解魔師覚醒
「お前の言うことが本当なら、お前はこれから魔法使いの中でも特に珍しい解魔師として生きることになる。魔法使いになると出来ることも増えるが、制約も多い。法律に縛られ、秘密が多くなり、時に孤独だ。俺は、魔法使いにならなければ良かったと思うことすらある」
イーライお兄様がそんな風に思っていたなんて。無口で飄々としていると思っていたのに。胸が詰まって返す言葉がない。
「デイジー。よく聞いてくれ。俺は、お前に俺みたいな人生を送らせたくない。こちら側には来るな」
お兄様、私のことをそんなに大切に思ってくれていたんだ。それでも、私の力で助けられる人がいるのなら。それに、私が魔法使いになれば…
「お兄様のお気持ちはとても嬉しいです。そんなに私のことを大切に思ってくださるなんて。でも、私はファリカステ様を助けて差し上げたいんです。もともとのファリカステ様は淑女の鑑で、優しい方だったと伺いました。操られる前の、本来のファリカステ様に戻っていただきたいんです」
嫉妬に狂って人を殺そうとするまで追い詰められるなんて、きっとファリカステ様自身も本当は辛いはずだ。助けて差し上げたい。覚悟を決めた私に、イーライお兄様は深いため息をついて、道を開けた。
「ヤメロ…」と声にならない声で抵抗するファリカステ様に向き直る。とても不思議だ。何をすればいいのか、わかっている。
"私の内なる力よ、ファリカステ様を蝕む悪しき呪いを解け"
念じると、私の中の力がふつふつと沸き上がってくる。そして急激に膨れ上がって身体の外に出て行く。力は黄金の光になってファリカステ様に向かっていき、ネックレスにぶつかる。ネックレスがはじけ飛び、ファリカステ様が床に崩れ落ちた。
「なんと…呪文も唱えずに解魔したぞ!」「対象にも触れてない!なんて力だ…」と魔法使いたちが騒いでいる。よかった、呪いを解くことができたんだ。でもおかしい。周囲のざわめきがどんどん遠くなっていく。身体中の血が足から流れ出ていくような感覚になる。私はクラリと床に倒れた。
「経路を閉じて魔力を抑えろ!このまま力を放出し続けたら死ぬぞっ!」とイーライお兄様が私を抱きかかえて頬を叩いている。アレンお兄様とカラバスお兄様が私の名前を叫びながら慌てた顔で駆け寄ってくるのが見えた。
どうしよう、経路閉じる、経路閉じる、経路閉じる…いや経路ってどこ?経路の閉じ方なんてわからない…私無鉄砲すぎた…