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墜ちた戦艦 2


「ゴブリン発見!」

「殺せ!」


 お師匠さまの過激な言葉を受け、私は【影顎】を向かわせる。


 ここは森の中。影なんかそこら中にある。【影顎】は移動し放題だ。ゴブリンの集団の中央に大口を開けたまま出現。それだけで三匹のゴブリンが消えた。


 ……【影顎】、ゴブリンを食べてるのかな? お腹壊しそうなんだけど。いや、あの子は私の持ってる従魔の中でも数少ない、完全な幻獣タイプだっけ。魔力は食べるけど肉とかは食べないよね? 

 ……呑み込まれたゴブリンはどこに消えているんだろ?


 そんなことを考えている内に、七匹からなるゴブリンの一団は呑まれて消えた。


 ……おかしいな。なんでこんなことになったんだろ?


 森に入って三日目。私とお師匠さまは、なぜかゴブリン征伐を行っている。


 うん。退治じゃなくて征伐。


 ここら一帯のゴブリンの巣を見つけ出し、殲滅して回っている。

 いや、一昨日ゴブリンを見かけた直後、お師匠さまが――


「キャロル、大掃除をするわよ」


 とか云いだして、それからゴブリンを狩り続けてるんだけど。


 昨日、一昨日で、既に巣は三つ潰している。


 なんでこんなに殺る気になってるんだろ?

 いや、凄い嫌な推測はあるんだけれど。お師匠さま、リンスベルド出身だし。

 ……さすがに聞けないよね?


 そうこうしているうちに巣穴発見。


 このあたりのゴブリンの巣穴は、大型のワーム系の魔物や、大型の蟻の魔物の巣穴の跡地を利用しているのが大半だ。

 それらを殺して巣穴を奪ったのか、もともと空いていたのは分からないけど。

 入り口のあたりを上手く加工して、なんというか、大穴のあいたでかい蟻塚みたいな感じになっている。

 今回見つけたのもそういった巣穴だ。


 見張りは二匹。


 お師匠さまの従魔【化幽】がゴブリンの姿で無造作に近づき、見張り二匹の頭をあっさりともいだ。


 【化幽】も完全な幻獣タイプの従魔。大抵の生物に化けることができる。恐ろしいのは、亜神クラスの生物にも化けることができるということ。それも、姿かたちを似せるだけではなく、その能力も若干劣化するもののコピーするという。


 上級の従魔ともなると、とんでもないな。


 従魔=精霊と考えて問題ないと、お師匠さまはいってるけど。それを考えると、当然のことか。


 というかお師匠さま、よりにもよって最初の従魔で上級を引いたのか。運が良いというべきなのか、悪いというべきなのか。


 普通なら殺されるもの、最初の召喚で上級なんて呼び出したら。


「さてと、見張りも始末したし、この巣穴はどう潰そうかしらね?」

「水でも流し込みます?」


 定番ともいえる方法を提案してみた。


 地面から盛り上がった形状の巣穴。巣穴は地下へとまっすぐ進んでいるようだ。恐らくは、大型の蟻の魔物の巣であったのだろう。


「水攻めか。うーん、水を都合するのが面倒よね。というか、蟻の巣って水対策がされてるんじゃなかったっけ? とはいえ煙は送り込みにくいし。……なんか面白そうな薬とかなかったかな? すぐに気化して広まる毒薬っぽいの」


 そういえばお師匠さま、よく得体の知れない薬とか作ってましたね。エンレラさんの影響ですか?


 エンレラ・ミード・ラインナード。ラインナード男爵夫人である彼女は、ウィランで【エンレラ・ミードの魔法のお店】という、魔法薬店を営んでいる。

 お師匠さまの防御系魔術の師でもある。

 ご近所さんやお得意様からは『お姉ちゃん』と呼ばれ慕われている。というか、なぜかみんな『お姉ちゃん』としか呼ばない。もちろん私もいつもはそう呼んでいる。……なんでそう呼ぶようになったんだっけ?


「よし、こいつを使おう。毒キノコのエキス詰め合わせをあれやこれややって、酷いことになった毒薬。もちろん致死性。……死ぬまでに時間が掛かるけど」


 なんか物騒なのがでてきた。


 大きさは大きめのマグカップくらいの壜。

 お師匠さまは、その毒の入った壜になにかしら簡易付与すると、巣穴を覗き込んだ

 この巣穴は元蟻の巣で、入り口には梯子が掛かっているのが見える。


「うーん、梯子の感じ、結構深いところまで垂直に掘られてるっぽいね。とはいえ、深部までうまく充満するかな? まぁ、やってみればいいか」


 ぽいと毒壜を放り込んだ。


 どすっ! っと、落ちた音がして、続いて転げ落ちていく音が聞こえる。


「意外と順調に置くまで入ったわね」

「割れなかったみたいですけど、大丈夫なんですか?」


 お師匠さまのとなりに屈みこんで、私も穴を覗いてみる。


 うん。真っ暗でなにもわからない。


「と、そうだ。出てこられても困るから、梯子を外して……というか、引っ張り出そう」

「さすがに固定されてるんじゃないですか?」

「……ぬ、動かない。生意気な。なんか蓋になるようなものあったかな?」


 ブツブツ云いながら、お師匠さまが小袋にてを突っ込み中身を探っている。


 お師匠さま。いくら大量になんでも入るからって、適当に放り込んでいませんか? 中身をちゃんと把握してます?


