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入学式の日 出欠

庭子が教室に入っていくと、

担任のスズメ先生が居た。


「あ、久しぶりだねチュン。

ま、とりあえず、適当な席についてほしいチュン」


「はいフガ」


・・・


しかし、他に誰も入ってこなかった。

どういうことだろう。


「みなさん、入学おめでとうチュン。

私が担任の(すずめ)(すず)()ですチュン」


「ちょ、ちょっと待って先生、フガ。

他に誰もいませんフガ。

もしかして、このクラスは私だけですかフガ?」


「もしそれがわかっていたら、()()()()とは言わないチュン。

じゃあ、まず出欠から取りましょうチュン」


「ちょ、ちょっと待って先生、フガ。

他に誰もいませんフガ。

もしかして、私以外はみんな欠席ですかフガ?」


「もしそれがわかっていたら、出欠はとらないチュン。

まず出欠から取りましょうチュン」


(あま)(つばめ) (あま)()、チュン。・・・

 どこにいるのだろうチュン?」


するとお空から声が聞こえた。

雨燕「せーんせー、ここにいまーすチリリリ」


スズメ先生と庭子は、窓を開けて、顔を出した。


雨燕くんは、お空をぐるぐると飛び続けている。


挿絵(By みてみん)


スズメ先生はお空の雨燕くんに向かって話した。

「降りて来られるかなチュン」


雨燕「降りれるけど降りませーんチリリリ」


スズメ先生「それはどうしてチュン」


雨燕「一旦降りてー、飛べなくなったらかっこ悪いんでーチリリリ」


雨燕は、基本的に地上に降りない。

平らなところに降りると、翼が地面にぶつかって飛べなくなるらしい。

樹にも停まらないと言われている。

食べるのも眠るのも飛びながら行うと言われている。


スズメ先生「一つ確認したいことがあるんだけどチュン」


雨燕「なんですかーチリリリ」


スズメ先生「雨燕はどこに住んでいるのチュン」


雨燕「住所不定でーすチリリリ」


ま、それは住所不定というしかない。


雨燕「だけど、仮の住所がありまーすチリリリ」


スズメ先生「それはどこなのチュン」


雨燕「鎌ヶ谷でーすチリリリ」


スズメ先生「その心はチュン?」


雨燕「僕は(かま)(つばめ)とも呼ばれるので、鎌つながりでーすチリリリ」


あともう一つ、どうやって通学しているのか、という質問があるが、

訊くまでもないので省略。


スズメ先生「はい、雨燕、出席ねチュン」


庭子「先生、それで出席でいいんですかフガ」


スズメ先生「もちろんいいよチュン」


庭子は、"中学まではなんて狭い世界だったのだろう、こんな鳥が居るとは" と思った。


実は雨燕くん以外はたいしたことはない。

一番たいしたことのある雨燕くんが一番最初に来てしまったのは、

出欠が50音順だからである。


中学と違って、高校は50音順になっているようだ。


・・・


で、この調子でクラスのみんなのことを全部書くと、いつまでたっても終わらないので、

かいつまんで書くことにする。


・・・


スズメ先生「では次チュン。(おお)(たか)() (たか)、チュン」


大鷹が、さっき開けた窓から、シュッと入ってきた。


大鷹野「大鷹野鷹子ですキッキッ」


この大鷹は、庭子が受験のときに高校まで背中に乗せてくれた大鷹だ。


スズメ先生「では、適当な席についてくれチュン。

で、一つ確認したいことがあるんだけどチュン」


大鷹野「なんですかキッキッ」


スズメ先生「大鷹野はどこに住んでいるのチュン」


大鷹野「流山おおたかの森の近くに住んでいますキッキッ」


スズメ先生「もう一つ確認したいことがあるんだけどチュン」


大鷹野「なんですかキッキッ」


スズメ先生「大鷹野はどうやって通学するのチュン」


大鷹野「飛び(つう)ですキッキッ」


どうも、学校まで飛んでくるのを飛び通というらしい。


スズメ先生「それから、まだ質問があるチュン」


大鷹野「なんですかキッキッ」


スズメ先生「君は将来何になりたいのかなチュン」


大鷹野「キャリア警察官になって、コジュケイの警察官たちを掌握しますキッキッ」


