序章 転生の時
ちょいとシリアスです
叫んだ。
声は闇の中を走り反響する。それと同時に、暗闇に亀裂が走った。亀裂の音、それは世界の崩壊の音。そして亀裂の合間からは、光が差し込んできた。光はそれがスポットライトのようになって道を作っている。
「見えた!」
「見えました!」
俺とアクアが抱き合って飛び上がる。ていうか、一方的に抱き付かれているのだがね。うむ。感触は心地良いよ。
番人は、いつの間にか消えていた。あれだ。多分、光に弱いんだ。ささっ、とどこか深い闇の中へと隠れていったのだろう。ゴキブリのように。
「やった。また、生きていけるんだ」
うう、と泣き出すアクア。
俺は、黙って抱きつかれたままでいた。
別に感触を堪能しているわけではない。ないぞ。俺も、その気持ちがわかるのだ。自分という存在が消えないでいられる。それは、やはり肉体を失っていたとしても、生きているということにならないか。
そうだ。死んでない。まだ、俺は死んでいない。
純粋な嬉しさがこみ上げる。
しかし、同時に一抹の寂しさも。
「……お別れですね」
溢れ出る涙を拭いながら、その俺の気持ちを代弁するように、アクアがそう呟いた。
「ああ」と俺は頷いた。
束の間だ。ほんの少しの間一緒に居ただけ。それでも、何か離れ難いものを俺はアクアに感じている。もちろん、こんな美少女そうそういないから、という気持ちがないわけではない。けれど、そんな外見なんて些細なことと思えるほどに、俺は『アクア』というただその人格を好きになっていた。
少しの間でも、情は移る。きっと、それが人間なんだろう。
じゃあ、精霊であるアクアはどう感じているのか。きつく抱きついてくる、アクアの心を思う。
「私、ずっと人間になりたかったんですよ」
見上げようと思った。けど、止めた。なぜか今アクアの顔を見てはいけない気がしたから。
「だから、私は、あなたの世界で生きたいです。あなたの絆を手繰っていけば、私は人間に生まれ変われる。でも、私の世界に行けば、私はきっとまた精霊。それは決まっているんですよ」
「何で、わかるんだ?」
「わかるんです。精霊ですから。世界の理に近いんです。だから、ここのことも少し詳しかったでしょ」
「そういえばそうだな」と、相槌を打つ。
それから何と言えば分からなかった。分からなかったから、何も言わずに耳を澄ませることにした。アクアが求めているのは独白だ。答えじゃない。
アクアの顔を見ようとはやはり思わなかった。ただその声だけを聞く。
「ずっと羨ましかった。人間の村を覗きながら、あそこに加わりたかった。でも、村に下りたら、私は捕まりました。人間に。水の精霊は、人にとって貴重な『物』でしかなかったんです。井戸に沈められて、ただの水源として生きました。私の力が果てるまで」
「……」
「そんな世界に、あなたは生きたいですか?」
分かっていた。どこの世界だって、悲しみはある。ただ笑って生きていられる世界なんて、薄っぺらなものだろう。
「ねえ。あなたも、あなたの世界で生きましょうよ。もしかしたら、また会えるかも。記憶を失わないなら、また会えるかもしれないじゃないですか」
「俺たちの世界だって、幸せだけがあるわけじゃない。むしろ、辛いことのほうが多かった」
目を閉じて思い出す、過去の出来事。いや、止めよう。ここで不幸の言い合いをしても仕方がない。
「俺は、やっぱりお前の世界に行くよ。アクアが生きてきた世界を見てみたい。やっぱり、魔法とか興味あるしな。そんで、死んだらまたここで会おうぜ。そしたら、きっと本当の意味で死ぬことはない」
肉体が滅びても、記憶がある限り。自我の消滅が死だというなら、ほら、やっぱり俺たちは死なないだろう。
「楽天家なんですね」
「ポジティブが俺の人生論だ」
「よくわからないけど、これからの私の生き方の参考にします」
手がそっと離れる。胸も。それに名残惜しさを感じながら(いやいや下心はないぞ)、俺は亀裂から差し込む光が導くその経路の上に、乗った。
アクアも、同じように。
「じゃあ、また会おうぜ」
「ええ。絶対に」
会ったときと同じ。涙で睫を濡らしながら、アクアは命一杯手を振った。だが生憎俺に振る手はない。だから代わりにピョンピョンと飛び跳ねる。
それをアクアは笑って、背を向け、駆け出した。
俺もアクアを見ないで、光の続く先を向く。
そう、俺も新たな門出だ。悲しむべきときでもない。振り返るべきときでもない。
進むべきときだ。
うおおおー、と俺は光の先を走り抜けた。
気分はね。
実際、海面に漂う藻屑並みのスピードだったことは割愛させて頂く。
長くなりました。序章なのに。本当は一話にまとめるつもりだったんですけど。
まだ別に連載しているのがあるんですけどね。ぽんぽんと別の小説のアイディアが浮かぶので、書いてしまいました。
更新は不定期で書いていきます。つまり気分です。書いたらすぐ載せるつもりですので。




