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ザッピング  作者: 青井星二
9/17

ザッピング


         5


 学校に着くと校舎裏に自転車を停めた。エレベーターで上に上がり、まっすぐ情報室へと向かう。

 教室に入ると、既にパソコンの前に座っていた部長の彩芽が、声を掛けてきた。

「よぉ! シオ、おっはよ~!」

 挨拶もそこそこに、空いていた一番隅のパソコンの前に座った。

「秋の学祭のポスターって、できてる? できてたら、インジャナのとこに持っていってよ。あ、その前に、でき具合を見ないとね」

 まずはポスターの仕上がりをチェックするわけね。

 いいわよ。すぐにカバンの中のUSBメモリーを出して、セットする。

「これだけど、どう?」

 モニターを覗き込んだ彩芽が歓声を上げる。

「うっま~い! さすがシオね。プロのイラストレーターの人に注文したみたい!」

 その声にスーちゃん、三木ちゃん、蘭ちゃんが、こっちに集まってきた。

 スーちゃんが画面を覗き込む。

「あっ! 可愛い! 神崎さんの絵の腕前って、ホントにプロ並みですね!」

 ふ~ん。

 スーちゃんは、パラレルワールド移行前と同じセリフかよ。

 釣られて三木ちゃんも覗き込む。

「ホントだ。凄い!」

 ふだん口数の少ない三木ちゃんが言葉少なに褒めてくれた。それも、にっこり笑って。珍しいし、嬉しい!

 でも、どこか、パラレルワールド移行前とは微妙に違う気がする。

 みんなの性格も表情も顔も、変わっていない。けど、ここはパラレルワールドだから、ほんの少しずつ違うんだろうな。

「やっぱ未来のスーパー・イラストレーターだね! よっ! 神崎画伯!」

 半分は茶化したような口調で、蘭ちゃんも褒めてくれた。

 この人はパラレルワールドでも、やっぱりお調子者だ。

「文化祭ポスターの学校承認エントリーは夏休みいっぱいだよ」

部長の彩芽は、さらに言葉を続ける。

「ほら、早くプリントアウトして、インジャナにポスターを提出してきなよ」

「じゃぁ、すぐに出してくるね。どうせ感想はまた『いいんじゃないのぉ?』だろうけどさ。たまには褒めるとか別の挨拶をしてほしいよね」

 自分のパソコンで、ポスターを印刷にセットする。

 次に情報室のレーザー・プリンターから出てくるポスターを取りに行く。

 これでよし!


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 すぐに早歩きで二階奥の教員室に行く。

 インジャナは作りかけのプリントをパソコンで開いたまま、ぼうっとして鼻毛を(むし)っていた。

 パラレルワールドでも、インジャナはやっぱり、小汚い。

「あのう、占い部の文化祭用ポスターが完成したので、持ってきました」

 インジャナはポスターを一瞥すると、やる気の全然なさそうな態度で受け取った。

「ン? ああ。まぁ、いいんじゃない?」

 パラレルワールドでも、まるっきり同じ動きかよ。安定しているといえば安定しているな。

「先生、たまには、素敵な絵ですねとか、褒めてくださいよ。モチベーションが下がるから」

「そうかぁ? まぁ。いいものは、いいんじゃない?」

 ったく。ボキャブラリーが少ないんだから!