スズメ先生「しっかし、君は随分、体格がいいねえチュン。さすが警察官を目指すだけあるなチュン」


スズメ先生は、大鷹野を()で回すように見たり、大鷹野の背中に飛び乗ったり、「大鷹野選手、これからの高校生活頑張ってほしいチュン」なんて言って肩を叩いた。


庭子「先生、それはセクハラになりますよフガ」


すると大鷹野は、ちょっと翼を動かした。

そのとき、ちょうど大鷹野の翼に乗っていたスズメ先生は、すっ飛ばされて、バーンと壁にぶち当たった。

スズメ先生「いたたた、チュン。・・・そ、そういう、力業(ちからわざ)はダメだぞ、チュン。

 しょ、将来、人(?)の上に立つなら尚更(なおさら)だぞチュン」


大鷹野「あ、先生、いたんですか、なんかムズムズしたんでキッキッ。・・・

あれっ、ヒヨコさんキッキッ?

随分、感じが変わったのねキッキッ。」


庭子「そう、羽も生え変わってきたし、声変わりもしたしフガ」


スズメ先生「えへん、では、次チュン。(とり)(から)()、チュン」


・・・しーん・・・


庭子「先生、誰も返事しませんフガ」


スズメ先生「おかしいな、入学式早々欠席かな、チュン」


(からす)(から)()「せ、先生、それ僕のことじゃないですか、カア」


窓から黒い鳥が入ってきた。


スズメ先生「君が(とり)(から)くんかな、チュン」


(からす)(から)()(とり)カラじゃないですよカア・・・。そもそも(とり)じゃないですよカア。まあ、鳥と言えば鳥だけどカア。・・・ボケているんですかカア。字をよく見てくださいカア。(からす)ですよカア」


スズメ先生「あ、ごめんごめんチュン。烏と鳥を見間違えたチュン。ハイじゃ、出席、チュン」


烏殻雄「でも、良かったカア。島と間違えられなくてカア」


スズメ先生「君はどこから通っているのかなチュン」


烏殻雄「清水公園の近くに住んでいます、カア。電車通と飛び通ですカア」


スズメ先生「君は将来何になりたいのかなチュン」


烏殻雄「僕は将来裁判官になりますカア。なぜなら、裁判官は法廷で黒い服、法服というのを着なければなりませんが、僕は元々黒いから着なくていいから便利だからですカア」


スズメ先生「なるほどチュン」


・・・


スズメ先生「では次チュン。(きじ) (きじ)()、チュン」


雉くんが、教室の後ろの引き戸をガラッと開けて、廊下から、スタスタスタと入ってきた。


こういう、今まで当たり前だと思ってきた入り方が、逆に新鮮さを帯びている。


雉くんが後ろ手にドアを閉めると、自慢の長いまっすぐな尾を引き戸にはさんでしまった。「あ、痛、・・・間違えたケンケン」


雉「はい先生、ケンケン。僕は近くに住んでいますケンケン。徒歩通+飛び通ですケンケン。誰よりも早く緊急地震速報を聞くのが目標ですケンケン」


スズメ先生「はい、ありがとうチュン。

 では次チュン。きじば・・・」


雉「えっ、ケンケン」


先生が「きじ」という言葉を発したので、

雉くんは自分が呼ばれたのだと思ったのだった。


スズメ先生「・・・雉鳩(きじばと) 雉雄(きじお)、チュン」


雉鳩「はい、ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ・・・」


声はするが、誰も教室に入ってこない。

これはさっきの雨燕くんみたいに、飛びっぱなしなのだろうか。


雉鳩「・・・ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボー。」


いつの間にか、教室の中のみんなは、立ち上がって、鳴き声に伴ってゆらゆらと踊っていた。

この鳴き声は、他の鳥を踊らせる効果があるらしい。


スズメ先生と生徒の鳥たちが窓から顔を出すと、

実は、雉鳩くんはすぐ近くの電線に停まっていた。


スズメ先生「そんな、恥ずかしがらないで、こっちへ来なさいチュン」


すると、雉鳩は窓から教室に入ってきた。


雉鳩「はい、ボーボーッポッポー ボー。僕は、里に住んでいますボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボー。

