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雨燕とのお別れ

()る小雨の日の朝のショートホームルームのとき、教壇(きょうだん)に立っているスズメ先生は、いたく深刻な、神妙(しんみょう)(おも)()ちをしていた。


スズメ先生は、(おもむろ)にこう切り出した。

「今日はみんなに伝えなくてはならないことがあるチュン」


クラスのみんなは席に着いている。(あま)(つばめ)くんは飛びっぱなしだが。


スズメ先生「雨燕が、・・・ チュン」


鶏庭子「溜めないでよ、先生、フガ」


(ひよどり)「先生、引き伸ばさないでピーヨ」


庭子「『引き伸ばしている』というんじゃなくて、『()()()()()』です、フガ」


鵯「もしかして、空中衝突で死んじゃったのピーヨ?」


雨燕「今、ここで飛んでいるだろうがーチリリリ」


「雨燕が、今日で、みんなとお別れすることになったチュン」


一瞬、教室中が静まり返った。


「事故じゃなくて病気で死んじゃうのフガ?」


「えっ、そんなぁ、まだ高校生なのにピーヨ。悲しいピーヨ」


大鷹野「そういう意味じゃないよキッキッ。聞こえちゃうよキッキッ」


「聞こえているよーチリリリ。特に今日は低いところ飛んでいるからチリリリ。・・・

 さっきから、勝手に殺さないでくれーぇチリリリ」


「実は、これから彼は山のほうにいくんだチュン」


「なーんだ、死なないのかフガ。それはよかったフガ。つまらないけどフガ」


(きじ)「そんな、ついこの間、出会ったばかりじゃないかケンケン。

 なんで今まで言わなかったんだケンケン。

 (みず)臭いじゃないかケンケン」


(つばめ)()燕という名前のとおりだねチュピ」


「ちなみに、彼はこの1週間、ものすごく勉強したチュン。2年に進級する(たん)()はもう取ったからチュン」


「そうだったのかケンケン。

お小遣いを溜めているのかと思ったよケンケン。

いつも熱心だから何をしているのかと思えば、単位と旅費を溜めていたんだケンケン」


庭子「何、単位ってフガ。単位って、長さのメートルっていう単位、重さのキログラムっていう単位、・・・それとも、なんのことフガ?」と翼をばたばたさせながら言った。


燕(庭子に対して)「単位っていうのは、頑張って勉強したから2年生になれますってことだよチュピ。

  ところで、キログラムとは正確には質量の単位であって、重さの単位じゃないんだチュピ」


庭子「うーん・・・フガ」


スズメ先生は渋い顔をして言った「(にわとり)ぃ、この世の(おきて)には(あらが)えないんだチュン。今更(いまさら)じたばたしてもだめなんだチュン。だが、友と過ごした日々の価値の重さは、キログラムなんかで測れるものじゃないんだチュン。・・・」


庭子「ひょっとして、1週間で勉強できることを私は1年かけて勉強するってことフガ? そんなの悲しいよフガ」


スズメ先生「鶏ぃ、友との別れは悲しいものなんだ、チュン。

・・・彼は、がけのあるところしか降りられないんだチュン。これから彼は崖のある山のほうにいくんだチュン。・・・

今日の雨はみんなの涙だチュン」


スズメ先生は続けて言った「世の中には出会いもあれば別れもあるんだチュン。・・・数々の出会いと別れを()て君たちは()()()なっていくんだチュン・・・」


鵯(小声で)「いいこと言ってるみたいだけど、あんなに()()()()()スズメ先生には言われたくないピーヨ」


庭子「ほんとにフガ」


・・・


大鷹野「みんな、屋上に出て見送ろうキッキッ」


クラスのみんなは、屋上に出て、雨燕に手を振った。


燕「では、ここで、一曲、『別れの港』をチュピ」


すると、燕くんが歌を歌い始める間もなく、

雨燕は、校舎のすぐ上、屋上ぎりぎりぐらいの高さのところを円を描くようにぐるぐる回って、言った

「みんなぁ、短い間だったけど、ありがとーーーチリリリ。

 またきっと会えるよーうチリリリ」


そして雨燕はスカイライティング(注)で、空に「ありがとう」という文字を描いたが、

すぐ雨に掻き消されてしまった。


(つばめ)「あれっ、ちょっとかっこ悪いなチュピ。でも、これも名前にふさわしいねチュピ」


庭子「できたら『有難う』って漢字で書いてほしかったのにフガ」


燕「それは文字通り難しいよチュピ」


庭子「()()()()ねフガ」


そして、雨燕は、他のどんな鳥も追いつけないような物凄い速さで、

校舎のすぐ上を、何度も同じところをぐるぐると一つの輪を描くと、

残像でまるでドーナッツみたいな形に見えた。


「こ、これはひょっとして、この輪が巨大な『つばめの巣』になって、

私たちに別れのしるしとして()れるのではフガ?」


「まさか、それはないだろうケンケン」


「じゃあ、ぐるぐる回ってバターになるのかなフガ」


「それなら、『つばめの巣』のほうがありえるよケンケン」


すると、急に風が強くなってきて、

雨燕の描いた円は、巨大な渦のようになり、更に大きくなって

我が()()(ぬま)の水を吸い上げ、

竜巻になった。


「なんだこの竜巻は・・・キッキッ。よし、私が倒してやるキッキッ」


大鷹野は、竜巻にかかっていった。


「だ、だめだチュン。(ちから)(わざ)はだめだチュン。特に将来、人(?)の上に立つならばチュン。・・・

 逃げろチュン」


「これは危険だキッキッ。中に入ってキッキッ」


挿絵(By みてみん)


「ただ高」のある小さな島も、まるで揺れているかのような凄い振動が起きた。


そして、稲妻がぴかっと、その竜巻で起きたかと思うと、

雨燕も竜巻も一瞬で消えた。

急に空が晴れた。


「こっ、これはどういうことだケンケン」


「テレポーテーションかもしれないねチュピ」


「ひょっとすると、時空を超えたのかもしれないキッキッ」


「行っちゃったねフガ。でも、『つばめの巣』くらい呉れてもよかったのにねフガ」


「まったく、食うことしか考えてないのかよケンケン」


「言っとくけど、『つばめの巣』っていうのは、『ア()ツバメ』類の中でも一部の巣のことだからねチュピ。」



―――


【注釈】

「スカイライティング」:飛行機などが、空に(煙のようなもので)文字を書くこと。



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