彼の真心
甘い言葉を囁かれながら3曲踊って、さすがに身も心も疲れてしまい、お兄様に頼んで二人で少し休憩していると「カラバス、代われ」という声がした。
「えっ…イーライお兄様!?」
ネイビーのタキシード姿のイーライお兄様が、カラバスお兄様を「しっしっ」と遠ざけて、私の手をとってダンスの輪に誘う。これまでほぼローブ姿しか見たことがなかったので、タキシード姿はとても新鮮だ。というか、パーティーでイーライお兄様を見ること自体が初めてだ。
「てっきり今日もイーライお兄様は欠席かと」
「サルトスから絶対来いと言われてたんだよ。お前とも踊りたかったし」
「王太子殿下を呼び捨てですか!?」
「魔法学校の同期で悪友なんでね」
「そうなんですか…心臓が止まるかと思いました…あ、タキシードお似合いですね」
「そうか」
意外にも、イーライお兄様もダンスは上手だ。この人は、無口で怖いと思いきや優しくて可愛いし、ローブだけじゃなくタキシードも似合うし、王太子殿下を呼び捨てだし、ダンスもできるし、意外性の塊だ。
「イーライお兄様はダンスなんてしないと思っていましたが、お上手ですね。この曲難しいのに」
「魔法で自分の足を自動操縦してるからな」
「そんなことできるんですか!?」
「冗談だ」
「ええ!?」
思わず吹き出してしまう。本当に意外性の塊だ。そもそもイーライお兄様とこんなに打ち解けて話せるようになったこと自体が意外だ。ファリカステ様の事件以来、魔法使い同士として仲間意識ができたことも影響しているのだろうか。笑ってしまった私を見て、お兄様の目も少し和らぐ。
「笑顔が見られて良かった。さっきは少し辛そうな顔をしていたから…何かあったか?」
ドキッとする。ステラリリー様とアレンお兄様のツーショットに変な気持ちになってしまったところを、見られてたのか。
「いえ、何も!ちょっと人疲れしたのかもしれませんが、大丈夫です」
「そうか。もう1曲踊れるか?」
「はい」
ゆったりとしたリズムの曲が流れ始めると、イーライお兄様は私を引き寄せて踊りながら、私の耳元に口を寄せて囁いた。
「ファリカステ様の事件のあとに俺が言ったことを覚えてるか?お前が大切な存在だと言ったこと」
「はい」
「あれは…カラバスと同じで…妹としてじゃなく、だ。意味わかるな?」
「…はい」
「そばにいて、一生守りたいんだ」
「はい」とも「ごめんなさい」とも返せない私に、イーライお兄様は顔を離して、私の目を見て、少し寂しそうに言った。
「返事できないなら、無理にくれとは言わない。ただ、俺の気持ちは伝えておく。お前が誰を選んでも、この気持ちが変わらないこともだ」
「…はい。私、嬉しいんです、すごく。私にとってもイーライお兄様は大切な存在です…でも…あの…」
「もういい、わかったから」
そう言ってお兄様は私の髪にキスを落とした。