電車通と飛び通ですボーボーッポッポー ボー」


雉「あっ、ケンケン。

 き、きみは・・・ケンケン。

 あの時会ったキジバト君じゃないかケンケン」


雉鳩「あっ、あのときの・・・ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボー」


雉「あの時の約束どおり、食事に行かないかケンケン」


スズメ先生「まあみんな、席に着いてチュン」


教室の中のみんなが席に着いた。ちなみに、雨燕くんは飛びっぱなしである。



スズメ先生「では次チュン。(つばめ) 唾雄(つばお)、チュン」


燕「はいチュピ。()()()、燕ですチュピ。松戸に住んでいますチュピ。飛び通ですチュピ」


庭子「あっ、『矢切の渡し』の越冬ツバメくんだフガ」


燕「あの節は懐炉(かいろ)をありがとうチュピ」


庭子「燕くんは、渋い歌が得意なんだよ、フガ」


燕「では、ここで一曲チュピ。・・・」


スズメ先生「待ってくれチュン。後にしようチュン。・・・

 では次チュン。鶏庭子、チュン」


庭子「はい、フガ。柏に住んでいますフガ。チャリ通+ボート通ですフガ」


燕「ボート通チュピ? 

まるでボートに詳しいみたいじゃないかチュピ」


スズメ先生「君は将来何になりたいのかなチュン」


庭子「えっとぉ、・・・うーんと・・・、フガ」


スズメ先生「将来の目標が決まっていないみたいだなチュン。・・・今度、先生と、お父さんやお母さんも交えながら、ゆっくりお風呂に入りながら君の将来について話そうチュン」


庭子「で、でも、うちの家族は生憎(あいにく)、先生と違って、水風呂が苦手で、砂風呂が好きなんです、フガ」(汗)


スズメ先生「あれっ、知らなかったのチュン? スズメは砂風呂も水風呂も入れることチュン」


庭子「・・・」


スズメ先生「では次チュン。(ひよどり)()()()、チュン」


窓から入ってきた。


鵯「はい、ピーヨ。我孫子に住んでいますピーヨ。飛び通ですピーヨ」


大鷹野「あれっ、鶏さんのことを『ヒヨコさん』と呼んでいたのに、本当に『ひよこさん』がいると具合が悪いわねキッキッ」


"鶏さんのことを『ヒヨコさん』と呼んでいた" と言うなら、

そのまま鶏さんと呼べばいい気もするが。


庭子「私はもうヒヨコじゃないから『庭子』で呼んでねフガ」



・・・


野田に住んでいるコウノトリくんやひばりくん、市川市のウグイスくんなどなど、他の鳥も多数いるが、書くのを省略する。


ちなみに、このクラスは理数科なので、県内どこからでも通える。



そんでもって、長くなってきたので省略するが、

この後、体育館で入学式があって、そして、再び教室に戻ってきた。

雨燕くんは飛びっぱなしだが。


スズメ先生「では今日はこれで終わりチュン。明日から8時半に来てくれチュン」


雉「じゃあ、雉鳩くん、この後、約束どおり食事に行こうケンケン。

僕のおごりで、ケンケン」


燕「えっ、2人(?)は食事に行くのチュピ?

 雉くんのおごりで、みんなで行こうよチュピ」


雉くんは「ちょっと待ってよケンケン。なんで僕がみんなの分を出さなきゃいけないのケンケン」と顔を赤くして怒り出した。


鵯「じゃあ、さあ、みんなでお金を出し合って花見にいこうよピーヨ」


スズメ先生「じゃあ、先生も混ぜてもらおうチュン」


こうして、クラスのみんなで近くの桜の花の下で花見をした。

雨燕くんは飛びっぱなしだが。


燕くんは渋い歌を何度も歌って、

庭子はそこらへんを歩き回って「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」なんて短歌を()んで、

雨燕はいつまでも飛びっぱなしで、

鳥たちは桜の樹の周りを飛び回って、

スズメ先生は梅酒を飲みながら「いやあ、きれいな花だチュン」なんて言い、

雉鳩くんの「ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボー」という声に合わせてみんな踊ったりして、勝手気ままな花見だった。




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