 妙なところでずぼらというか、適当なのは心配でならない。


「お、テーブル用の天板があった。これを蓋代わりにしよう」


 ……なんでそんなものがはいってるんですか。


 巨木を輪切りにして作ったであろう天板を穴の上に載せ、隙間を土で塞ぐ。もちろん、これだけではすぐに取り除かれてしまうだろう。だがお師匠さまはそこに魔法を掛けて動かせないように細工する。さらには周囲の土を掘ることが不可能なほどに固くする。


「よし、これで出てはこれないよ。ということで、パキっとな」


 ぱちんと指を鳴らす。


 これできっと、あの壜に仕込まれた付与魔法が発動した。恐らく、これで壜が割れたはずだ。


「あれは非常に揮発性の高い薬品だからねー。すぐに巣穴に蔓延するかな。無味無臭の上に刺激無しという、酷い性能の優秀な毒だよ!」


 ……うわぁ。


「キャロルも【生命探知】を使って確認してみなさい」


 【生命探知】。一定範囲内の心音を探知する魔法だ。心音を視覚として探知するため、生物を赤い点で察知することができる。


 まぁ、昆虫とか察知できない生き物もいるけどね。察知できる音量の下限があるんだよね、この魔法。まぁ、昆虫まで察知できると、大変なことになりそうだけど。


 魔素よ。我に隠れし生物を知覚する視力を与えよ。


 頭の中で魔法を簡易詠唱をする。ほとんど使ったことのない魔法は、さすがになにかしらの発動補助を行わないと魔法を使えない。


 普段の生活じゃ、【生命探知】なんて使わないからね。


 たちまち足元の地面に、いくつもの点滅する赤い点が生まれる。


 それらの赤い点は、点滅のサイクルがあがったかと思うと、だんだんとゆっくりとなり、やがて消えた。


 それからしばらくして、四つ目の巣の征伐が完了した。


 その後、もうひとつゴブリンの巣を発見した私たちは、それも征伐し、三日目の活動を終了した。






 三日目の夜。ぱちぱちと薪の爆ぜる音を聞きながら、私たちは食後のお茶を飲んでいた。

 この三日は結構な強行軍だった。強行軍というか、ゴブリンを探して殺すというくりかえしだ。


「あの、お師匠さま? 調査の方はどうなるんでしょう?」


 そう。ここに来た目的は墜ちた飛空戦艦の調査だ。


「ん? 明日からは元の行程に戻るよ。ゴブリンの相手は今日で終了ね。まぁ、途中でまた巣を見つけたら潰すけど」


 いや、どれだけ目の敵にしてるのお師匠さま!?


「……あの、お師匠さま、もしかして。その――」

「ん?」


 言葉を濁した私に、お師匠さまが首を傾げた。

 そしてややあって――


「あっ! ち、違うわよ、そんなんじゃないわよ!」

「いえ、でも、だって、お師匠さまの出身ってリンスベルド……」

「あたしはまだ処女だよ!」


 お師匠さまが叫んだ。


 ……。

 ……。

 ……。


「なんてこと云わせんのよ!」

「ご、ごめんなさい!」


 お師匠さまは真っ赤だ。


「あ、あああの、それじゃなんでこんなにゴブリンを目の敵にしてるんですか?」

 お師匠さまに訊ねた。


「あー、結構、誤解している人がいるんだけどね、ゴブリンって一級の危険生物なんだよ。だからあたしは見敵必殺してるの」


 ……は?


 一級の危険生物って、ゴブリンですよ?


「ゴブリン共の脅威は、その異常な繁殖力よ。だれも気にしてはいないけど、人類はゴブリンと生存競争をやっているのよ。たとえどんなに強かろうと、数の暴力には敵わない。あたしにしろソーマにしろ、ひとりで数万のゴブリンは殲滅できても、これが数十万、数百万になったら負けるからね」


 ……お師匠さま、桁がおかしいです。


「だいたい、ゴブリン討伐の依頼は新人傭兵向けにだされるけど、これが巣の征伐になると一線級の傭兵隊が受けるような仕事になるのよ。

 時々、新人が勇んで巣に突撃してそのまま殺されるなんてことはよくあるしね」

 え。って、私たち、あっさり巣を潰して回ってましたけど。


「なんでそんな驚いた顔してるのよ」

「え、だって私たち、今日までに巣を五つも潰しましたよ」


 やった感じだと、多分、規模の小さい巣なら私でもひとりで、というか【影顎】だけで征伐できると思う。


「あのね、普通の傭兵はあんたみたいに魔法を使えないのよ。というか、まだいまひとつ中身が伴っていないけど、あんたはもう導師様って呼ばれてもいいんだからね」

「えぇっ!」


 導師様って、まだ私なんにもできませんよ?

 ……あ、そうか、超級呪文を一個でも使えれば、導士から導師に昇級できるんだっけ? でも私、一人前には程遠いですよ!


「うーん、その辺の自覚はまだないかー。なんかひとりでやらせて自信持たせたほうがいいかな。今度塔でなにか依頼を請けみる? サラサみたいに悪魔討伐とか」

「え、嫌ですよ。私は平和に生きたいです。お師匠さまみたいに魔具を作ってみたいです!」


 荒事は無理です。やりたくないです。ゴブリンだって、ほとんど【影顎】任せですよ、私。


「あぁ、それもいいかー。あんたも永久付与できるようになってるしね。じゃあ、あたしのやってる格好つけの無駄技術覚えてみる?」


 格好つけの無駄技術って……。


「あの、空中で魔晶石つくったりとかですか?」

「そう。あれは頑張れば誰もできるからね」


 おぉ、あれ、私でもできるようになるんだ。ならば私の答えは決まってる!


「お願いします!」


 あれは格好良かった!


「まぁ、普通に創ったほうが精度はいいんだけれどね」


 ぼそりとお師匠さまが云った。


 あぁ、なんとな原因は分かる。

 でも構わない。格好つけは大事ですよ、お師匠さま。


 スタイリッシュこそ王道です!


 ソーマ先生だってそう云ってましたもん!


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