幸せそうにお兄様に話しかけていて、恋する乙女はこんなに美しいのかと思わせる。お兄様も笑顔で答えを返している。お似合いの二人だ。ステラリリー様の力になれて良かった。
だけど…なんだか嫌だ。
ステラリリー様のとろけるような美しい笑顔も、アレンお兄様の優しい笑顔も。アレンお兄様、ステラリリー様に向けてそんな顔しないでください。私にそんな優しい顔を向けてくれたことがありましたか?いつも怖い顔で、厳しいじゃないですか。
でも真面目で一生懸命で、耳を赤くして私を見てくれることもあって…お兄様は私の…
心の奥を拳で握られたような、歪んだ痛みを覚えて、慌ててそれを振り払った。だって私はステラリリー様に協力するって言ったのに…こんな風に思うなんて最悪だ。
「デイジー、踊ろうか」
「はい、カラバスお兄様」
ちょうどカラバスお兄様が声をかけてくれたので、初めて感じた変な感情を横へ押しのける。相変わらず、カラバスお兄様とダンスをすると、自分が羽になったかと思うくらい軽くステップを踏める。最高難度とされる曲を踊りこなす私たち二人に、会場の視線が集まっているのがわかる。
「パーティーでデイジーと踊るのって、初めてだね」
「ええ、そうですね」
「僕、すごく嬉しい」
そう言うとカラバスお兄様は、私の頬…ではなく首筋にくちづけた。
「…っ」
「さすがに人前で悪戯が過ぎます。みんな見てるのに。足を踏みますよ」と言いたくてニヤリとしているのだろうお兄様を睨むと…意外にもお兄様は、真面目な、どこか懇願するような顔をしていた。
「デイジー。僕ね、面白半分であんなこと言ったように見えてるかもしれないけど、本当に本当にデイジーのこと真剣なんだよ」
私の腰をさらに近く抱き寄せて踊り続けながら、もう片方の手で耳にかかる私の髪を流して囁く。
「だからデイジーも僕のこと真剣に考えてみてよ」
何というのが正解なのだろう。正解がわからないから、私は本音を言うしかない。
「私は…お兄様のことは大好きですし、尊敬しています…でも…」
「わかってる、今はまだただのお兄様だって。だけどこれから違う視点でも見てほしいんだ。そのために僕頑張るから…」