         7


 提出の後は、彩芽が仕切って、文化祭の持ち場を決めた。

 三木ちゃんは姓名判断、蘭ちゃんが星占い、スーちゃんが筮竹(ぜいちく)だ。

 私は似顔絵で、全員の似顔絵を描かされた。

「あんたの水晶玉占い、全然、当たらないのよね」

「そんなこと、ないもん。多少は当たるでしょ?」

 アタシは頬を膨らまして反論した。

「そんなこと、あるの! 見掛け倒しの占い師ファッションだからなぁ」

「まぁ、ファッションから入ったのは認めるけどさ。でも、酷くない? そこまで貶すことないじゃん」

「そもそも、当てずっぽうで適当な話を作っているのがバレバレなんだから。水晶玉に映った光景を見てさ」

「イメージよ、イメージ。彩芽ったら、インスピレーションを、てんで理解してくれないんだから」

 アタシの反論に、めんどくさそうに彩芽は指示を出した。

 それも事務的に。

「わかったから、とりあえず全員の似顔絵を描いてみてよ」

 あまり変わらない彩芽の毒舌を聞いて、今度は私から先に一人ずつ指名して私の席の前に座らせた。

「そう。じゃぁね、一人ずつ私の脇に座ってね。まずは彩芽だよ」

「可愛く描いてね。まぁ、アンタなら、盛るのはお手の物だろうけどね」

 彩芽を私の横に座らせると、ペン・タブレットで似顔絵を描いた。顔もしっかり観察した。

「じゃあ、描くわよ。まず髪はストレートのロングね」

「うん。天パなしの長い髪ね」

「顔は丸くて、眉毛は、わりかし三日月っぽくて目は、ちょっと垂れぎみだね」

 ペンタブレットで、さらさら彩芽の顔を描いた。

 できあがりを見て、彩芽が喜ぶ。

「可愛く描けているわねェ。一割ぐらい盛ってる?」

「うん。見たとおりだと、もっと可愛いよ! って怒る人が、ときどきいるからね」

「へぇ、そうなんだ。なるほどね」

 彩芽が(うなず)く。

「かといって、盛りすぎると似てないって文句付けられるし。その人の一番可愛い表情を上手く捉えるのが、ポイントかな」

「やっぱ、あんたはホンモノの絵師だわ」

 めちゃめちゃ褒めてくるな。彩芽。悪い気はしないよ。

「じゃあ、次は仲良し三人組の番だね」

 彩芽のひとことで、三人が一斉に私を見た。

「まずは、三木ちゃん、こっちに来て、座って!」

 私に促されて三木ちゃんが私の隣に座った。

「私は、そんなに綺麗じゃないですよ」

「そんなことないわ。三木ちゃんは、顔は逆三角形で、目は二重、髪はショートボブか」

「ただの、おかっぱですよ」

「でも、ちょっとボーイッシュだね」

 さらさら描いて、三木ちゃんに見せる。

 三木ちゃんは頬を紅潮させて小さな声で喜びの声を上げた。

「わぁ、可愛らしい。私ってこんなに綺麗だったかしら」

 充分に可愛いってば。

「次はスーちゃんね! はい、こっちに来て!」

「は〜い! 私も綺麗に描けるかしら」

 ちょっと不安げに眉を寄せた。

「大丈夫よ。任せなさい! 丸顔で彫りが深めで、目は、ぱっちり大きいね」

「二重ではありますね。そんなに目が大きいかな?」

「大きいわよ。ぱっちりしてるじゃん。睫毛(まつげ)が長くて」

「そお? あとは、お鼻と口ですね」

「唇は、ちょっと、ぽってり気味。髪はツインテール。はい、できたわよ!」

 さっと描いた線画をスーちゃんに見せたら、大喜びだ。

「素敵! まるでアイドルみたい!」

 充分に、あんたはアイドル顔だよ。今年のミス那由佗高校の最有力候補なんだし。

「最後は蘭ちゃんだよ。こっちに来て!」

 仲良し三人組の最後の一人を私の隣に呼ぶ。

「は~い! 神崎さん、可愛く描いてくださいね!」

 ブスに描いたろか!

 なんて虐めちゃいけないわね。

 可愛い後輩だしね。

「任しときな! あんたは卵形の輪郭で眉毛は細め。目と唇は小さく纏まっているわね。ゆるふわで茶色いパーマっ毛って天パだったわよね。証明書は取ったんだっけ?」

「あ、神崎さん、知ってたんですかぁ? 黒染ストレート・パーマを掛けるか、証明書を取るか、どっちかにしろっていわれて、証明書にしたんですよね」

 やべぇ。パラレルワールド移行前に聞いた話を振っちゃったよ。

 でも、とりあえず怪しまれなかった。

「はい、できたわよ。どうかしら」

雑談しながら、ペン・タブレットはちゃんと動かしていた。我ながらバッチリ!

「うわぁ、ヤベェ、ヤベェ。マジ、可愛いじゃん!」

 お調子者の蘭ちゃんも、テンション上げ上げだ。

「シオ、仲良し三人組の分ができたら、最後はあんただよ」

 部長らしく彩芽が仕切る。

 へいへい、分かってますって。

 生徒手帳の写真を見て描くんでしょ? 自画像を。

 こうして午前中の作業は、細かいところではズレがあるものの、ほぼパラレルワールド移行前と同じように進んでいった。

 私の自画像を描き上げたところでお昼になった。

 これまで、あまりパラレルワールドから外れた振る舞いをしたら、時空が壊れてしまうのではないかと不安だった。

 それで、細かい発言は変えても大まかな流れを狂わさないように気を付けていた。

 でも、それは気にしすぎってものかもしれない。

 みんながお弁当を出すとき、ちょっと違う動きをしてみようかな。

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