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ザッピング  作者: 青井星二
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11/17

ザッピング


10


 家に着くと、マミーがハンバーグを焼いていた。

 例によってランチの残り物だろう。

 マミーは貧乏臭いけど、世間的には〈残り物で上手に夕飯を作る、しっかり者〉という評判になっている。

 私は、そそくさとマミーの作った特製ハンバーグ定食を食べた。

「ご飯のお代わりは、いいのか?」

 同じくハンバーグ定食を、もそもそ食べながらダディが私を覗き込むようにして尋ねた。

 私は大食らいの一人娘って認識みたいだ。

 でも、今日は、舜くんの頭にどうやってバレずに水虫薬を付けるか――で私の頭はメモリー・オーバー。それどころじゃないんだってば。ごめんね。

 自室にさっさと入って、ベッドに仰向けに引っくり返った。

 さぁて、どうするかな。

 まず、液体タイプの水虫薬はスーちゃんのお父さんが使っているヤツを選んだら使う必要がない。

 それが品切れだと、顎に垂れちゃうから、万事休すだ。

 スーちゃんのお父さんから聞いたサラサラになる軟膏だと、どうかな。

 塗ったことがバレなきゃ、取り敢えず、OKだ。

 とにかく、注意を他に引き付けて、塗ったと気付かせないように工夫するのが、ポイントだ。

 私はクローゼットから、ハンカチを一枚、取り出し、洗面所でちょっと濡らして、頭に当ててみた。

 水が一雫(ひとしずく)、頬を伝った。

 もう少し、濡らす量を加減しないと、バレるな。塗ったところがサラサラになる軟膏があれば、そっちのほうがいいな。

 でも、なければ、液体タイプの水虫薬でも仕方ないか。

 さて、舜くんの気を逸(そ)らすには、どうするかだな。

 私は再度、ベッドにごろりと寝転んだ。

 傍らには少女マンガが一冊。

 ぼうっとしながら、パラパラめくる。

 初恋が実ってファースト・キスをする話か。どっからどこまで、ありきたりの恋バナだなぁ。

 恋の話に花が咲くと。

 ん? 待てよ。ファースト・キスか?

 私と舜くんは那由多高校の入学式で出会っていた。

 舜くんは、めちゃくちゃタイプだからって私のクラスを探して、告白してきた。

 私も舜くんがタイプだった。なんたって、イケメンだもん。

 一緒に映画に行ったり、外人墓地の辺りを散歩したりして、デートを重ねていた。

 手は繋いでも、キスは、まだだったな。

 お互いに怪しい雰囲気になると、パッと離れちゃったりして、踏ん切りがつかなかった。

 この際、唇を許すか。

 ファースト・キスなら、間違いなく、水虫薬を塗る瞬間に、気を逸らすことができるだろう。

 道端はダメだな。人の目がある。

 カラオケ? 余計にマズイ。

 私の音痴な歌で百年の恋も覚めちゃう。

 二人っきりになれて、雰囲気のある場所を選ばなくては。

 デート・スポットを紹介するムックがあったな。

 本棚からムックを探して取り出した。

 よし、上手くいきそうな場所を探さないと。

 横浜のデート・スポットと。

 う~ん。パラパラ捲って、あ、あった。

 桜木町の、でっかい観覧車!

 ここで一番上まで来たら、計画を実行しよう。

 作戦は、決まった。よし、ザッピングで、二つ目のパラレルワールドに行こう!

 目を閉じて、両手をクロスさせて叫ぶ。

「ザッピング・オープン!」

 バンとモニター画面が現れた。

 さて、今回は二つ目のパラレルワールドへの移行だ。今は一つ目のパラレルワールド。

 画面をドラッグして、次のパラレルワールドへ移る。

 カシャッ! 画面は変わるけど場所は私の部屋のままだ。

 クローゼットからハンカチを出して持ってくから、場所は部屋でよしと。

 次に時間だね。

 二〇一八年八月十五日朝七時三十分に移動したら、ダディとマミーに漂白剤を掛けて、怒られた時間だ。

 八時四十分ごろだと玄関を出て自転車に乗っている。

 家の喫茶店を抜け出したあとの時間で、玄関を出る前か。

 それなら、2018:8:15:08:30にセットだ。

 画面がクルクル変わって、朝日が差し込む私の部屋になった。

 よし、飛び込むぞ!

 ヤー!

 ブーンという音がして、私は二〇一八年八月十五日朝七時三十分の自分の部屋に転がり出た。

 制服に着替えた。

 クローゼットを開けて、中の棚をまさぐる。

 ハンカチを出さないとね。

 ん? 花柄のガーゼ・ハンカチがあった。

 これは夏休み前にバーバがくれたやつだ。

 バーバとは母方の祖母だ。

 喫茶店の初代店主だった父方の祖父は数年前に亡くなり、父方の祖母は介護施設にいる。

 でも、母方の祖父母は八景島の近くに住んでいて、ときどきマミーの様子を見に来る。

 この夏休みは、まだ来てないけどね。

 ガーゼのハンカチなら、サラサラになる軟膏も塗りやすいな。

 液体タイプの水虫薬しか手に入らなくても、染み込ませれば済む。

 よし、これを持っていこう。

 四つ折りにして、上の面に塗って、二つに折ろう。ポケットに上手く収まるな。

 私はそこに水虫薬があるつもりでハンカチに塗る仕草をして、半分に折って、制服のスカートの右ポケットに突っ込んだ。

 よし、外に出よう!

 台所に寄って、ハーバーを取るとマミーと鉢合わせしそうだから、抜き足差し足で階段を降りよう。

 こっそり玄関を出た。

 自転車は、置いていこう。

 桜木町の大観覧車に行くのなら、邪魔になるからね。

 そのまま駅前まで走った。

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