17:愉快な仲間、真実を見抜く?
間違いない。
王太子の側近で次の神殿のトップと目されていた、聖魔法の優秀な使い手。
侯爵家の長男、ハイド・ベルクラークだ。
エルシーが八股をかけたうちの一人で、淡い青髪の儚げな美青年だった。
セレーニ国では、とある宗教を信仰している。
しかし、客観的に見ると、教義が厳しく、選民思想に満ちた内容だ。
獣人差別の正当化にも使われていた。
(あの国の国民は疑いもなく信仰しているけれど、『セレーニ国民以外は家畜だから何をしてもいい』というぶっ飛んだ内容なんだよね。引くわ~)
そんな教えを広める神殿の次期後継者だったのだから、今の状況は彼にとって屈辱的なものだろう。
メイダンや私に気づいた御者台の獣人が近づいてくる。
「なんの用だ?」
彼にはメイダンが対応した。
「その人間はどうしたんだ?」
「ああ、こいつか。荒野を抜けた先の関所で捕獲した。セレーニ国民のようだったからな」
他のメンバーはどうしたのか、彼を監視していた者は何をしているのか……
疑問は山ほどある。
荷台の檻に入れられたハイドは、無気力状態で視線を彷徨わせていた。
「売り先は決まったいるのか?」
「いいや、まだだ。だが、洗えばなかなかの容姿だから、売り先はいくらでもあるだろう。セレーニの人間に恨みを持つ獣人なんて山ほどいるし」
二人が話している間に、私は檻に駆け寄ってハイドに話しかける。
前の体の持ち主であるエルシーとは違い、私は彼に会うのが初めてだけれど……
「ハイド、聞こえる?」
私の呼びかけに、ピクリと反応するハイド。
彼はゆっくりと首を動かしてこちらを向き……小さく口を動かした。
「エルシー? ……いや、違う。君は……誰?」
私は、ハッと目を見開いた。
(『誰』って? どういうこと?)
ハイドは、私がエルシーではないと気づいているの?
混乱する私の前で、檻の扉が開かれた。いつの間にか、御者が近くに来ている。
「おい、下りろ」
御者はハイドを引きずり下ろして言った。
自力で立てない彼は、地面に投げ出される。
私は慌ててハイドに駆け寄り、彼の体を担ぎ上げた。
来る前にお酒を飲んできたせいか、体に力がみなぎり、簡単に持ち上げることができる。
「旦那も物好きだな。人間集めでもしているのか? 俺の方は助かるが……」
御者がメイダンから白い袋を受け取って懐にしまう。あれ、お金だよね?
(もしかして、メイダンが助けてくれたの?)
期待を込めて彼を見ると、フンと目をそらされてしまった。
「とりあえず、そいつを連れて帰るぞ」
彼は、私からハイドを引き剥がして背負う。
身長的に、その方が助かるかも。
私だと、ハイドを引きずる形になってしまうので……




