塩の木
家に吸血鬼のアリューシャが来ました。
ついに、ついに人が来ました。
人じゃないけど、吸血鬼だけど人が来ました。
住人が2人になりました。
住クマと住オオカミはたくさんいます。
(アリューシャは、美少女吸血鬼で、この世界の知識が豊富で頼りになりそうだ。私……いやボク……ボク………そうだ私じゃなく、自分のことはボクと呼ぼう………けして異世界でキャラが薄くなりそうだから、キャラを後付したいからじゃないよ……)
「ねぇねぇアリューシャ、塩ってさ、どうしたら手に入る?」
ミラはアリューシャの肩をつかみユサユサと揺らしながら、彼女の目をジーと見つめる。
「う~う、揺らさないでください……塩……ですか?」
ユサユサと必死にアリューシャの身体を揺するミラ。
食事に必要不可欠な塩を手に入れるために彼女も必死なのだ。
「うん塩、塩」
植物操作や錬成の能力があろうと、塩が手に入らなければ生活できない。
「え~とですね。塩は塩の木から採取する方法と海水を蒸発させて生成する2つの方法があります」
(んっ………塩の木?
まじで……塩がなる木かぁ……ファンタジーだな。)
この異世界では塩は、塩の木から採取するものであり、この世界の住人にとっては、それが常識なのだ。しかし異世界から来たミラにとっては、そのことは異常なことに感じてしまうのだろう。
「よし、じゃ塩のなる木よ………生えてこい…………生えてこい」
ミラが手をかざしブツブツと呪文を唱えるように唸ると、地面を割るように白い芽が現れ、徐々に成長し、ものの数分で10mの木となる。
「なんだか不思議な能力ですね」
(アリューシャは頬に手を当てて、珍獣でも見たようにボクを見ている。
なぜだろう………やっぱり、この能力は珍しいのかな………)
この世界の知識について疎いミラでも、自らの能力が異常であることがアリューシャの反応からも伝わった。そう、この世界では魔法や魔術は存在するが、それは物理法則に縛られるものであり、無から有は作りだすことはできないのだ。有から有を作り出す、自らの魔力を使って自然の物理法則に干渉し、特定の現象を起こす、それがこの世界の常識であるのだ。しかしミラの能力は無から有を作り出す、それはまさに神の領域の力なのだ。
「そうかなぁ………まぁ、それよりも味見しようよ」
(そう、塩……塩が手に入ったんだ……これで、あの味気のない食事から解放される)
ミラはワクワクした顔で、白い塩の木の葉を手で千切りポイッと口に放り込む。
「あっ、ちょっと、そんなに食べたらダメですよ!!!」
アリューシャはミラのもとに慌てて駆け寄り、ミラの凶行を止めようとする。
しかし、そんなことを気にすることなるミラは塩の葉をかみしめる。
「しょっぱい………うぇええ………ちょつと気持ち悪い」
塩の木の葉は、約80%が塩でできているため葉一枚でも30g以上の量になるのだ。
塩は多量に摂取すると中毒症状がでるか、体が拒絶反応で気持ち悪くなるため、
塩の木の葉は細かく刻んで使用するのが正しい使用方法なのだ。
「だから止めたじゃないですか。ほら口を開けてください。水よ集まれ……」
アリューシャが空中に指を走らせ呪文を唱えると、アリューシャの指の先に小さな水球が現れる。
「あっ~ブクブク………ゴクゴク………はぁ助かった~」